二十八話 チビちゃんを追え!
簡単なあらすじ『チビちゃんの首飾りが奪われてしまいました』
ドラゴンフライに首飾りを奪われ、激昂したチビちゃんは凄まじかった。
それを尾に付けたまま街と反対方向に飛んで行くトンボ野郎を、巨大な球体はすぐさま尺取り虫のような動きで追い駆け始めたのだ。
そう言うとノロそうに聞こえるかもしれないが、いかんせんどデカいのでむしろめちゃくちゃ速い。
それはまるで、鉄砲水のようであった。
しかも、その爆進は周囲にある木々、そして魔物さえもを吹き飛ばしながら続けられている……
それを見た俺は、この子から絶対に首飾りを取り上げてはならないのだと学習した。
……まあ、そんな事はともかくとして。
「待て待て待て待て!」
「落ち着いてチビちゃん!チビちゃん!」
それをどうにか宥めようと、俺達もチビちゃんを追い駆ける。
しかし、巨大尺取り虫との距離は一向に縮まらない。いや、それどころか離されてしまっている。
非常にマズい。
このままでは、見失ってしまうかも……
「ハァ、ハァ……ク、クボタさん!
私そろそろ、限界……」
と、そこで。
とうとうジェリアが音を上げた。
まあ、この子は普通の人間だから仕方がない。
むしろよく頑張った方だ。
対して、俺も疲労こそ感じてはいたものの、まだ走れない事もなかった。
まあ、魔物のような肉体を持ち、常日頃鍛錬しているのだから、ある意味当然とも言え……いや!身体は関係ない!これは日々の修行で培った体力なのだ!
「仕方ない、か……
じゃあ、ジェリアちゃんはそこで待ってて!俺が連れ戻すよ!」
「ご、ごめんなさい……あ!それなら……!」
そんな彼女は何か閃いたのか。
そのような声を出した後、突然ミドルスライムを軽くぺしぺしと叩き始めた。
すると、そうされたミドルスライムは何と。
いきなりにも俺と、俺の頭上にいるプチ男をがっちりとその肉体でホールドする。
「あ!?お、おいっ!?何するんだ!?
いいからお前はジェリアちゃんの側にいろって!!」
「大丈夫、勿論そのつもりよ。
だから最後に、貴方達に力を貸すの」
慌てふためく俺の耳に、ジェリアの意味深な囁きが聞こえる……かと思えば、今度は。
彼女がそう言うと同時に、ミドルスライムは見覚えのある形へと姿を変え……そして最後に。
いつか見たあの投石器と同じ要領で体を動かし、俺達をチビちゃんに向けて放り投げた。
しかも思いっ切り。凄まじい速度で。
「わぁああああああああああ!?」
「……クボタさん、プチ男様、ごめんなさい。
でも、あのままだと見失いそうだったから。
だけどクボタさんならこのくらい、大丈夫……よね?」
そうして俺達がいなくなった後。
ジェリアはそう、ミドルスライムの側で独りごちたのだそうだ。
ボヨン!
吹っ飛ばされた俺は数秒の後に、とても柔らかい物体へと直撃した。
また、その物体は衝撃を吸収してくれたようで、俺達を優しく包み込んでくれた。
その感触で幼い頃、バランスボールに勉強机の上からダイブしたのを俺は思い出した。
ただあの時は跳ね返され、俺を軸にして地球が回っていたから、これとはまた違った後味が楽しめたのだがな……
……まあ、そんな事はどうでも良い。
俺は自身の置かれた状態を把握するため、瞼を開けた。
すると、やはりと言うべきか、俺達をキャッチしてくれたのはチビちゃんだった……
ミドルスライム、ナイスコントロールだ。
お前は球団入りした方が良い。年俸で俺の家よりも大きな犬小屋、もといスライム小屋が建てられるだろう。
と、それはともかく。
チビちゃんは先程と違ってまた随分と落ち着いているように見える。
だとするとつまり、コイツは首飾りを無事に取り戻す事が出来たのだろうか?
……そう、一度は思ったが。
しかし、チビちゃんの頭上にそれらしき物は見当たらない。
どうやらそれは、俺の見当違いだったようだな……と言うか。
チビちゃんは落ち着いているのではなく、緊張していたらしい。
俺とプチ男を抱き締めたまま、離さないのだから。
そして、コイツをそうさせるものの正体とは……
恐らく、今こうして俺達を取り囲んでいる。
大量のトロールで間違いは無いはずだ。
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