二十一話 十把一絡げ
No.16 キマイラ(C級)
不定形魔獣類マモノモドキ科
この世界のキマイラにはA級、B級、C級の3種類が存在する。その中から今回はC級のキマイラをご紹介しよう。
まず本体。核となるものの大きさは30cm前後で、体重は5kg程度だ。
ただし、そこから様々なモノと合体、融合するので元々の大きさなど興味のある人以外は覚えておく必要は無いだろう。
核?合体?何を言ってるんだ?
そう思うのは当然だ。今から説明する。
皆が想像するキマイラと言えば、ライオン、ヘビ……ヤギ、とかだったかな?それが合わさったような姿をしているだとか、あと翼が生えてたりする奴もいるな。
とにかく、そう言った生き物の集合体みたいな感じではないだろうか?
それとは全然違うのだ。
この世界のキマイラは産まれた直後、ただの黒っぽい球体のような姿をしており、吸収した他生物の一部分をそっくりそのまま肉体に生やしながら成長するのである。
この特徴はA B C共に同じである。
そんな彼らを見分ける方法としては戦闘能力と大きさくらいだ。
(ちなみにA> B>Cの順に強く、大きいとされる)
しかし、A級、 B級のサイズはそこまで変わりが無く、彼等の併存する地方では吸収する魔物までもが似通ってしまうため、判別するのがとても困難になる……と言うか、無理かもしれない。
(むしろ吸収するものによっては、B級キマイラの方が大きく成長する場合もザラにある)
つまり、その場所にいるキマイラは『戦ってみるまでAと Bどちらなのか分からない』という、研究者にとっても、その他戦闘職にとっても非常に恐ろしい存在なのだ。
……が、C級だけは別だ。
何故ならばコイツは頭部を生成する事が出来ず、簡単に見分ける事が可能なのだから。
これはC級キマイラの知能が低く、頭部など複雑な形状のものを模写するのが難しいためとされているぞ。
まあ、そう言うワケなので顔は無いが、一応目だけはあるらしい。ただ、何処にあるのかは知らない。
また、上記したような理由から過酷な環境に適応するのが困難なためか、C級のキマイラだけは温暖で強力な魔物の少ないカムラ、ドロップ地方にのみ生息しているそうだ。
最後に、ちょっと驚きの豆知識をお教えしよう。
さっき話したC級キマイラの体長体重だが、あるモノとほぼ同じぐらいだとは思わないか?
……そう、プチスライムだ。
しかも体長体重に加え核は球体……見た目まで似ている。
だが、これは当たり前。
何しろキマイラは、スライムが分岐進化した魔物の一つなのだから。
外でぼんやりとしているルーに、ケロ太が接近しつつある。俺はそれを影からこっそりと見ている。
頑張れ、頑張れケロ太……!
おっと、ここでルーがケロ太に気付いた!
すると、ルーは膝を折り曲げてケロ太と目線を合わせ、人差し指で新人を物理的に凹ませようとし、そして遂に……
…………ぷに。
と、本当に凹ませてしまった。
……やった!やったぞ!
先輩との記念すべき初コミュニケーションだ!頑張ったなケロ太!
「あの~」
ん、誰だ?
まあ誰だか知らないが、今は忙しいんだ後にしてくれ。俺はその声を無視した。
「あの、すみません!」
……全くもう、五月蝿いな。
一体誰だ、さっきから俺に声を掛ける奴は。
二度目は仕方無しに振り返ってみた。
「はい?」
すると、俺の背後には畏まった様子の少年がいた。
ただ様子の方はともかく、相変わらずの派手な見た目には一切の変化が無いその少年は、推測ではあるがロフターという名前である確率が非常に高い……が。
いや失敬、やっぱり態度と口調があのクソガキだとは到底思えない。だからまあ、別人なのであろう。
……と言うか、それが誰であろうと俺が今忙しいのには変わりが無いのだ。
そこで俺はコルリスを呼び、彼女にこの少年の対応を任せようと……
「ごめんねボク、俺は今魔物達が友好への第一歩を踏み出そうとしている、その瞬間を目に焼き付けてる最中でね。
まあ簡単に言えば、ちょっと手が離せないんだ。
だから、用事ならあっちで料理してるお姉さんに伝えてね」
「何ですかクボタさん!?私も今手が離せないんで郵便なら受け取って下さいよ!」
試みたが、ダメそうだ。
……クッ、子供は嫌いじゃないが、苦手なんだ。
だからコルリスに任せようかと思ったのに、そうもいかないか。
と、そこで少年が口を開き。
「あー……クボタさん。僕ロフターです」
何と彼が、あのロフターであった事が判明……
まあ、そんなのは最初から分かってたんだけどね。
「……やっぱりそうだよね、ゴメンゴメン。
でも、この前会った時と大分印象が違ったから、ちょっと驚いたよ」
「あぁ……あの時はすみませんでした。
僕、クボタさんに負けてから反省したんです」
なるほど、それで以前とは別物のように……
良かったなトーバスさん、貴方の思惑通りになったみたいだぞ。
とはいえ先程も言ったように、この変貌振りには流石に驚いてしまった……もしかするとこの子実は、根は良い子なのかもしれない。
「まあまあ、過ぎた事だし気にしなくて良いよ。
それで?今日は何しに来たんだい?
ああでも、もし本当に何か用事があるなら、それはあのお姉さんに伝えてね」
「クボタさん!!よく聞こえないですけど私に何か押し付けようとしてません!?」
「そ、それなんですけど!
ええと、僕は、コルリスさんではなくてですね……
そ……そっちの!
そっちのお姉さんに用があって来たんです!!」
すると、いつの間にやら顔を赤くしていたロフターは俺の後方を指差し。
数秒後、それが失礼だと思ったのだろうが適切な方法が分からなかったらしく、指差すその手をチョップしてるみたいな形に直してからそう言い放った。
「え……ルーに?」
だが、しかし……
彼が一体、ルーに何の用があると言うのだろう?
それが分からず、俺が呟くと。
名前を呼ばれたと思ったのかルーは顔を上げ。
そうして俺達に気付いた彼女は。
歓迎の意を込めているのかは不明だが、来客へと向けて茶でも菓子でも無く、最高級のスマイルを差し出した。
「あ、あぁ……」
それを見たロフターの顔が、更に赤々と染まってゆく……トマトに例えると完熟と言った所だろうか。
「こ、これを!あの人に渡して下さい!
それでは、お邪魔しました!」
そんなトマトのような顔をしたロフターは次に、俺に手紙のようなものを手渡すと、そのまま全速力で走り去って行ってしまった……
ははん、おじさんには分かるぞ。
これは艶書だな……このマセガキめ。
手紙の内容は大体俺の予想通りだった。
……いや待て、勘違いしないで欲しい。
別に悪意があって勝手に読んだとかそう言うワケでは無い。
ほら、だってルーは……字が読めないだろう?
それに、俺が読まなかったらロフターの希望である『どうか心を入れ替えた僕の試合を見に来て下さい。そして優勝した暁には……(これ以降は彼の名誉のためにも省略させてもらう)』と言うのも、知られぬまま彼は自動的に玉砕していたはず。
だからそう、俺は無罪であるのだ。
誰が何と言おうとも。
だがそれにしても、なかなかこまっしゃくれた坊ちゃんだ。俺の目の黒い内は、ルーはやらんぞ?
まあ、もう死んでるけど……
……さて。
俺はそんな風に、「やらんぞ!」とか言っているワケだが。
実の所、しっかり闘技場には到着している。
次はその理由について説明しよう。
それは……こっちも試合があるのだ。
まあ幸いと言うべきか、俺達の試合は午前中でロフターの方は午後に行われる。
なのでまあ仕方無いから、アイツの試合も見るくらいはしてやる予定だ。
……まあ良い。
今は自分達の試合に集中するとしよう。
そんな俺達の、今回の相手はキマイラ……のはずだが、これはキマイラ……で、合ってるんだよな?
そう悩んでしまいそうな程、相手の魔物は予想していたものよりも小さく、また何かごちゃごちゃとした見た目をしていた。
『首だけのメデューサ』……これが一番しっくりくる例えになるかもな。
それも、顔の部分まで覆われている奴を想像すると分かりやす……くもないか。正確に言えば首も顔も無いんだし。
そして今日、こちらが選出したのはまたまたプチ男だ。あと凄くどうでも良いが、コイツが登場したその時は観客が結構沸いていた。
「始め!」
さあ、試合開始だ。
それではどうでも良い事はさておいて、俺はプチ男のセコンドに専念させてもらう。
しかし、試合が始まったと言うのにも関わらず、プチ男は相手と一定の距離を保ったまま動かずにいた。
……が、これは予定通り。
相手がどう攻めて来るのかも全く分からないので、プチ男には距離を詰め過ぎるなと事前に伝えていたのだ。
うーん……改めて対戦相手の魔物を見てみると、全方位に触手のような物が付いているのでなかなか攻撃の指示を出し辛い。
アレはやはり、その全てが自由自在に動かせるようになっていて、それですぐにでも反撃が出来てしまうのだろうか?
それと顔らしき物は見当たらないが、奴の目は見えているのだろうか?
……未知の存在を前にした俺は、未だ的確な指示を出せずにいた。
と、その時。
数本の触手が、目の前の球体へと向けて勢い良く伸びて来た。
だが、それをプチ男は難無く躱す。
……ふぅ、やはり様子見させていて正解だったようだ。
そして、それを皮切りにプチ男はキマイラの周囲を旋回し始める。
なるほど、アイツにしては良い判断だ。
俺もまだ、手を出すべきではないと思う。
しかし、その出方が気に入らなかったのか、今度の敵は狂ったように、先程と同じような攻撃を何度も繰り出して来た。
……当たる可能性は低そうに見えるが、手数が多過ぎる。こちらもそろそろ反撃しなければ、プチ男の体力が心配だ。
「クボタさん、待ってください」
そこで俺は攻撃の指示を出そうとしたが、それよりも早くコルリスが耳元で囁いた。
恐らくは彼女も、俺が今指示を出そうとした事に気付いてそうしたのであろう。
「どうしたの?」
「攻めるのはもう少し待ってみましょ。
ホラ、なんか凄い事になってますし」
コルリスの言葉を聞いた俺が試合に目を戻すと。
「ん……?
…………うわぁ」
ほんの少し目を離した間に、いつの間にかキマイラの攻撃対象がプチ男から審判の男性へと代わっていた。
……え、何で?
旋回しているプチ男の背後に、あの男性が腰を据えてしまったのが原因だとは推測出来るが……それでもやっぱり、意味が分からない。
「あのタイプのキマイラって、あんまり頭が良くないらしいんですよ。
さあ今です、クボタさん!」
納得のいく理由を教えてくれたのはコルリスだった。
ふむ、それなら……
彼女の言うように、今がチャンスと言う事だな!
「よし!プチ男!」
それを知った俺が声を上げると、名を呼ばれたプチ男は。
最後に自身の編み出した技であり、かつ得意技でもある『体を思い切り引き伸ばして飛び出す体当たり』を攻撃手段に選んだ。
確かにプチ男の攻撃の中で、最もスピードと威力があるのはこの技だ……それならば今取れる中で最善の選択をコイツはしたと言えるだろう。
正直、ここまで臨機応変に戦えるようになるとは思わなかった……が。
……とにかく。
これで、勝てるはずだ!!
「…………あっ」
すると……
プチ男は、審判もろともキマイラを薙ぎ倒し。
そして見事、勝利を勝ち取ったのであった。
ちょっと、審判に申し訳ないという気持ちを残す、何処かすっきりとしない、そんな勝星を…………
「……ところで、コルリスちゃん。
何で俺が、攻撃の指示を出そうとしてたのが分かったの?」
「えっ……?
だって、クボタさん分かりやすいんですもん。
良かったですね、相手が私じゃなくて」
「ハハハ、本当にそうだね」
まあ、とにかく。
これで俺達はベスト4進出、残るは後2試合だ。
……ふぅ。緊張が解けたら、急に腹が減ってきた。
ロフターの試合の前に腹ごしらえが必要だな。
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