十七話 ヤブデマリに愛を
前回の簡単なあらすじ『クボタさんは無理矢理依頼を受けさせられる事になりました』
『なんで置いて行くんですかクボタさん！
酷いです！イジメです！クボタさ～ん！』
そう言って泣き出したコルリスとケロ太（コイツは大人しかった）を断腸の思いで家へと置き去りにしてから約一時間。
俺とプチ男、ルー。そしてジェリアとミドルスライムの一行は今回の目的地、ロシバ地方へと到着した。
この場所は湿地帯で池や沼が多い。
だが、その中にはかなりの深さがあるものも存在するらしく、水場にはなるべく近付かないよう注意して移動しなければならないだろう。
まあ正直言うと水場が多過ぎるので、注意した所で無駄な気もするが……
「コルリス……ちょっと可哀想だったわね」
不意に、俺の隣にいるジェリアがそう呟いた。
コルリスもあんな様子であったのだし、まあ彼女の言いたい事も分かる。
しかし、この場所は危険地帯に指定されているらしく、まだ未熟な彼女にもしもの事があっては困るのだ。
だからこそ、まだ実力的にも不十分であるケロ太と共に留守番を頼んだのである。
……ごめんな、コルリスちゃん。
『俺に任せろ！必ず守ってやるから！』とはまだ言えない俺をどうか許してくれ……
胸中でそう神（自称神様ではない）に懺悔した俺は、気持ちを切り替えるために準備運動をしつつ、ジェリアへとこう返した。
「まあ仕方無いよ。
ところでジェリアちゃん、依頼内容の確認だけど……」
「……そうね。
えーと、今回の依頼は『ラッカソウの種の回収』よ。
依頼人は街の座商ね。だから指定された数はかなり多いけど、見つけさえすればすぐに終わると思うわ。
さ、ついて来て」
（……あれ？なんかFランクにしてはめちゃくちゃ簡単な依頼だな……？）
内容に拍子抜けし、いつしか準備運動を放り出していた俺は。
ジェリアが何故、こんな依頼を選んだのかと問い掛けるつもりであったが。
しかし、すたすたと歩いて行く彼女達と逸れる訳にもいかず、ひとまずその後に続いた。
彼女の言う通り、依頼自体はすぐに終わった。
ジェリアの指示した場所にある雑草を掘り起こすと、次々にピーナッツ型の種が姿を現したのだ。
そうして回収した種はすぐに指定されていた数を上回った。残りはジェリアと山分けにし、俺の分は魔物達のご飯にでもしてやろうと思う。
まあ、確かにラクだったが、この依頼は彼女がいなければ達成出来なかっただろう。
何故こんな知識を持っていたのかは分からないが、とにかく助かった。
「……よし！
ジェリアちゃ～ん！そろそろ帰るよ～！」
荷造りを終えた俺はジェリアだけでなく皆にも聞こえるようそう叫んだ。
帰り支度はこれで完了、残された任務は帰ってコルリスのご機嫌を取るだけである。
……にも関わらず、ジェリアは遠くをウロウロとしていた。
……先程から思っていたのだが。
ジェリアは何処か、ロシバ地方に来てから様子がおかしいように見える。
もしかすると彼女は、依頼とはまた別の目的があってここを選んだのかもしれない……
「……仕方ないな」
俺は荷物を一度地に置き。
彼女へと歩み寄るべく立ち上がった。
これがいつもの彼女だったならば、無視して帰るフリでもすれば簡単に戻って来るとは思うが……
しかし今回は何と言うか、それだけだと難しいような気がするし。
それに、荷造りの手伝いはクソつまらんと判断しやがった魔物達（ミドルスライム含む）は。
俺を完全に放置し、ジェリアの後ろを雛が親鳥を追い駆けるようにして行進しているのだし……
となればその〝フリ〟も出来ぬと言うものだ。
仕方無いが悩みがあるなら聞くだけ聞いて、とりあえず帰る方向に意識を促してやらなければならないだろう。
と、そんな事を考えていると、ルーだけが俺の声に反応し、ひょこひょこと歩いてこちらに戻って来てくれた。
だとすると多分、プチ男にも聞こえていたはずだが、アイツはまだ俺に対して怒っているから無視を決め込んでいるのだろう。
無論、まだプチ男に謝れていない俺もそうなのだがな……まあ、とにかく。
そこで俺はルーの頭を撫で、ラッカソウの種を一粒彼女に手渡してやった。
「んむ～」
すると、彼女はそれを口に入れ、ウマいのかマズいのかよく分からない音を出しながらもぐもぐとしている……じゃあ、これはスライム達か、それかカエル達にあげた方が良いかな？
「クボタさんっ！」
だがその時、突然にもジェリアが叫びにも近いような声を上げ、こちらへと駆け寄って来るのが見えた。
まさか、ルーに依頼品を勝手に食べさせてしまったから怒っているのだろうか……
「ま、待って！まだ一個しかあげてな……」
「お願い！！
私と一緒に来て欲しいの！！早く！！」
どうやら違ったようだ。
しかし、何故こんなにも彼女は焦っているのだろう？
「……どうかしたの？」
「後で話すから、お願い」
……まあ、どの道断るつもりもないし。
それに、そんな顔をされたらまずYESと答えるしか俺は選択肢を持ち合わせてはいない。
と言う事で俺は勿論、首を縦に振り。
そしてすぐに、彼女に手を引かれるがまま歩き出した。
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