三十二話 白昼夢? その4
簡単なあらすじ『凄そうなトロールは様子がおかしくなりました』
元緑色で現在は真っ赤な顔をした女性はしゃがみ込み、頬を抑えたまま全身をゆっくりと左右にふりふりしている。
まるで、足元にいる子猫の仕草が可愛過ぎて悶絶したOLのようだ。
俺とスライム達はその行動が何を意図しているのか全くもって理解不能であったが、とりあえず話しかけてみる事にした。
「あのー、どうかしたの?」
「ハッ!あ、いヤ……何でもないんダ!それよりオマエ!もっと近くに来て顔を見せてくレ!」
彼女がそう言うので三歩前進し、今俺がいる位置は台座まで約1m程となった。
そうすると彼女はバンッ!と音を立て、台座の縁で「透明な壁があって前に進めない」タイプのパントマイムみたいな事をしながら。
俺をまじまじと観察し始める……その音に俺は驚き、ぴくりと跳ねてしまった。
彼女が暫くそうしていたので、俺も見つめ返していると……彼女の手から、何やら波紋のようなものが発せられている事に気が付いた。
そして台座の周囲に、空気の層みたいなものがある事にも。
アレは何だろう?もしかすると彼女は……あそこから出られないのだろうか?
そう思い、俺は視線をそちらに移す。
そこには空気で出来た壁のような、結界のような、とにかくそんな何かが、確かにあった。
そして時折、その壁は森の一部をぼんやりと映し出す……多分ではあるが、この子はあれを見て俺達の事を知ったのだろう。どうして会話までが可能なのかは分からないが。
……なるほど。
で、ぼんやりとしてて俺の顔まではよく分からなかったけど、真近で見てみた所何かがあった(?)んで、ああして狼狽えている、という事なんだろう。
しかし、俺の顔がどうしたと言うのだろうか……まさか、これが偽りの肉体であると気付いたとか!?
「スゲー似てるけド、何か違ウ。じゃあ、間違いカ……あ!ご、ごめんナ!ちょっとダ……知り合いに似てたからサ!」
彼女は慌てた様子でそう言う。
どうやら、俺の正体に気付いたワケではなかったようだ。
「そ、そっか」
「うン……本当ゴメンナ、ジロジロ見ちゃっテ。」
その後、少しばかりの沈黙が続いた。
彼女は顔を赤く染めたままだし、それを直視していると何故だか分からないが、俺まで恥ずかしくなってきたからだ。これが共感性羞恥と言うものだろうか?
そこで、何となしにスライム達へと視線を送る。
彼等はぷるんともせずにその場で大人しくしていた。
正直、この沈黙をどうにかして貰いたかったのだが……よくよく考えてみれば、口がないコイツらには土台からして無理な相談だったな。
「あ、あのサ。謝っといてもっかいって言うのも悪いんだけド、そノ……よ、良かったラ、もう少しオマエの顔ヲ、よく見せてくれなイ……かな?」
すると、またお互いが黙り込んでしまいそうなくらい小っ恥ずかしいお願いを口にして、俺達の間に流れた沈黙を破ったのは彼女だった。
「え……あ、わ、分かった」
だが、俺は素直にそう返し、もっとよくこの顔を見せてやるため台座にもう少し接近する……
俺の顔も赤くなっているんだろう。
顔が熱い。このまま破裂してしまわないかと心配になってきそうな程に熱い。
対する彼女もやはり真っ赤な顔をして、こちらを見つめながら、まるで恍惚としているかのような表情をしていた。
そんなに俺は、その知り合いとやらに似ているんだろうか……?
そして、その知り合いとは、彼女をここまでおかしくさせるような人物だったのだろうか?
「本当、アイツに似てるナ……でもアイツじゃなイ。オマエは一体、何者なんダ?」
彼女はそう呟いた。
アイツ…………そうだ!
もしかしたらこの子はこれを作った野郎、自称神様と何か繋がりのある人物なのかもしれない!
「ねえ、その〝アイツ〟ってのはもしかして……うわっ!?」
俺がそう言いながら、彼女と俺とを隔てる見えない壁に触れた、まさにその時。
それが突然輝き始めたかと思えば、映像のようなものがそこに映し出された。
それを見るべく目を凝ら……
ポコポコポコポコ!
そうとしていると、足元からいきなり何かが飛び出して来た。
俺はそれにまた驚き、尻餅をついてしまう。
「何!?何!?……ん?」
一度はビビった俺であったが、〝それ〟を見て少し、落ち着きを取り戻した。
何故ならば、足元から突如現れたのは小さく可愛らしい、頭から植物を生やした沢山の少女達だったからだ。
恐らく、敵意は無いと見える。
そんな彼女達は心なしか、先程まで俺をじっくりと観察していたあの女性に似ているような気がした。
この子達も魔物なんだろうか?
まあ、ほぼ間違いなくそうなのであろうが……
「あッ、コラ!オマエ達勝手に出て来るなっテ!」
それを見た彼女は急に慌て始め、少女達に向けてそう言う。
しかし、小さき者達はそれを無視して俺の身体にぺたぺたと触れ、彼女と俺、そして映像へと視線を移動させた後に一言こう言った。
「だ」
「……え?」
「だ」って何なんだろう。
見た目通り幼いから、ひと言くらいしかまだ話せないとか?それにしても可愛いな。
「だ……だーりん!だーりん!だーりん!だーりん!」
いや違った。むしろ流暢な発音で少女達は俺へと声援を送るかのように、そう叫び始めた。
そして、それと同時に俺はある事を確信する……
「うわぁああああア!ソイツは違うんだっテ!ヤメロヤメロ!やめロ……やめてェ……」
相当恥ずかしいのだろう。彼女は自身のショートヘアを掻き乱しながら、そのような叫び声を上げた。
まあ、さっきまで『知り合い』だと誤魔化していた〝例の人物〟が。
この少女達のせいで彼女の恋人、もしくは夫だと、目の前にいるそっくりさんにバレてしまったのだからな。気持ちは分かる。
「だーりん」
そこで不意に少女達のうちの一人が。
俺の服の袖を引っ張りながらまた「だーりん」と言い、壁のようなものに映し出されている一つの映像を指差した。
俺は君のダーリンじゃないんだよ?
それはさておき、俺は少女の指差した映像に目をやる。
全身を使って『恥ずかしい』を表現している彼女の後方にあるため視聴にやや苦労したが、そこには二人の男女の姿が確認出来た。
彼等は大きな亀のような魔物と戦闘中らしい。
が、状況は芳しくないようで、岩陰に隠れて言い争いをしている。
ん?というか女性の方は、そこにいる彼女に随分と似て……いや、本人か?
…………突然、誰にでも察知出来るであろう程の強大な殺気のようなものが〝あるモノ〟から露出するのを感じた。
それを放っていた人物は、何を隠そう目の前にいる彼女であった。
〝それ以上見んナ……恥ずかしいだロ〟
彼女は、そう言った。
何気なく発せられた、見ればそうであろうと大変よく分かる普通の言葉だ。
しかし、そうであると知りつつも、それを聞いた俺は目前の人物を恐れるのではなく。
本能的に『畏れ』ていた。
彼女は今の俺達など絶対に敵わないような、強大な力を秘めている。絶対にだ。間違いない。
そうでなければ俺の中に湧き上がった、これまで一度たりとも感じた事のない感覚……
『天高くから急に放り出されたかのような、絶対的な絶望』のような感覚には、説明がつかなかった。
少女達がばたばたと倒れ、背後からも似たような音が聞こえた。
恐らく、スライム達とトロールまでもが、彼女の〝気〟に当てられ、気絶したのであろう。
ゆっくりと、意識が遠のくのを感じた。
俺ももうじき気を失うんだろう……な……
「ハッ!し、しまっタ!つい恥ずかしくなっテ……どうすっかナ、コイツラ……
そうダ!アイツに頼むカ!」
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