二十二話 彼女の気持ち
簡単なあらすじ『クボタさん、ジェリアちゃん帰宅』
帰宅し、コルリスとケロ太が街へと夕飯の買い出しに出ている事を知った俺は、『ならば仮眠を』と思い。
ジェリアに「ちょっと寝る」と言い残し、自室で横になった……が。
気が付けば、結構な時間眠り込んでしまっていたようだ。
まあ、今日は身体を張った行動が多かったから仕方が無いだろう。
しかし、そのお陰か身体の痛みは既に引いていた。何とも素晴らしい肉体だ。これだけは、これだけは自称神様に感謝しなくてはならない。
……それはともかく。
コルリスはもう帰って来ているだろうか?
とにかく一度、彼女に詫びを入れておかなければなるまい。そうしなければ今日の晩飯はスライム確定だ……
俺は枕にしていたプチ男の形を整え、今大体何時なのかを知るため窓の外へと視線を動かす。
すると、外の景色は歪み、ぐねぐねと揺れ動いていた……何なんだこれは!?この世の終わりか!?
いや違った。スライム、もといチビちゃんが俺の部屋の窓に張り付いていたのだ。つまり、これはチビちゃん越しに見た景色だったのである。
……なるほど、自身はそのサイズが災いして家には入れぬが、この部屋にいるご主人様に少しでも近付きたくてそうしているのか。
何と健気なスライムだ。ジェリアはこんなに自分を好いてくれる魔物を放り出して俺の部屋で一体何をしているのだろう?
……ん?
窓から外を見ていると言うだけではあるものの、ジェリアが俺と同じ寝床にいる。これは、間違いなく何かがおかしい。
「……うわっ!
な、何やってんのジェリアちゃん!?」
「あら、起きたのクボタさん」
だが、彼女は事もなげにそう言う。
自分が何をしているのか分かっているのだろうか?
「まあね……じゃなくて。ここで何やってるの?」
「何って、アレを見ているのよ」
すると、ジェリアはそう言って窓の外を指差した。
「何?チビちゃん?」
「違うわよ」
……では一体何なのか?
気になった俺も彼女の横から顔を出し、外を確認する。
そうして見えたものは、夕暮れの空の下でケロ太と共に何かしているコルリスだった。
「……コルリスちゃん?」
暫く眺めていると、彼女はケロ太に指示を出そうとしている事が分かった。それがどんなものなのかはここからでは遠くてよく分からないが。
しかし、どうやらあまり上手くいっていないらしい。彼女は難しい顔で頭をぽりぽりと掻き、ケロ太はポケーっとしているのだからそこだけは大変良く理解出来る。
「多分、あの子で練習してるんだと思うわ。
〝自分の魔物〟を手に入れた時の練習をね」
ジェリアは視線を一人と一匹に向けたまま、ぽつりとそう言う。
そして、それを聞いた俺は、そこで漸くコルリスの行動の理由が何となくだが分かった。
「もしかして、今日置いてかれたのをかなり気にしてるのかな。
でも、コルリスちゃんは魔物をまだ仲間に出来るような実力は無いから、ケロ太で練習して、少しでも早く魔物を仲間にして、それで、俺達に置いて行かれないようにと……」
「それも多分だけど、正解ね。
クボタさん、今度からコルリスもちゃんと依頼に連れて行ってあげなさい」
「で、でも……Fランクの依頼に彼女を連れて行くのはまだ危険過ぎないかい?」
「何言ってるのよ、私達の魔物は三体がかりとは言えあのチビちゃんを倒したのよ?
それに、今はあの子もいるし。Fランクの依頼くらいなら全く心配いらないわ。
いざとなれば私が守るし。
貴方達だってそうでしょ?」
「それは勿論だよ」
俺はすぐさまそう言って見せる。
ちなみに、後ろでプチ男もニ、三度ぷるっとしていた。だからコイツも『そうだそうだ!』とでも言っているのだろう。多分。
俺達の会話はそこで自然と止まり。
俺とジェリアは暫くそのままの姿勢で、コルリスとケロ太を部屋から眺め続けていた。
……そうだ。コルリスも戦闘職の卵なのだ。
そんな彼女が、弟子への指導も出来ないような師匠を持ってしまったのならば、俺と共に行く依頼で学び取ってゆくしかない。
なのに……それを、唯一学ぶ事の出来る場所を。
俺は彼女から奪ってしまったのだ。
だから彼女は焦り、今こうして独力でどうにかしようとしている……俺は師匠失格だ。コルリスの事を何も考えていなかった。
彼女にとって『俺に置いて行かれる』のは〝知識〟と言う観点から見れば、とても致命的な出来事だったのだ。
何せ、それを得る機会を失うのだから……
「ハァ……俺、師匠失格だ……」
「まあそうだけど……でも、まずそもそもとして貴方はまだ弟子を持つには早過ぎるのよ。だからそんなに落ち込まなくても良いんじゃないかしら?」
ため息を吐く俺を、ジェリアはそう言ってフォローしてくれた。
ただし最初に言われた、〝まあそうだけど〟という発言には凄く傷付いたが。
……と、そうして項垂れていた時、俺はコルリスに聞かされたある話を思い出した。
「……あっ、ねえジェリアちゃん。
コルリスちゃんから前に聞いたんだけどさ、弟子の魔物って普通は師匠とかから受け継ぐんだよね?」
「え?ええ、そうよ。
まあ、私は親に頼んだらプチスライムを貰えたけど……それも沢山」
「じゃあ、次の依頼を受けるまでにコルリスちゃんの魔物探しをしようかな……やっぱりもしもの事があると怖いし、あの子も早くそうしたいだろうし。
……そうだ!
ジェリアちゃん、君のプチスライムを一匹……」
「それはぜ・っ・た・い・に、ダメ!」
そこでジェリアが突然、大きく叫びを上げる。
耳元でそれを聞かされた俺は頭が少しクラクラとする程だった。
「……それに、何て言うか。
そうするのは間違ってると思うのよ。
彼女が最初に手にする魔物は私からじゃなく、貴方が自分で選んだ魔物。その方がきっと、コルリスも喜ぶと思うわ」
だが叫んだ後、すぐにジェリアは俺を宥めるかのような口調でそう言った。
「……まあ、確かにそうだね。
分かった。自分でどうにかするよ。
だからジェリアちゃん。
それまで悪いけど、アライアンスでの依頼は控えさせて欲しいんだ。
それと、この事はコルリスちゃんには秘密にしておいて欲しい。あの子、自分に気を遣われるのあんまり好きじゃないみたいだからさ」
「こうして陰ながら練習してるんだから、〝みたい〟じゃなくて絶対そうね……良いわ、分かった。
それじゃあ話はまとまった事だし、コルリスを家に呼びましょ。そうしないといつまでも晩ご飯が食べられないわ」
そうして、今後の予定も決まったという事で。
ジェリアは窓を開けてチビちゃんを少し退かし、コルリスの名を呼ぼうとする……が。
「待った」
その直前、既の所で俺は彼女を制止した。
「え?何でよ?」
「ジェリアちゃん、それは部屋を出てからにしよう。
あんまり言いたくないけどさ……そうじゃないと俺達、コルリスちゃんに余計な事を疑われそうじゃない?」
「…………そうね」
これ以上は口に出すつもりは無いが。
何せ、男女二人が俺の自室に。
しかも、寝床でくっ付いているのだからな……
しかし、彼女もその事に気付いたのだろう。
数秒後、ジェリアは既に落ちかけている太陽の代わりをするかのように、珍しく真っ赤な顔をしながら漸く俺の部屋から出て行った。
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