二十話 もう、私を見捨てないで
簡単なあらすじ『スライムの前にルーちゃん達三匹が飛び出して来てしまいました。多分これはもう戦わなければなりません。』
すると、三匹の存在を認識したスライムは。
俺達に体を伸ばすのを止め、その代わり彼等を正面に見据えたようだ。
これは、臨戦態勢……
かなりマズい事になってしまった。
「ま、待ってくれ!彼女の話を最後まで聞いてやってくれ!ジェリアはお前に戻って来て欲しいだけなんだ!
プチ男!ルー!お前達も少し落ち着け!」
俺はすぐさま、スライムと三匹を交互に見つつそう言った。
俺の言葉ならばコイツに届くかもしれない。
それに、もしそれで事が収まるのならば、最後の手段である戦闘をしなくても済むと思ったからだ。
しかし、それは浅はかな考えだった。
スライムは体の一部を鞭のようにしてしならせ、それによって俺を叩き付けたのだ。
「ぐはっ……」
俺は木に身体を打ちつけられ、地に伏した。
5、6mは吹き飛ばされたかもしれない……とんでもない馬鹿力だ。
と、その直後。
プチ男がスライムへと疾風の如く突撃した。
だが、正面からやって来るそれに合わせてスライムは再び体の一部を使い、プチ男を地面に叩き付けようと待ち構えている。
「待て!!やめろプチ男!!」
俺はやっと事で声を出し、そう叫んだ。
同種には容赦しないスライムの事だ、本気の攻撃をしようとしているはず。
だから、あれを喰らえば確実にプチ男は……
しかし、プチ男は軽く跳ねた後、空中で体を捻って方向転換する事によりその攻撃を躱した。
また、それは間違いなく、以前やった投げ技の動きを応用したものであった……まさかアイツが、もうあの時教えた技術をものにしていたとは……正直、完全に予想外だった。
そうして危機を脱したプチ男はスライムの周囲を激しく移動し、隙があると見ればジャブやストレートのように伸縮させた肉体を細かく動かしてちくちくと攻撃する。
だが、殆ど効いている様子は無い。
体重差がある分、アイツの攻撃などスライムにとっては蚊が刺すようなものなのだろう。
「クボタさん!大丈夫!?」
すると気が付けばジェリアが側におり、俺の介抱をしようとしていた。
「ま、まあ、今の所は……それよりも。
プチ男が危ない。
ジェリアちゃん、ごめん。
今回は一旦、皆を連れて逃げてくれないかな?
アイツやルーも、君の指示なら聞くはずだから……」
俺は彼女を見据えてそう言った後、再び戦闘中のプチ男へと視線を向ける……
と、その時。
スライムが大きく揺れ動いた。
加勢に入ったルーが奴へと飛び蹴りを喰らわせたのだ。
巨大な球体は1メートル程後退し、まるで心臓そのものであるかのようにその身を激しく揺らす。
どうやらルーの一撃と、小柄な彼女……つまり、自分よりも小さくて弱そうな魔物が、あそこまでの技を放った事に酷く驚いているようだ。
……が、状況が好転する事はなかった。
いくら攻撃しようとも倒れぬスライムのタフさを前にして、二匹が疲れを見せ始めたからだ。
プチ男は普段よりもぐでっとした形になり、地に接する面積を増やす事でどうにか体力の回復を早めようとしている。
そしてその隣にいるルーは、相手に対して見せる鬼のような形相の中にも、疲れや焦りに似た感情が存在しているのがはっきりと分かった。
対して、スライムもまた多少形が崩れてこそいるものの、二匹……特に、プチ男へと威嚇する余裕くらいはまだあるようだった。
(どうにかしてアイツらを逃がさないと……このままだとルーとプチ男が!)
そう思い、俺は痛む体で無理やり立ち上がる。
すると、目線が高くなった事で今まで戦闘に参加していなかったミドルスライムが、草藪の隅で何かしている事に気が付いた。
……驚いた。今、アイツは体を限界まで引き伸ばしているらしく、3、4mはあろうかと言う巨大な延べ棒のようになってぶるぶると振動している。
どうやら、コイツはビビって戦いを二匹に任せていたワケではなかったらしい。
それどころか今の今までずっと、最大出力の攻撃を放つためその準備をしていたのだ。
「…………分かったわ。
今は一度撤退して……って、クボタさん!?
貴方何する気なの!?」
今まで悩んでいたのだろう、ジェリアはそう言う……が。突如立ち上がった俺に驚き、すぐさまそれを止めようと腕を掴む。
「見て、ミドルスライムを。
アイツなら、スライムを倒せるかもしれない。
だから俺も協力する。
……大丈夫、チビちゃんはかなり丈夫みたいだから、アレを喰らっても死にはしないさ」
「そういう問題じゃないの!
私達は魔物使いなのよ!?
だいたい協力って……どうする気なの!?
戦士でもない貴方が、肉体を戦闘で酷使なんかしたら、最悪……」
なるほど、やはり魔物使いとはそういうものなのか。
だが、ぐずぐずしている暇は無い。
俺はあたふたとしているジェリアを放置して、ミドルスライムの元へと駆け寄って行った。
「おい。多分俺の言ってる事なら分かるだろ?
協力させてくれ。二匹を守りたいんだ。俺はどうしたら良い?」
そしてミドルスライムにそう言うと、中くらいのぷるぷるは後方の肉体をまるで座席のように変化させた。
……多分、『そこに乗れ』と言いたいのだろう。
そこで俺はミドルスライムの指示通り、その位置に腰を下ろした。
すると、その直後。
ミドルスライムは肉体を投石器のようにして、またとんでもない程の速度で俺をスライムへと放り出した。
「わぁあああ!」
そして数秒後。
俺はスライムへと直撃し、それを喰らった巨大なる水風船は遂に沈黙した。
…………流石ミドルスライム、素晴らしい威力だ。
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