三十一話 白昼夢? その3
簡単なあらすじ『クボタさん、まだピンチ』
トロール達に導かれ、俺とスライム二匹が辿り着いたのはドロップ地方の最果てだった。
もう、こうなったら何でも来いだ。
むしろ鬼が出るか蛇が出るか、はたまたカワイイ少女が出るか。最後まで見届けさせてもらおう。
「おーイ!こっちだゾ!」
すると、再び姿の見えない彼女の声が聞こえた。
ただし、今回はそれが発せられている位置がなんとなく分かる。近くにいるのだろう。
漸くご対面か……俺は先程宣言した内容とは裏腹にまた緊張しつつも、声の主の顔を拝むため彼女がいるであろう方向へと歩を進めた。
「こっちこっチ!」
今度は彼女の声が正面の草藪から聞こえた。
直後、周りにいた沢山のトロールは俺達への過度な警護を遂にやめ、皆がいそいそとその草藪に入り込んで行く。
間違いなくこの先だ。この先に彼女はいる。
そう確信した俺は草を掻き分け、トロール達の後に続いた。
すると、そこには……もうなんと例えれば良いのか全然分からない程の、妙な光景が広がっていた。
先程俺達を取り囲んでいたであろう大量のトロールは、一度崩した陣形をそこで修復し、再びサークルを展開している。
彼等は皆、跪いて中央を見つめていた。そこからも分かる通り、全員が恭しい態度に変わっている、ような気がした。
そして、その視線の先には二畳程の面積しかない石で出来た台座があり、そこに立つ人物は……やっぱり活発そうな、緑色の肌をした女性だった。
……緑色の肌をした女性、だった。
「やっと会えたナ!さあ、もっと近くにおいでヨ!やっぱり久し振りに話すんだったら向かい合ってしたいからサ!」
と、彼女は言うが、ちょっと待って欲しい。
こちらは全く理解が追いつかないのだから。
いや、ちょっとではなくかなり待って欲しい。待て待て待て待て、これはどう言う事なんだ!?
遠目ではあるが、彼女は恐らくルーより少し背が高いくらいであろう。ルー以外にもこういったタイプのトロール(多分……でもトロールが来てるんだから、この人もそうなんだろ?)がいたとは驚きだ。
だが、それよりも気になるのは人語を話している事だ。これだけは全く理解出来ない。一体どんなからくりがあると言うんだ。
というか、そもそも彼女はどうやって俺達を見、この俺と会話していたのだろうか?トロールにそこまでの魔力やら何やらがあるはずが……
「どうしタ?急に固まっちゃっテ」
彼女は言う。
どうやらここで俺の考察タイムは終了らしい。
まあ、後10年程時間を貰っても答えは出て来なかっただろうし、強制終了させられても何ら問題は無いのだがな。
「あぁ、ごめんごめん。すぐ行くよ。ていうか……俺達が〝皆〟より先にそっち行っちゃって本当に良いの?」
貴女に対してあんなに礼儀正しくしているトロールよりも先に、ただのゲストである俺達がそちらに行っても良いのですか?
という意味を込め、俺はそう言った。
後で彼等に『この礼儀知らずめが!』と、ぶん殴られても困るからな。
「良いんダ。コイツらオレの所に来てくれるシ、〝けーい〟まで払ってくれるのは嬉しいんだけド……ずっとこんな感じだからナ」
彼女は少し、困ったような口調でそう言った。
もしかすると彼女は、彼等よりももう少しフランクに接してくれて、尚且つ会話も出来る……
そんな相手が欲しかったからこそ、俺達をここへと招いたのかもしれない。
そして、ニュアンスが少々変だった部分は恐らく、〝敬意〟と言いたかったのだろう。
これまた驚くべき事に、この子はある程度の教養まで持っているようだ。
それと、どうやら彼女はこのように扱われるのを望んでいないらしい。
なのに、彼等は自発的にそうした……という事は、やはり彼女は強力な魔物であるに違いないだろう。
考えているうちに緊張はますます強く、大きくなる。
これを身の内から排除する方法は、『頭空っぽにして全部彼女の言う通りにする』しかなさそうだ。
そう思った俺は「もう何も考えない……もう何も考えない……」と呟きながら、チビちゃんとプチ男を伴い、台座へと進んだ。
先程俺達がいた位置から台座までは約50m程あったが、もう後10mくらいだ。
そこに立つ者の顔も漸くはっきりと確認する事が出来る。
その顔は端正で美しく、ショートカットが良く似合っていた。
だがそれでいて、肉体は恐ろしい程に鍛え上げられており、まるで総合格闘家の持つそれのようであった。
あと……心なしか、ルーに顔立ちが似ているような気がする。
親戚か何かだろうか?
気になるので話の最中にでもそれとなく聞いてみるとしよう。
「……エ!?あ、エ!?」
そんな事を考えている時だった。
彼女の様子がさっきの俺みたいになった……
つまり、おかしくなったのは。
その顔はみるみるうちに黄色みを帯びたかと思えば、それを超えて真っ赤なものとなり、手と脚は物凄くぷるぷると震えている。
自分で言うのも何だが、まるで女学生が意中の人に話しかけられたかのような動きだ。
正直可愛い、と思ったが。
意味が分からないという気持ちの方が強く。
俺は直前で立ち止まり、頭上に?を浮かべているばかりだった。
「…………う、ウゥ、アァ、ウゥ」
そしてとうとう彼女はしゃがみ込み、赤く染まった顔を両手で抑えたまま、それしか言わなくなってしまった。
俺はプチ男とチビちゃんを交互に見、これはどういう事なのかと彼等に目で問いかけてみたが、二つの球体の頭上にもまた俺と同じマークが浮かんでいる事を知り、彼等だけの力では……
もとい、俺達だけの力では。
どう足掻いても正解に辿り着くのは不可能だと悟った。
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