三十話 白昼夢? その2
簡単なあらすじ『トロールに誘拐(?)されてクボタさんピンチ(?)』
トロールの集団は時折現れてはパタパタと飛び回る虫達を気にすることもなく、淡々と行軍している。
まあ、斯く言う俺達もその中にいるのだがな。
だがしかし、これは罠である可能性が高く、一刻も早く逃げなければならないのだが……
彼等は俺達を円形に取り囲んだまま移動しており、そのまるーい隊列を崩す気配は丸で……ではなく、まるで見えない。
つまり、脱走のチャンスは今の所ゼロなのである。
どうしよう、マジでどうしよう……このままだと俺達は、コイツらの宴会のつまみにされてしまう……
ただ、そうやって未だにビビり散らしている俺とは反対に、ぷるぷるのコンビは最早緊張すらしていないようだ。
チビちゃんはのんびりとした様子でころころ転がって前進を続け、プチ男に至っては雌のトロール達とふざけ合いながら、彼女達に代わる代わる抱っこされているのだ。見れば誰にだって分かる。
ちなみに、今こうしている間にも、その小さな球体を中心としたハーレムのメンバーは増え続けていた。
……そこから推察するに。
どうやら雌のトロール達は、自らの意思でアイツに接近しているらしい。
彼女達はそうしてプチ男に近付き、顔を押し付けてくんくんとそれの匂いを嗅いだ後、「可愛い~」みたいな感じの顔をしてアイツを抱き締め続ける……
ああ、分かった。
多分、いつもルーと一緒にいるから『ちっちゃくて可愛いトロールの香り』みたいなものがアイツからも発せられているのだろう。
そう、だからこそ、彼女達はあんなぷるぷる野郎にメロメロなのだ。
……相手がトロールとはいえ、ほんの少し羨ましい。
と言うか、その理屈なら俺もそうであるはずなのだが。でも、彼女達は俺の方には来ない……じゃあやっぱり、ただアイツが人気なだけか?
そうか……ならばもう、この話は止めよう。
悲しくなってしまうだけだから。
〝さっきから思ってたんだけどサ、オマエすげースライム好きなんだナ!〟
するとまた、姿の見えない彼女が話しかけてきた。
「え!?あ、え?あ、あぁ、コレは違……いや、もうそれで良いや、その通りだよ」
俺はまるで職務質問の最中、見られたらヤバい物を持っている事に気付いたかのような様子でそう返した。
姿の見えない彼女には、勿論話し出す予兆も無い。
だから毎回が『突然話しかけられる』状態であり、ビックリしてこのような口調になってしまっているのだ。恥ずかしながらな。
それにしても、この子は一体何者なんだろう?
先程「オレの所においでよ」とか何とか話していたが、この状況でそう言うからには恐ろしい魔物……もしや、この子がトロールの親玉みたいな存在だとでも言うのだろうか?
しかし、知っているのは声だけとは言え。
とてもそうは思えないのだがな……
〝やっぱりそうカ!それは良い事ダ!〟
彼女は俺がスライム好きだと知り、けたけたと笑いながらそう言う。何が良い事なのかは分からなかった。
……いや、待てよ。
そもそも彼女はこうやって人語を話しているのだし、魔物じゃない可能性だって充分にあるはずだ。
しかしそうなると、トロール達が集まっている理由がなくなるよな……?
んー、分からない。
彼女の事が全く分からない。
ん?魔物じゃない、人、彼女。
そういえば俺は…………あ!!
「あの、えっと、聞こえてるよね?
実は俺と一緒にもう一人、この森に入ってる娘がいるんだけどさ。
トロール達って、その娘の事も襲わない……よね?ね?」
俺は何処かにいるはずである、謎の彼女に向けてそう言った。
色々と考えていた結果ジェリアの事を思い出し、彼女が心配になったのだ。
ミドルスライムが側にいるとは言え。
この集団くらいの数のトロールと対峙してしまったのならば、とても太刀打ちなんて出来ないだろうからな……
〝ンー……コイツらは見てないっぽいナ。
だからダイジョーブだと思うゾ!〟
数秒後、彼女はそう言った。
やや信憑性に欠ける答えだが、少なくともトロール達とは遭遇していないのだろう。
ならばまあ、安心と言える……かもしれない。
ひとまず、罠(仮)に掛かったのが俺とスライム達だけで本当に良かった。彼女まで危険な思いをする必要はないのだから……
「そっか。良かった……」
〝……オマエ、良い奴だナ!オマエとは仲良くなれそうダ!〟
彼女は俺に向けてそう言う。
少女のような声色で荒っぽい口調という、妙な人物(かどうかもまだ分からないが)ではあるが、この子は結構、良い子であるらしい。
〝さテ……着いたゾ!〟
そうして目的地に到着した事を彼女の声で知った時、それと同時に潮風が俺の鼻腔へと舞い込んだ。
どうやらここは、ドロップ地方の最奥のようだ。
来たくて来たワケではないが、我ながらエラい所にまでやって来てしまったものである。
……さて、到着してしまったものは仕方がない。
この近くには俺達がいつも行くような場所よりも強い魔物が潜んでいるのは確実であり、どうせもう引き返す事は出来ないのだ。
そうとなればビビる自分は一旦捨て置き、本当の意味で彼等に心も、身体も委ねてしまおう……
つまり、ヤケクソってワケだ。
俺にも、もうどうしたら良いのか分からんからな。
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