三十五話 夢からの贈り物
簡単なあらすじ『救世主はやっぱりスライムがお好き』
あれから3時間以上は経過しただろうか……それ程までの時間を消費してやっとキングさんから解放された俺とジェリアは。
彼が去った後も集会所兼酒場にまだ居座り、そこでぐでーっとしていた。
「疲れた……」
「あの人、やっと満足したのね……やっと……」
その理由は、上記の発言からも察せられる通り。
キングさんがチビちゃんを観察し終えるのをずっと
待っていた俺達は〝暇過ぎて〟疲れてしまったのだ。
「クボタさん。今日は一旦帰りましょう。私、横になりたいわ」
ジェリアはテーブルに突っ伏したまま俺にそう言う。
こちらもまたそのような格好をしていたので、行儀の悪い彼女を責める事はしなかった。
それを聞いた俺は少し悩んだが……
現在時刻はおおよそ午後3時を回っているため。
これから再び別の地方に行くのも危険だし。
野菜を買いに行っただけの俺がこれ以上遅く帰るのもコルリスに不審がられると思ったので渋々、その提案を受け入れる事にした。
「んー……仕方ない、そうしようか。
ていうか、またウチ来るの?」
「来るどころか今日も泊らせてもらうわ。コルリスがこの野菜で作る料理、食べてみたいもの」
ジェリアはやっぱり突っ伏したままそう言う。
別に構わないが、いつもいつも俺達の家に入り浸っていて家族には何も言われないのだろうか?
まあ、大丈夫だから入り浸っているのか。
そう思い、〝それ〟について思考する事を止めた俺は、側を通った店員に俺達の支払うべき代金を確認するよう頼んだ。
「続きは明日か……早く見つけないとな」
俺は呟いた。
結局、今日は何の成果も得る事が出来なかったのだ。
早くコルリスの相棒となる魔物を見つけ、彼女にそれを育てる楽しみと依頼への同行許可をプレゼントしなければならないにも関わらず。
ただまあ、自分で言うのもアレだが。
今日は頑張ったのでギリギリ良しとする……としよう。
ドロップ地方へと赴き、そこで狐に……いやトロールにつままれ。
その後恩人による、長時間のスライム観察にたった今耐え切ったのだから……
いやしかし大変だったな、特に最後のヤツが。
「まあ、今日は私達充分頑張ったと思うから良しとしましょう?気持ちは分かるけど、そんなに焦っても仕方ないわ」
ジェリアは……やっぱり突っ伏しながらそう言った。彼女もまた似たような事を考えていたみたいだ。
そして、他者から俺は焦っているように見えるらしい。自分では全く気が付かなかったが、そう見えるのならばそれは事実なのであろう。
まあ実際、コルリスのためと割と急いて物事を進めようとしていたのは間違いないのだし。
「クボタさん……大丈夫?」
気付けばジェリアは既に顔を上げており、ほんの少し眉尻を下げ、俺を直視していた。
「コルリスはクボタさんがこうして自分のために動いてくれていると知れば、成果なんてなくてもきっと喜んでくれるはずよ。
だから貴方は何一つ心配する必要も、そう急ぐ必要もない。もっと肩の力を抜いて、じっくりと探していけば良いのよ。
でないと、見つかるものも見つからなくなってしまいそうじゃない?」
続け様に、かつ優しく嗜めるように、彼女はそう言った。
確かに、ジェリアの言う通りだ。
こんな状態で魔物探しなんてやってもあまり良い結果を出す事は出来ないだろう。
魔物のチョイスを間違えたり、焦燥に囚われ、その最中に負傷してしまうかもしれない。そうなってしまっては元も子もないのだ。
「……そうだね。ありがとう。お陰で少し気持ちに余裕が出来たような気がするよ。
じゃあ、今日は帰ろっか」
本当に、少し気が軽くなった俺は彼女に微笑みながらそう返す事が出来た。
そうして、俺達はぐでーっとしていたスライム達をペチペチと叩き「帰るぞ!」と言って起き上がらせ。
(寝転がっていたのかは不明だが)
漸く戻って来た店員に代金を支払い、店を後にした。
……時だった。
店を出た直後の俺達が「……だ~り~ん」と言う、久保田トシオに向けられたであろう弱々しい声を聞いたのは。
「ん?あっ!この子は!」
「それよりクボタさん!今この子貴方の事……」
「やっぱりあれは夢じゃ……って。
ちょ、ちょっと待ってジェリアちゃん!
違うから!誤解だから!」
その声は店の壁に寄り掛かり、ぐったりとしていた。
頭から植物を生やした一人の少女から発せられたものだった。
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