八話 少女の追憶 その2
あの日から、私は彼の家で生活を始めた。
彼は家を空ける事が多く、2、3日戻って来ない事もざらにあった。本人が言うには仕事が忙しいらしいが、私には何かを探しているように見えた。
もしかすると彼は今、例の魔物使いを捜索しているのかもしれない。
しかし、あんなにも褒め称えていた人物と何の連絡もしていなかったのだろうか?
だとすれば、私が弟子入り出来るのはいつになるのだろうか?
と、暫くはそのような事ばかり考えていたが、いつしか私はそれを忘れていった。
そして、その忘却はここでの生活に私が慣れ始めていると言う証でもあった。
カムラ地方にあるこの家は古く、街からも遠い場所に位置していたが、生活用品、食料は彼が用意してくれていたために困っておらず、薬草集めの依頼を週に数回こなせば大好きな魔物、魔物使い等について書かれた本を買う事も出来たので生活は快適そのものだったのだ。適応するのはむしろ当然だとも言えるだろう。
そうして数日が経過した頃、以前の弟子入り先から私の使っていた日用品などが送られてきた。
そこに同梱されていた手紙を読んでみると、何と自力で私の弟子入り先を見つけ出した彼が師匠と話をつけ、弟子入り先の変更を認めさせた上でこの荷物をこちらへと送らせた事が分かった。
弟子をとる程の実力を持つ魔物使いにとってそれはまずあり得ない事であり、私は大変驚いた。
何故ならば、それは周囲に『私は弟子を一人前には出来なかった』、『私の腕が足らず、弟子はもっと実力のある魔物使いを求めて去っていった』と公表しているようなものなのだから。
しかし、それが出来たあの人は本当に、一体何者なんだろう?やはり凄腕の魔物使いなのだろうか?
そして……何故彼は家を空けたまま、ここ暫く姿を見せないのだろうか?
またもや色々な考えが浮かび、私の思考は再び彼の事によって占領されてしまった……が、それもまた気が付けば忘れてしまった。
変化が訪れたから。
彼と入れ替わるように、この家にとある人物が現れたのだ。
彼は自らを『クボタトシオ』と名乗り、自分は夢の中で何者かの声を聞き、それを道標としてここへとやって来たのだと話していた。
また、その時に名前をどう書くのかも教えられたが、それはこの国ではあまり使われていない珍しい文字だった。
そんな彼は、私の命の恩人である『あの人』ととてもよく似た姿をしていた。違う部分と言えば、頭上に光の玉が無い事くらいだろうか。
しかし、性格の方は正反対であった。
彼は非常におしゃべりで、自身の事を話すのに何のためらいもなかった。
それと……彼は恐らく。
私の事を異性として意識していたと思う。
私は悩んだ。このクボタトシオという者はあの人の言う人物では無い、何となくだがそう思ったからだ。
そして、それはどうやら正解だったらしい。
別室で彼が眠りにつくのを見届けた私は、それでも尚何かされぬかと言う不安を胸に抱えたまま、眠りについた。
その夜、私はクボタトシオと同様、夢で何者かの声を聞いたのだ。
姿無きその声は、私に申し訳なさそうな口調でこう言った。
〝突然だけど、君とまた会えるのはすごく未来の事になると思う〟
妙な言い回しをするその声は、間違いなく『あの人』のものだった。
それを聞き、いくつもの質問が込み上げてきたが、私は呻くような声を出す事しか出来なかった。
やはり夢であるからなのか、それを彼へとぶつける事は叶わなかったのだ。
そして、最後に彼はこうも言っていた。
〝あと……本当にごめん、間違えたみたいだ。もう少し待ってて欲しい〟と。
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