一話 Fランクになりました
魔物達を起こし、準備を整えた俺とコルリス他複数名は、街にある闘技場へと向かっていた。
一応言っておくが、今回は試合のためではない。
（まあ先日Fランクになったばかりで、すぐさま格上共の割拠する大会なんぞに挑戦しようと思える程、俺が自信家では無いと言うのは皆もよくご存知だろうが）
何でも、Fランク以上の戦闘職の情報は国が管理、把握しておきたいようで、新たに登録が必要らしいのだ。
そして、その開催地が今回は闘技場だったので、仕方無く俺達は今こうして向かっている……と、そう言うワケなのである。
ちなみに前述した事からも分かる通り、めちゃくちゃ簡単に言えばGランクは民営で、それ以上は市営（国営といった方が良いか）のような体制をとっているのだそうだ。
つまり、サンディさんがやったような私欲に塗れた運営は、Gランク特有のものだったと言えるだろう……いつの日か彼の悪事が露見しないか、非常に心配である。
「ちょっと！遅いわよ貴方達！」
すると闘技場が見えて来た頃に、俺達に駆け寄る一人の少女がいた。
その少女は相変わらずの軽装で、浅黒い肌をこれ見よがしに露出させながら、短髪を犬の尾のようにぴょこぴょこと踊らせこちらへと向かって来る。
ジェリアだ。
彼女とはGランク時代に知り合い、今ではアライアンス、簡単に言えば同盟のようなもの結んでいる程度の仲なのである。
もっと言えば最近の彼女は、しょっちゅう我が家へと上がり込んで来てそのまま泊まったり。
（主にスライム達、コルリス目的で）
また、食事に同席したりもするので、一応友好的な関係を築いている……と、まあそれくらいの間柄でもあると言えるだろう。
そんな彼女は俺達の目の前にて立ち止まり、遠足前の幼稚園児のような表情をしている。
が、それを見た俺は……
とりあえず、ジェリアの前を素通りした。
「な……！？」
彼女はスルーされた事に余程傷付いたのか、言葉も出ない様子だ。
……これは、ちょっとした仕返しなのだ。
実の所、俺はもう少し賞金でのんびりと生活していたかったのだが……
わざわざFランクの依頼に俺達を同行させたいがために前日からずっと騒ぎ立て、俺をここに連れて来たのは何を隠そう、彼女なのだから。
その辺りの事について、一応説明しておくと……
昨日、我が家に多くの訪問者があったのだが……その際、この子はそれに紛れて侵入し、俺に無理矢理Fランクの依頼を受けさせようとして来たのだ。
そしてジェリアと押し問答しているうち、彼女は俺がまだ登録を済ませていない事に気付いたらしく。
「まだ登録してないの！？それじゃあ依頼も受けられないじゃない！明日で良いからやって来て！」
と、そう言いながら、怒っているのか笑っているのか分からない表情で俺に迫って来たのである……
「……あ、いたんだ。おはようジェリアちゃん。
悪いけど俺達急いでるからさ、また今度話そうね。
そうじゃないと、誰かさんに怒られちゃうからさ」
そうして俺は次に、たった今ジェリアに気付いたかのように振り返ると。
皮肉たっぷりの表情を作って彼女にそう言った。
自ら説明するうちに昨日の事を思い出したのもあって、少々イラッとしていたからだ。
「な、何よ！その言い方！」
「まあまあ、二人とも……」
睨み合う俺達をコルリスが宥める。
今こうして、喧嘩腰かのような態度でいる俺が言うのもアレだが。
この子がいなければ、俺達は険悪な仲にすらなっていたのかもしれないな……そう思うと彼女には感謝しかなかった。
誰かさんとは真逆に、感謝しかだ。
あっちには不満しか無いが。
「……ふんっ！行こうコルリスちゃん！
急いでるのは本当だからね」
彼女の声を聞き、一度冷静になった……
とは、まだ決して言えぬくらいの俺は、そのままコルリスの手を引いて大股に歩き出した。
しかし数秒後、自分は今結構、大胆な事をしているのでは……と、少しの間思い悩んだが。
でもまあ、良いではないかとそんな考えはすぐさま振り払い、背後でぷりぷりしているジェリアから少しでも距離を取るため、再び歩を進めた。
「あのっ……クボタさんっ！」
すると、そんな風にずかずかと歩く俺をコルリスが呼び止めた。
「あっ！ご、ごめん……痛かった？」
「違うんです、ただ……
闘技場は、そっちじゃないですよ？」
「え？」
おかしい、何度も行った場所を間違えるワケが無い。コルリスは俺をからかっているのか？
「闘技場は闘技場でも、Fランク用の闘技場があるのよ。で、今日集まるのはそっち。
もしかして、知らなかった？」
すると、後方からはここぞとばかりに、嫌味ったらしい口調を使い話すジェリアの声がする。
だが、それを聞いても尚、俺は返す言葉も無く。
ただ顔を赤らめる事しか出来なかった。
「ぐ……ぐぐ……」
「はぁ……やっぱり来て正解だったわね。
ほら、こっちよ？
私に付いて来なさい、ね？
ク・ボ・タ・さ・ん？」
そうして、コルリスの手を握ったまま恥ずかしさで硬直してしまった俺の腕を更にジェリアが掴み、俺達は園児達の散歩のような格好で移動を再開するのだった。
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