二十五話 早朝の戦い その2
簡単なあらすじ『サイロ君がクボタさんに戦いを挑んできました』
「あ~、え~っと……」
サイロ君から低姿勢で挑戦の要求をされた俺は、彼とジェリアを交互に見ながら、どうしたものかと悩んでいた。
「えーと、サイロ君?
ちなみにそれって、いつ?」
「今です!!スイマセン!!」
サイロ君は相変わらず、深々と頭を下げたままそう言う。
(やっぱり今かぁ……どうしよう?
ジェリアちゃん怒るかな?それか、最悪あの子の『お金持ちパワー』でどうにかしてもらおうかな?)
そう考えた俺は、救いを求めるように彼女の方に顔を向ける。
……が、ジェリアは残念ながら俺の眼差しを受け取ってはくれず。
そんな彼女はサイロ君を見つめたまま、突然彼に質問し始めた。
「貴方、また魔物を鍛え始めたって言ってたけど、何故その前までは鍛錬していなかったの?」
「え?あ、いや、その前までは普通に仕事中心の生活だったんで……だから特に理由はないっス!」
「そう。
じゃあ次、貴方は何の魔物を使うの?」
「ユニタウルスです!」
「ふーん……じゃあ、最後の質問よ。
貴方、スライムは好きかしら?」
「はい!クボタさんが使ってるの見てから割と好きっス!」
「……!!
そう、ならギリギリ合格ね。挑戦を認めるわ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
……どうやら今の、ワケの分からない質問で、サイロ君は何かに合格する事が出来たようだ。
そしてその褒美に、俺は勝手に勝負の約束を取り付けられてしまったらしい。
「ちょ、ジェリアちゃん……何で勝手に決めたの?」
俺はジェリアの肩に手を置き、抗議の眼差しで彼女を見つめる。
『そもそもお前さっき、「すぐ出発しましょう」とか言ってたよな?』と言う、文句も含めたその眼差しでだ。
すると……ジェリアはこう言った。
「まだ時間にはかなり余裕があるし、あの試合で感動したのは私も同じだからよ。
……フフッ、良いじゃない。
あの青年に胸を貸してあげなさいよ。スライムが好きな人に悪い人間はいないわ」
それを聞いて分かった。
この子が挑戦を認めたのは、間違いなく最後の質問の答えが決め手だ。絶対そうだ。
……まあ、とにかく。
このような感じで俺は、サイロ君と戦う事が決定してしまった。
牧場の一角を利用し、勝負はそこで行われる事となった。
ルールは簡単。先に相手に一撃与えた方が勝利となる、とても単純なものだ。
ちなみに、これはジェリアが考えたものである。
これを聞いたサイロ君は納得し、俺もすぐに賛成した。
何故ならばそれは、スピーディーに決着がつきそうなルールであったし。
それに、こんな大会でもない勝負で怪我などしても、またさせても寝覚めが悪いからだ。
まあ、彼の方はもしかすると、頼みを聞き入れてもらった手前このルールに口出し出来なかっただけかもしれないが……まあ、とにかく。
その場所で、俺とサイロ君は魔物から少し離れた位置に立ち、互いに向かい合い、ジェリアの試合開始を告げる合図を待っていた。
また、彼の選出した魔物は勿論ユニタウルスであり。斯く言う俺も勿論プチ男だ。まあ、コイツしか今いないからな。
そして、今回の相手となるユニタウルスは殺気こそ放ってはいないが、鼻息を荒くししきりに前脚で地面を蹴っている……
なるほど、この子はこれがあくまで練習試合やスパーリングのようなものだと理解しているのかもしれないな。
ただ逆に言えば、それが理解出来る程度の知恵はあると言う事なのだから、油断は禁物となるだろう。
まあ、こちらと比べてかなり体重のある相手だ。
元より油断するつもりなど無いのだが。
「プチ男、体重差のある相手だ。
力では多分負けてる……だから油断するなよ。
最初から本気で行くんだ。
でも、一撃で終わりだからな?分かったか?」
ユニタウルスの様子を一通り観察し終えた俺は、その感想も交えた助言をプチ男へと与えた。
そして、それを聞いた彼は『勿論!』とでも言いたげに体を震わせる。
……本当に、分かっているのだろうか?
正直この勝負、どうなるのか全然分からないのでマジで油断しないで欲しいんだが……
対するサイロ君はユニタウルスに近付き、背中をポンと叩いたのみでそれを魔物への激励としたようだ。
……これはジェリアから聞いた話なのだが。
どうやら大半の魔物使いは、大会での試合等にて『一対一』で魔物が戦う場合。
どの道、戦うのは自分ではなく魔物なので彼のように端的、簡潔なコミュニケーションくらいしかやらず、試合中も殆ど指示を出さずに見守っている者が多いようだ。
でも、私生活や依頼中等では、正反対な事にも普通に話しかけたりするらしい。
まあ、普段のコルリスやジェリアを見ていればそれは分かるが……どっちもそうすれば良いのにな。
この世界の奴らは言葉を愛情表現くらいにしか思ってないのだろうか?それか、これも文化の違いってヤツか?
と、それはともかく……だから、サイロ君の今の行動はちょっぴりドライに見えたかもしれないが、あれこそが一般的な接し方なのだ。
まあ、どうせ魔物は細かく命令しても普通は分からないからな。だから戦いを魔物に委ねると言うのも納得出来る部分はある。
また、指示を出すとしても、以前俺&ルーとの試合中、サンディさんが言った「引けい!」とかそのくらいなんだそうだ。
つまり、『お手』とか『お座り』とかの魔物でも分かるレベルの指示なら出す、って事だな。
なので……それとは反対に、あーだこーだと指示を出しまくる俺のような奴は異端者扱いされるらしい。
(と言うか、ジェリアはそんな事する奴俺ぐらいしか見た事がないそうだ)
俺はそれを知らなかったし、知らされた時ちょっと恥ずかしくはあったが。
だがそれでも、細かく指示を出せるのは〝魔物もどき〟と化している俺だけに許された特権とも言えるため。
気にせず、今後もルーやプチ男達には試合中、指示を出しまくりたいと思う。
……とか、そのような事を思い出していると。
ジェリアがプチ男とユニタウルスの間に立ち。俺とサイロ君を交互に見ながら話し始めた。
そろそろ試合を始めるらしいな……少しだけ緊張してきた。
「ルールはさっき言った通りよ。
準備は……もう、出来てるみたいね。
それじゃあ…………始め!!」
彼女の声は早朝の大地に響き、周囲の静寂を叩き起こそうとするかのように草の上を駆け巡る。
そして、二匹は動いた。
いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)
投稿頻度はなるべく早めで、投稿し次第活動報告もしています、よろしくお願い致します。