二十九話 白昼夢?
簡単なあらすじ『首飾りを追うチビちゃんとそれに追い付いたクボタさん達。ですが、そこには大量のトロールが……』
向けられる視線は何十……いや、何百はあるかもしれない。
それ程までのトロールに、俺達は今囲まれていた。
確か、コイツらは今日結構な数の個体が移動しているのを確認されてたんだっけ……?
でも、あれはカムラ地方での話だったはず……それでは一体、何故コイツらはここにいるのだろう?
……いや、良い。
今はここから逃げる事だけ考えよう。
そうしてチビちゃんにしっかりと抱き留められながら、俺は現状を打開出来る策はないかと脳内を掻き回し、考えを巡らせる……
その時、ある声が聞こえた。
〝ダイジョーブ!ソイツらはそこにいる、デッカいスライムに渡したい物があるだけサ!〟
それは間違いなく、女性のものと思われる声だった。
もっと言うと活発そうで、そして今にも何かしでかしそうな、そんな声だ。
「え……?」
しかし、声の主は何処にも見当たらない。
ビビり過ぎて幻聴でも聞こえたのだろうか?
などと考えていると、不意に一匹の雌のトロールがこちらへと歩み寄って来た。
それを見た俺の額から一筋の冷や汗が頬を伝い、流れ落ちる。
だが、そうしている間にもトロールはどんどんと距離を詰めて来る……
『やるしかないのか!?』
そう思い、俺が構えようとしていると……
そのトロールの手に、チビちゃんの首飾りが握られている事に気が付いた。
(…………あの声の言った通りだ)
それを目にした俺がポカンとしていると。
緑色をした巨人はそんな俺へと首飾りを手渡し、その後特に何をするでも無く、ごく当たり前のように仲間達の元へと戻って行った。
〝な?大丈夫だったロ?〟
また、声が聞こえた。
確かに、確かに彼女の言う通りだった。
だとすると、これは幻聴ではないのか……?
まあとにかく、今一つだけ確かな事が言えるとすれば。
それは、『今は命を脅かされる心配は無い…………可能性が高い』と、言う事であろう。
「あ、あぁ……」
緊張が少し解れた俺はチビちゃんに首飾りを返しつつ、溜め息を吐くようにそう言った。
〝今日はオレが動ける貴重な日。
てなワケでコイツら、オレのためにわざわざ集まってくれてるんダ。
だから今日、ここでキミらを傷付けたりするような奴はいなイ……
そうだ!良かったらキミらもオレの所においでヨ!これも何かの縁サ!〟
すると、俺が返事をしたのに気を良くしたのか。
姿の見えない彼女は随分と楽しげな口調でそう言う。
しかし、いかんせん声ばかりの存在なので、そんな事を言われても、何処に行ったら良いのかさえ、全然分からなかった。
そして、スライム達も似たような事を考えているらしい。
チビちゃんは「どうするのコレ?」とでも言いたげにぷるぷるし、プチ男は「ねー」とでも言っているかのようにぷるっとしているのが何よりの証拠(?)だ。
……おや?
コイツら、もう仲良くなったらしい。
いや、もしかすると現在進行形で起こっているこのハプニングのせいで、吊り橋効果みたいな現象がコイツらの中に発生し、それで仲良くなったのかもしれない。
いつもこうやって同種と友好的に接してくれればどんなに嬉しいか……まあ良い。
今はとりあえず褒めてやろう。
そしてこの経験を活かし、プチ男には同種への攻撃的な態度を改めてもらうのだ。
……何言ってんだ俺は、馬鹿か。
緊張が解れたとは言え、今そんな事考えてる場合じゃないだろ。
〝何やってんダ?あそっカ!道が分からないのカ!だったらソイツらが案内するヨ!〟
……等と、くだらない事に思考を割いているうちに、彼女は俺達の直面していた問題に気付いてくれたようだ。
そうして彼女が声を発した直後、再び先程のトロールがこちらへとやって来た。
ただし一人&ぷるぷる二名の中で、俺だけはまだそのトロールに対して少々ビビっていたが。
とは言え、今更逃げるワケにもいかず。
とりあえずと、彼女の後に続く事を決めた。
そのまま連れられて歩く最中。
よくよく考えてみれば……
チビちゃんとプチ男にも理解出来ている(?)声を持つ存在ならば、その正体はほぼ間違いなく魔物であり。
だとするとこれは絶対に罠なので、どうにかして逃げなければと思ったのだが………
トロールは俺達を取り囲むような形で移動しており、その中心にいる俺達にはどの道、『彼等について行く』と言う選択肢しか残されてはいなかった。
「ヤバい……マジでどうしよう……」
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