三十七話 家と彼女と植物少女
簡単なあらすじ『アルワヒネを連れて、さあ帰りましょう』
俺とジェリアとスライム達、そして頭に葉の生えた少女型の魔物アルワヒネはコルリスの待つ我が家へと帰るため、歩を進めていた。
アルワヒネは途中までミドルスライムに乗って一緒にぼよんぼよんし、次はチビちゃんに乗ってぶるんぶるんと揺れていたが。
最後には俺とジェリアに片方ずつ手を繋いでもらい、中空でぶらぶらするという移動方法を選んだ。
何と可愛らしく、お転婆な魔物である事だろう。
後は誰彼構わずダーリンと呼ぶのさえ止めてくれれば、どんなに嬉しい事か……まあ、可愛いから良いか。
ジェリアはそれを見て、微笑みながらも時折、悲しげな表情をする事があった。
もしかすると彼女は、楽しげに揺れる少女の割と気の毒な現状を哀れんでいるのかもしれない。
まあ、〝あの話〟はあまり信じてはくれなかったジェリアではあるが。
そんな彼女でもアルワヒネが実際目の前にたった一匹でいれば、少女の身に何事かがあったのだと推察するのは容易であろう。それを想像して同情するのも分かる。
……そう考えれば確かに、可哀想ではあると思う。
しかし、それよりも俺は、葉に書かれていたメッセージの方が気掛かりだった。
『暫く帰ってくるな!』とは、一体いつまでなんだろうか?
せっかくコルリスにこの子が慣れたのに、すぐサヨナラ……と、なってしまっては彼女が更に落ち込んでしまうので、そこは明確にしておきたい所だ。
なんなら明日また行ってみるか?
いや駄目だ。今の俺達じゃあまだ無理だったな。
ちなみに、移動中にそれとなく、そう言った話をジェリアにしてみた所。
眉唾が過ぎると思っているのか彼女はもう、あのメッセージを気にしてはいないようだった。
例の話のように……
まあ良い。
すぐ帰ってしまったのならばその時はその時だ。
この子とコルリスが触れ合う事は、彼女にとって良い経験、良い修行となるのには変わりないのだから……
で、それが本当の事となり、実際にコルリスが落ち込んでしまったら。その時は再び俺達で彼女を元気付け、また次の魔物を探せば良い。
そう思い直すと同時に、これ以上悩んでいても意味は無いとも気が付いた俺は、手をぶらぶらとさせアルワヒネを笑顔にしつつ、ジェリアと歩幅を合わせて歩く事だけに集中した。
暫くそうしていると自宅と共に、外で何かしているアートード(子)とコルリスの姿が見えてきた。
一人と一匹が何をしているのかはイマイチよく分からないが、大方、ケロ太といた時と似たような事をしているのだろう。
しかも、今回はまあまあ上手くいっているらしい。コルリスは満足そうに身体を動かしており、アートード(子)も満更ではなさそうだったからだ。
……あ。
その手があったか。
ある事に気が付き、はっとした俺。
そして隣にいるジェリアも眉尻を下げ、「はっ!今ある事に気が付いてしまった!」とでも言いたげな表情をしている。
さっきもこんな風に俺達の表情が被ったような……
と、思っていると、その時のようにまたジェリアと目が合ったので、俺は彼女に自身の考えを話してみる事にした。
「あのさ、ジェリアちゃん。
もしかして魔物探し……」
「……ええ。
やらなくてよかったかもしれないわね」
ジェリアは俺の言葉を遮りそう言う。
……が、それこそが俺の言いたい事でもあったので不満はなかった。
子供のアートード。
アレは俺達に慣れている魔物かつ、まだ誰とも主従関係を結んでいない魔物でもあったのをすっかり忘れていた。
何となく我が家のマスコット兼ペットみたいなイメージと、失礼だが絵面的にコルリスに似合わないイメージがあったためか、無意識にもコルリスの魔物候補から外されていたアイツだが……
あの様子を見れば、むしろ最有力候補だと言えるだろう。
そうと決まれば、俺からあの親子に話してみるか……上手くいくと良いが。
「でも……そうなると……」
その時ジェリアが目線を下に向け、また困ったような顔をしてそう言った。
なるほど、『そうなるとアルワヒネの立場が無くなってしまう』とでも言いたいのだろう。
でも、コイツは今の所あくまで『ただの家なき魔物』であり、保護する事には変わりないのだからそんな心配は無用ではないだろうか?
それに、この子がコルリスの魔物となってくれる保証はなく、ただの居候となる可能性だってあるのだ。
となれば立場がどうこうなどと、考える必要も意味もなくなるであろう。
それに、我が家に居候しているのは他にもいるのだし……そう思った俺は、ジェリアへとこう告げた。
「ま、まあ良いんじゃない?
どの道連れて帰る予定だったんだしさ。
それにもし、この子もコルリスの魔物になってくれるんだったら……それはそれで良い事じゃないか。
コルリスは同時に二匹の魔物の親になれるんだからさ」
「まあ……そうかもね」
そう、ジェリアが俺の意見に肯定していると……
突然アルワヒネは俺達の手を振り解き、コルリスへと向けて駆け出して行った。