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2022年を迎えた世界

2022年を迎えた世界



 困難の連続だった2021年が過ぎ去り、予想のつかない2022年が始まろうとしている。

 既に新型コロナウイルスのパンデミックが始まって2年余りが経過しようとしているが、未だに収束の目途は立っていない。

 アメリカ合衆国では、2021年末で死亡者が80万人を突破しており、欧州諸国も医療体制が崩壊し、大きな打撃を受けている。

 幸いにも我が国、大日本帝国は、島国の特性を生かして新型コロナウイルスの封じ込めにある程度成功しており、先進国の中では最も少ない被害で済んでいる。

 そして、画期的なRNAワクチンの開発・生産を主導し、同盟国のロシアや集、中華民国といったアジア経済連合の加盟国にワクチンを供給することで、同盟の盟主としての面目を保つことができている。

 友好国のインドやイランもワクチン供給を我が国に頼る状況で、資源外交で友好関係にあるアフリカ諸国も日本からワクチンが届くのを待っている状態である。

 コロナ・パンデミックを戦争に例えるのなら、最も勝利に近い場所にいるのが大日本帝国であることは既に明らかである。

 昨年、大統領選挙に勝利して2期目に突入したドナルド・トランブ大統領は、こうした状況について、


「日本の軍国主義者が開発した生物兵器テロ」


 と一方的に決めつけ、WHOの度重なる勧告にもかかわらず新型コロナウイルスを日本ウイルスと呼称しつづけている。

 トランブ大統領は、日本の被害が先進国の中でも最も少ないのは、新型コロナウイルスが日本の生物兵器であるため日本人には感染しないように設計されており、日本人以外の全人類を抹殺する意図があるとのことである。

 しかし、ウイルスが最初に報告されたのは、中国の武漢市であり、日本ですらない。

 正直、彼の御仁の正気のほどを問いたくなるが、アメリカ国内はQアノンなどの陰謀論が拡散しており、あのイカれた大統領の言うことを真に受けることが愛国的だという風潮さえあるようで頭が痛い。

 こうしたヘイト・スピーチに我が国はその都度、外交チャンネルで抗議を繰り返しているがトランブ大統領の暴言は改まる様子はない。

 識者には黙殺すべきという意見もあるが、筆者は反対の意見である。

 我々が黙殺を決め込めば、トランブ大統領やその支持者が自分たちの主張を日本が認めたと叫ぶのが目に見えているからである。

 彼らが未だに単独では世界最大のGDP(約21兆ドル)を誇る国の住人とは思えないほど、みじめな主張を繰り返しているのは、自信の無さの現れであると考えるものである。

 政治・経済・軍事の全ての分野でアメリカは未だに巨大な存在だが、彼らの理屈が通用する世界は90年代や00年代に比べると随分と狭いものとなっている。

 東アジア・西太平洋地域は、大東亜戦争以来アメリカの理屈が通用しない世界だったが、近年は中近東やアフリカ、東欧にもそうした領域が広がりつつある。

 中東は、2010年から2013年にかけてアラブの春を迎え、エジプトなどの親米軍事独裁政権が崩壊した。

 その中でも最大の政治的な地殻変動は、2013年11月のサウジアラビア革命で、王政が崩壊して、イスラム共和国体制となった。

 欧米諸国は、各地のイスラム革命に対して拒絶反応を示し、NATO軍(主に米軍)が出動して親米独裁政権を支援した。

 弱体なエジプトやサウジアラビアなどの革命勢力が頼りにしたのは、イスラム革命発祥の地であるイランだった。

 そのイランは、イスラエルの度重なる妨害工作や奇襲爆撃、欧米諸国からの圧力をはねのけ、2016年に地下核実験を実施し、世界で11番目の核保有国となっている。

 イランと友好関係にあるアジア条約機構(APO)やロシアは、イランと協議の上、革命政権を支援するために有志連合軍を結成して中東、北アフリカに軍を派遣することになった。

 エジプト、リビアやシリアの親ロ政権を支援するために、重航空巡洋艦アドミラル・クズネツォフとワリヤーグが初めて2隻そろって作戦行動を行ったことは、ロシア軍復活を世界に印象づけた。

 アドミラル・クズネツォフ級重航空巡洋艦2番艦「ワリヤーグ」は建造中に冷戦が終わってしまい経済再建のため軍縮が断行され、工事が途中で中断されてた。

 工事が再開したのは90年代末に入ってからで、正式に就役したのは2010年のことだった。

 アドミラル・クズネツォフとワリヤーグを中核としたロシア艦隊は、リビアのシドラ湾に展開してアラフィフ政権軍を支援すると共にNATO海軍の行動を牽制した。

 フランス海軍の原子力空母シャルル・ド・ゴーンとアドミラル・クズネツォフの睨み合いはネット配信されており、視聴した方も多いだろう。

 また、エジプトに数十年ぶりにロシアの軍事顧問団を海上輸送するなど、ロシア海軍は弱体なムスリム同胞団政権をサポートする上で重要な役割を果たした。

 ロシア軍事顧問団スペツナズの活躍がなければ、親米世俗派のエジプト軍部が起こしたクーデタは成功に終わっていただろう。

 インド洋・ペルシャ湾を受け持った日本海軍も、サウジ革命軍を支援するために空母大鳳と祥鳳を派遣している。

 アメリカ海軍も空母機動部隊を投入し、ペルシャ湾で一瞬即発の事態となった。

 日本海軍は艦隊の増派に踏み切り、増援として瑞鳳と龍鳳を派遣した。

 さらにAPO海軍として、集海軍の遼寧と山東、中華民国海軍の広東がペルシャ湾に駆け付けた。

 遼寧、山東、広東は事実上の同型艦で、日本の三菱造船が集海軍と中華民国海軍に売り込んだ輸出向けの中型空母だった。

 中型といっても基準排水量は55,000tもある大型艦で、ソ連海軍の重航空巡洋艦などとは異なり、カタパルトとアレスティング・ギアを導入したCATOBAR方式の空母である。

 これまで専ら陸空軍に力を入れてきた集や中華民国が空母を保有するようになったのは、冷戦終結が大きかった。

 陸でソ連のシベリア軍団に備える必要がなくなり、中華人民共和国マオイズム・チャイナはロシアから見捨てられ、著しく弱体化した。

 また、経済発展で資源を海外からの輸入に頼るようになり、シーレーン防衛の重要性が拡大していた。

 それまでシーレーン防衛を日本に丸投げしていた集と中華民国は、2000年代に相次いで日本製のミサイル駆逐艦やフリゲート艦を購入し、海軍拡張に転じた。

 日本も同盟国の海軍力拡張を歓迎し、技術支援を惜しまなかった。

 集海軍や中華民国海軍が短期間で空母を運用できるようになったのも、日本海軍がデッキオペレーションをはじめとするノウハウや機材を惜しみなく提供したことが大きい。

 2022年時点で、集海軍は空母3隻(遼寧、山東、旅順)、中華民国海軍も同じく3隻(広東、海南、福建)を就役させ、空母のローテーション運用に必要な最低限の隻数を確保している。

 これを護衛するミサイル駆逐艦やフリゲート艦は概ね日本海軍の艦艇をライセンス生産したもので、集海軍も中華民国海軍も遠目には日本海軍と見分けがつかない。

 しかし、近年は造船技術の向上に伴い機関や兵装は日本製のコンポーネントを活用しつつ、独自のフリゲート艦の建造に乗り出している。

 2019年11月8日に、南シナ海で米海軍の駆逐艦ヘールシェイクと衝突事故を起こした「矢埜」は中華民国海軍が独自に建造した上海級フリゲートの12番艦である。

 上海級は中華民国が独自に設計した基準排水3,800t級のバランスが取れたフリゲート艦で、対空・対水上・対潜兵装は大半が日本製のコンポーネントを使用している。

 その設計は極めてステルスを重視したもので、フランス海軍のラファイエット級フリゲート艦を模範にしているとも言われている。

 日本海軍は、水上艦のステルス製についてはその効果からあまり重視しているとは言えない状況が長く続いており、上海級が発表されたときには、


「中国に先を越された!」


 と嘆くミリタリーマニアが大量発生した。

 しかし、水上艦のマストやESM装置の完全ステルス化は2020年時点でも困難であり、ラファイエット級のステルス性も沿岸作戦において一定範囲内で有用というレベルのものでしかない。

 外洋で活動する帝国海軍の駆逐艦、航空戦艦、空母の完全ステルス化が実現するのは今世紀中には困難という意見が大勢である。

 ただし、日本海軍が水上艦のステルス化に全く無頓着というわけではない。

 2020年に就役した帝国海軍の新型原子力空母「飛龍」は、前級の鳳翔級の全面改良型でアメリカ海軍のフォード級原子力空母に匹敵する巨艦(満載排水量10万t)ではあるものの、日本空母としては初めてステルス設計が取り入れられており、そのレーダー反射面積は小型漁船並みに縮減されているという噂である。

 飛龍の就役で、帝国海軍は空母8隻に復帰し、集海軍や中華民国海軍の空母と併せてAPO加盟国全体で全14隻の空母を配備したことになる。

 これはアメリカ海軍の11隻を上回る戦力配備であり、NATO海軍のクイーン・エリザベス級2隻(英海軍)、シャルル・ド・ゴール1隻(仏海軍)を足して、漸く同数となる。

 ただし、ソ連海軍の重航空巡洋艦2隻(アドミラル・クズネツォフ、ワリヤーグ)を合算すると中型空母以上の数では我が方が有利となる。

 もちろん、単純に数で勝っていれば勝てるという話ではない。

 危機感を抱いたアメリカ海軍は2030年までに新型のフォード級原子力空母12隻で現在のニミッツ級10隻をリプレイスする計画を発表している。

 ただし、フォード級は先進的すぎる装備(電磁式航空機発射システムなど)が仇となって未だに実動体制にはほど遠い状況である。

 飛龍は、保守的なスチームカタパルト方式を採用しており、短期的には帝国海軍が正解だったと言えるが、今後はどうなるかは分からない。

 話を2010年代初頭に戻すと、APO軍やロシア軍の戦力展開に米軍やNATO軍も戦力増強で対抗した。

 冷戦中に幾度も見られた大国の威信の衝突だった。

 90年代以前ならばアメリカの一方的な展開だっただろうが、経済力をつけたAPO加盟国やロシアは一歩も引き下がらなかった。

 海上では、双方の空母機動部隊が艦載機を待機させ即時一斉攻撃アルファストライクに入り、空中においては戦略爆撃機の水爆パトロールが激増した。水中でも多数の潜水艦が双方の弾道弾搭載潜水艦を巡って緊張状態となった。

 報道されていないが、日米露のICBMも燃料を注入して即時発射可能体制に入っていたはずである。

 しかし、終末の鐘が鳴ることはなかった。

 先に折れたのはアメリカ合衆国で、ブラック・フセイン・オバマ大統領は衝突回避のためにホットラインの受話器をとることになる。

 アメリカが先に折れたのは、国内世論が保たなかったためである。

 もちろん、頑固なアメリカ人が日露の武力に恐れをなしたわけではない。

 アメリカの経済力と科学力に裏打ちされた軍事力は2020年時点でも恐るべきものである。

 しかし、アメリカはイラク戦争やアフガニスタン戦争の失敗や90年代に各地に「世界の警察官」として派遣された地域紛争で疲れ果てていた。

 また、盤石に見えたNATO軍も内部では分裂しており、中華民国や集との貿易を重視するドイツが対AEU融和を唱えていた。

 ドイツ軍はヨーロッパにおけるNATO最大の軍事力となっており、ドイツが動かなければ東欧はロシア軍の津波に襲われるのは必至だった。

 アメリカの外交関係者が述べることを信じるならば、90年代のNATO東方拡大の最大の失敗は、ドイツのNATO加盟だったと言える。

 さらに世界金融危機で傷ついた経済も回復からほど遠かった。

 現大統領のトランブ氏が語るように、


「アメリカは世界の警察官ではない」


 というのが現在のアメリカ世論の大勢である。

 アラブの春で頻発する内戦や紛争に対して、アメリカ世論は関わり合いになることを拒絶したのだった。

 もちろん、日本もそうした声がまるでないわけではなかった。

 何しろ2011年3月11日には、東日本大震災が発生し、日本の災害史上最大の被害に苦しんでいた。

 幸いにも死傷者数は3,511人と阪神淡路大震災や伊勢湾台風よりも小さく抑え込まれていたが、津波によって発生した経済的な損失は甚大なものだった。

 この場合の甚大とは我々の主観であることはお断りしておく。

 諸外国は、観測史上最大のマグニチュード9.1を観測した巨大地震で、なぜこの程度の被害で済んだのか首を傾げていたからだ。

 これが中国やロシア、あるいはアメリカで発生していたら死傷数は最大で2桁は違ったと考えられている。

 東日本大震災の被害がその地震規模に比べて小さかったのは、田中角英の遺産「日本列島改造計画」が大きかった。

 列島改造計画は、交通インフラの整備や工業地帯の地方移転、中央省庁の分散化などで語られることが多いが、防災設備の充実も同時に行われている。

 東北地方は歴史的に度々津波の被害に遭っていた地域であり、津波対策は不可欠だった。

 角英は防災計画を策定する際に、関東大震災のマグニチュード7.9を上回るマグニチュード9を想定し、最大38mの津波に備えた防備を要求していた。

 これは1970年代としては、非現実的とされていた。

 しかし、ある程度は自由化が進んだとしても、幕府全盛期の国家元帥の命令は絶対であり、角英の求めた耐震基準、津波対策基準は遵守された。

 結果として、三陸沿岸地方の大半は人が住めない地域となり、建て替え時期に住宅地の高台移転が少しずつ進むことになった。

 津波対策として高さ35mの堤防道路が整備され、多くの集落がその内側に移転することになった。

 角英の正しさは、40年後の2011年に証明された。

 幕府崩壊後、山本五十六や田中角英の銅像は民主化の風潮で撤去されることが多くなったが、2015年に陸前高田市が奇跡の一本の松のとなりに田中角英の銅像を新造したことは記憶に新しい。

 津波で浸水した地域の多くも非居住区であり、近場の高台には多数の津波避難所が整備されていた。

 小中学校などの公共施設も高台か、堤防道路の内側に建設されており、津波の被害にあった建物は一つもなかった。

 それでも津波によって広範囲に道路網や鉄道網が寸断されることになった。

 諸外国が驚愕したのは、その復旧の早さで国鉄・日本道路公団は全国から資機材・余剰人員を動員して僅か3カ月で主要な高速道路・国道・鉄道網を復旧させた。

 国鉄が運営する東北新幹線などは、事故後僅か2週間で運行を再開させてみせた。 

 日頃はサービスの悪さや非効率性などで評判の悪い国鉄と道路公団は、災害復旧の早さでその組織力や技術力を国民にアピールし、改めて信頼を勝ち取った。

 ちなみにアメリカ合衆国はトモダチ作戦と称して支援物資と共に偵察部隊を送り込んで、日本のインフラ復旧や災害支援部隊の展開状況を観察し、全面核攻撃を実施した場合の日本のインフラ復旧速度を測定していた。

 その結果は公表はされていないが、噂によると日本列島へ全面核攻撃を実施した場合でも、最短3日で基礎通信インフラが復旧し、3カ月以内に衛生・交通などのインフラが復旧し、産業活動の再開が可能であり、日本の国家基盤を崩壊に導くには核弾頭、ICBMが共に不足しているという結論に達したと言われている。

 アメリカの核戦略にさえ影響を及ぼした国鉄・道路公団は90年代の改革議論が華やかりし頃は米国流の民営化の対象とされていた。

 ただし、民営化議論はアメリカニズムの香りが強く、世論の受けが悪かったことや90年代末には景気が回復したことから沙汰止みとなっていた。

 景気が悪く余裕がないときには目についたサービスの悪さや非効率も、景気さえ良ければさほど目くじらを立てる程のことではなかったのである。

 国鉄も道路公団も列島改造計画の申し子のような存在であり、全国の高速鉄道、高速道路の整備・維持に膨大な余剰人員を抱えていた。

 余剰人員は有事において、予備兵力として被災地に投入され、迅速なインフラの復旧に活用されたのである。

 これは国鉄や道路公団以外の日本の公的部門も同様であり、全国の国立病院や空港公団、水道公団や住宅公団、電力公団なども膨大な余剰人員を抱えており、基本的に人件費がペイしないため赤字経営である。

 これが会計上問題にならないのは、国鉄や道路公団などが膨大な国有鉄道法や日本道路公団法において、国鉄や道路公団は帝国全土に均一なナショナル・サービスの提供を義務付けられると共に利潤の追求を禁じられているためである。

 よって、赤字は公的資金投入による補填が法的に認められており、経営破綻はありえない。

 赤字補填につぎ込む公的資金にしたところで、政府が新しく通貨を発行して支出しているだけの話である。

 日本の公的部門が抱える雇用の多くが、国鉄などのナショナル・サービスの提供部門であり、公務員の数は先進国の中では最も多い。

 こうした体制は民業圧迫という批判もあるが、列島改造計画で建設された地方インフラを支えるためには不可欠なものである。

 列島改造で産業の分散化が進んだとはいえ、農業や漁業などの一次産業しかない地域もあり、そうした地域でサラリーマンになるには地方公務員になるか、国鉄職員などの公団職員になるしかないことが多い。

 また、景気の浮沈に経営が左右されない公企業や公的部門は雇用が安定供給されるという利点もある。

 バブル崩壊で雇用市場が冷え込んでも、深刻な就職難が発生しなかったのは、日本の公的部門の雇用が非常に大きく、雇用市場を下支えしていたことが大きい。

 これは近年のコロナショックによる景気後退でも同様であり、公的部門の雇用の大きさが雇用市場の乱降下を和らげる方向で作用していることは明らかである。

 近年になって、もしも、こうした公的部門の分厚い雇用保障がなければ、就職氷河期なる現象が起きていた可能性があるという研究が発表され、改めて公営企業の必要性が再認識されることになった。

 話を東日本大震災に戻すと麻生多朗首相(当時)は、超党派で震災復興特別会計法案を成立させ、10年間で200兆円の支出が決定した。

 こうした巨額の財政支出について、海外(特にアメリカのマスコミ)や国内の新自由主義者からは、財政破綻の恐れがあるという批判を集めた。

 それに対して麻生首相は、


「刷って返せばいい、簡単だろ?」


 と述べて批判を一蹴している。

 麻生首相は舌禍事件が多く毀誉褒貶が激しい人物であるが、中華民国の安晋三総統と良好な関係を築くなど、経済運営や外交手腕に優れていた。

 2008年に発生したアメリカ発の世界金融危機でも、100兆円の緊急経済対策をまとめて日本経済をいち早く経済不況から脱出させている。

 麻生首相が進めた国民一人当たり一律10万円の臨時給付金は、選挙目当てのバラマキ政策として新自由主義者から轟轟たる非難にさらされたが、結果として最も効果的な経済対策となった。

 2011年のアラブの春では、オバマ米大統領との一瞬即発の外交戦を制している。

 この時、麻生首相はイラン当局やサウジアラビアの革命勢力と粘りづよく交渉を行って、サウジ王家のアメリカ亡命を実現させるなど、サウジ革命のソフトランディングを実現させた。

 また、アメリカが懸念していたイスラム国(ISIL)といった過激原理主義勢力に対して、日本軍(国際自衛隊)を投入し、徹底した軍事制圧を実施した。

 イラクやサウジアラビア、シリアでの対イスラム国戦争に投入された国際自衛隊は多くの犠牲を払って任務を成功させ、日本やAPO加盟国が過激主義と妥協しないことを世界に示した。

 日本が世界秩序を維持するために犠牲をいとわないことを示したことで、オバマ大統領から尊敬と信用を得てアメリカ中東軍の撤退にこぎつけた。

 ただし、オバマ大統領の示した尊敬と信用がアメリカ世論には理解されたとは言い難く、後任のトランブ氏はこの決定をアメリカ史上最低の取引ディールとこき下ろしている。

 筆者としては、世界秩序のために我々が払った多大な犠牲を取引などという言葉で総括するトランブ大統領の態度には軽蔑と憤りしか感じられない。

 話を東日本大震災に戻すと、200兆円の半数が震災減税の予算で所得税や法人税の減税、さらに被災地の固定資産税の10年間の免税措置に必要な交付金に充てられた。

 残りの半分は、インフラ再建や被災地のIT復興資金とされた。

 IT復興資金とは、震災によって更地になった地域に高度なITインフラを建設し、IT化が遅れ気味だった東北地方の情報化を一気に推し進める政策である。

 IT化は、農業や漁業においても食品の安全性向上に不可欠なトレーサビリティ証明の発行や、漁業資源の保護にも活用される。

 公的部門においても、公的な手続きがインターネットで実施できるようになり、窓口業務の削減や効率化が可能となる。

 東北地方は2011年以後のITインフラの整備が進み、東北モデルとして日本国内外にもITインフラ整備の手本として適用されつつある。

 東京よりもITインフラが整備された東北の方がオンラインで仕事をする上では有利であり、震災後に会社を移転した例は多い。

 こうした状況は、新型コロナウイルスによる都市封鎖の危険性が高まった近年はさらに加速する傾向があり、東北地方は転入超過の状態となっている。

 ITインフラが整っていれば、防疫上危険な人口過密地域を離れて、地方でもオンラインで仕事が可能であるからだ

 また、IT以外でも震災によって高い評価を得て業績を拡大した産業がある。

 前述のインフラ産業と原子力産業である。

 インフラ産業は未曾有の災害に耐え抜いたことやその後の迅速な復旧が評価され、海外へのインフラ輸出が拡大した。

 特に鉄道は高く評価され、インドネシアやタイ、ビルマへの輸出に成功している。

 また、地震と津波に耐え抜いた日本の原子力発電所は、今のところ世界で唯一マグニチュード9に耐えた原子力発電所としてアジアのみならずイギリスへの輸出にも成功している。

 日本の核関連施設の集まっている青森県では、日本の核技術の粋を集めた小型モジュール炉の実用化と輸出のために原子炉景気というやや物騒な名前の好景気に沸いている状況である。

 小型モジュール炉は次世代型の原子力発電所として世界各国が開発にしのぎを削っており、日本では東芝が世界に先駆けて実用化に成功した。

 日本でも都市部の火力発電所を全て小型モジュール炉で置換する計画が進んでいる。

 近年の気候変動対策のために脱炭素は世界的な潮流であり、小型モジュール炉輸出は今後10年間で100兆円規模の市場となる見込みである。

 小型モジュール炉は熱源として水素製造にも活用される見込みであり、日本が進める内燃機関の水素化にも利用できる。

 話がやや逸れたが、2011年の東日本大震災を経て、日本は復興景気から毎年5%のやや高成長路線となった。

 日本のような先進国が、3%以上の経済成長を実現するのは不可能だと世界の主流派経済学者は考えていたが、日本経済はその予想の上をいくことになった。

 こうした日本経済の実態や構造、日本政府の財政支出について、詳細な研究が行われた結果として生まれたのがMMT(現代貨幣理論)である。

 MMTが主張する「就労保証プログラム」の導入については、日本の公営企業がモデルとなっており、インフレなき完全雇用を実現する政策手段として強く提唱されている。

 集や中華民国も世界金融危機に対応した景気刺激策(公共投資)を拡大し、年率10%程度の経済成長を続けてきた。

 その結果、2020年時点のGDPは、日本(14兆ドル)、集(7兆ドル)、中華民国(10兆ドル)に達しており、大韓帝国(1.6兆ドル)も合算すれば、日中韓で合計33兆ドルに達して、アメリカ合衆国の21兆ドルを5割以上上回ることになる。

 経済において、既にアメリカは世界の中心ではないと言えるだろう。

  

「20世紀はアメリカの時代。21世紀はアジア時代」


 というアジア主義者の予言は既に成就している。

 さらに2024年からは、経済力で並んだ日・集・韓・華による統一通貨政策ニューイェンが始まる。

 これによって、12億人の巨大統一市場が誕生することになる。

 日本で使用する新円ニューイェンの10万円札には山本五十六国家元帥の図柄が使用されることが発表済である。

 ちなみに1万円札は渋沢栄一、5千円札は津田梅子、千円札は三島由紀雄となっている。

 田中角英が1万円札に選ばれなかったことは物議を呼んだが、次の紙幣改刷で10万円札に使用するために温存されているというのが大方の予想である。

 今後、AEU加盟国は順次、新円を導入して通貨を統合していくことになる。

 まず2025年にシンガポールが参加し、2026年にはインドネシアとマレーシアの通貨が統合される。2030年にフィリピン、2032年にタイ、ベトナム、カンボジア、ビルマ、ラオスの通貨統合が行われる予定である。

 新円ニューイェンにはオーストラリアといったオセアニア諸国も関心を示している。

 通貨の統合に伴い2024年には、台北に新円を発行する連合銀行が発足し、財政を統合するための連合基金が設置される。

 こうした試みが成功するかどうかは未知数だが、国際基軸通貨として米ドルと新円が並び立つ日が来ることは確実視されている。

 AEU全体としては、既に経済力でアメリカを上回っている以上、それは必然である。

 ただし、単独では依然としてアメリカが世界最大の経済力を保持している。

 彼らとの協力をなくして解決できない世界規模の問題は数多い。

 例えば、地球温暖化問題等である。

 西大平洋に広大な島嶼領土をもつ日本は、海面上昇で失う領土が多く、先進国の中では最も温暖化対策に力を入れている。

 2005年に採択された京都議定書などは日本の外交努力の粋を集めて合意にこぎつけた。

 京都議定書は、集や中華民国、インドといった発展途上国が不参加という欠陥があるものの、これまで大量の温室効果ガスを排出して温暖化を促進してきた先進国に気候変動を義務付けた画期的なものである。

 しかし、アメリカは途上国などが不参加であることを理由に議定書を拒否している。

 その後に結ばれたパリ協定もオバマ大統領時代には参加していたが、トランブ政権になると一方的に離脱した。

 アメリカ第一主義を強く打ち出したトランブ政権は、日本や集、中華民国に制裁関税を課し、政府調達から日本製品等を排除するなど東アジア世界に敵意を隠そうともしてない。 

 そして、そうした行動がアメリカ世論の強い支持を受けている現状がある。

 筆者はこれは強さではなく、アメリカの弱さや焦りの表現であると考えるところであるが、世界最大の軍事・経済力をもつ国のあり方としては極めて危ういと言わざるえない。

 2019年から世界に拡散した新型コロナウイルス・パンデミックにおいても、トランブ大統領はWHOとの協力を拒否し、日中との情報交換にも否定的だった。

 欧州諸国やアメリカは、新型コロナウイルスをただの風邪と過少評価していた節がある。

 当初、日本が豪華客船での集団感染において対応に苦慮していると、彼らは日本の対応を人権無視や人道軽視などというあらぬ方向から批判していた。

 日本政府が、世界に先駆けて国境封鎖を打ち出した際にも、経済を無視した大げさすぎる愚かな対応や鎖国とこき下ろしていた。

 しかし、その後の展開を考えれば、日本の対応こそが正しく、欧米諸国が誤りを犯したことは彼我の死傷者数や経済損失額を比較すれば明らかである。 

 迅速な対応を主導した蔡永文首相が、世界で最も影響力がある女性政治家に選ばれたことは筆者としては当然の評価であると考えるところである。

 蔡永文首相は、李東輝から始まる日本政界の台湾閥が送り出した日本初の女性首相で、首相に就任した際は、


「西のメーテル(ドイツ)、東の蔡永文(日本)あり」


 とマスコミ各社が鳴り物入りで書き立てたものである。

 ただし、2018年のドイツ総選挙で大規模な不正が行われ、メーテル政権を支えるドイツ統一党以外の政党が壊滅状態になるなど、ドイツの権威主義化がはっきりした現在ではこのような書き方をされることは減っている。

 蔡首相は、豪華客船での集団感染に関する報告から最悪の事態を想定した防疫体制の構築を指示し、世論の批判を承知した上で時間稼ぎとして先進国で初の国境封鎖を打ち出した。

 国境封鎖で稼いだ時間を無駄にすることなく、検疫体制の強化や医療資源の確保を図り、そのために必要な補正予算(60兆円)を半年足らずで国会を通過させている。

 国境封鎖を突破して侵入した感染者は、PCR検査の爆撃と日本中のホテル・ウィークリーマンションを借り上げて用意した隔離施設への収容で封殺された。

 マスクや消毒用アルコールなどの防疫資材も、全額国費で各医療メーカーが設備投資を行って大車輪で生産体制を整え、国内必要量を確保して、パニックの発生を未然に防いでいる。

 そのころ、アメリカではトランブ大統領がコロナはただの風邪だと放言していた。

 その後、アメリカでは泥縄式にコロナ対策に乗り出したが、マスクの不足でハンカチと事務用の輪ゴムを使って代用マスクを作るという醜態を晒すことになった。

 医療体制も全く不足しており、2020年末までに全米で80万人が死亡した。

 日本は僅かに1,850人でしかない。

 日本は、2020年8月には0コロナ体制を確立した上で、1年延期となった2020年東京オリンピックを有観客で開催することさえできた。

 ワクチンの開発こそアメリカは先行したが、ファイザー製ワクチンの完成から僅か1カ月後に日本も大正製薬がRNAワクチンを完成させて量産化に成功している。

 また、コロナ禍で傷んだ経済への対応も日本は世界的に見て成功と言っていい成果を挙げている。

 2021年の臨時国会では、超党派で纏められた200兆円ものコロナ復興特別予算が国会を通過した。

 既に前年には120兆円のコロナ特別対策予算が成立しており、2年間で320兆円もの財政支出が行われた計算になる。

 コロナ復興特別予算によって、家賃の全額保証や休業に協力した企業への全額粗利保証、さらに6カ月間の国民一人当たり10万円の特別給付が実現した。

 経済対策によって株価などは過熱気味ですらあり、日経平均株価は70,000円の大台に乗っている。

 各企業も特別給付によって喚起された旺盛な消費に応えるために設備投資や生産拡大を進めており、日本の景気拡大は当面、止まりそうにない。

 アメリカのトランブ政権は、民主党と共和党の対立で景気対策予算の成立に失敗し、深刻な景気後退に陥っているのとは対象的である。

 優れた政治力で超党派のコロナ復興特別予算を取りまとめた蔡政権は、現在2期目で政権は2025年まで続く見込みである。

 支持率からすれば、3期12年や4期16年も不可能ではないと言われているが、首相本人は否定的である。

 明確な法的制約があるわけではないが、李東輝首相が2期8年で政権を退いたことは権力者の持つべき自制心の表れであり、日本政治の不文律となっている。

 ポスト蔡政権を占うのはやや時期尚早ではあるが、最有力候補と見られているのは蔡政権の通産大臣として景気対策を取りまとめた民進党の山本太朗議員である。

 山本氏は、代議士になる前はコメディアン俳優という異例の経歴の持ち主で、通産大臣の就任は蔡首相の抜擢人事だった。

 ちなみにコメディアン俳優時代の山本氏が得意とした芸は、山本五十六国家元帥のモノマネである。

 メロメロQという山本五十六国家元帥が得意とした宴会芸をほぼ完璧に再現できる他に、


「入れ替わってる~!」


 という寸劇も得意としている。

 あまりにも山本五十六国家元帥のモノマネが完璧すぎるため、「帰ってきた山本五十六」という映画の主役に抜擢されたこともある。

「帰ってきた山本五十六」は、ドイツで上映された「帰ってきたヒトラー」というドキュメンタリー映画のパロディ作品である。

 作中の山本氏の演技が完璧すぎて山本五十六国家元帥が生き返ったと勘違いした退役軍人の高齢者が車椅子から飛び起きて最敬礼するシーンが物議を呼んだことがある。

 山本氏はアクが強く、人物の好悪が激しい人物ではあるが、コロナ復興特別予算を取りまとめた経済への深い理解や政治手腕は高く評価されており、ポスト蔡の最有力候補となっている。

 軍部も山本氏の防衛政策への理解(特に海軍戦略への洞察が深い)に強い信頼を寄せており、海軍上層部に至っては心酔と言って過言ではない状態である。

 山本氏の外交姿勢はAPOやAEUを基本とした協調外交を基本としている他、日本国内では珍しい親米外交推進を掲げている。

 山本氏の親米姿勢は、国内右派からのウケが悪い。

 しかし、前述のとおり日本や東アジア地域のみでは解決できない世界規模の問題に取り組む上でアメリカとの調整は必要不可欠である。

 また、山本氏は非ドイツ外交推進を主張している。

 ヨーロッパでは、ドイツを中心にNATOの機能不全から、安全保障体制が不安定化しており、ドイツから領土返還請求を受けているポーランドがロシアと軍事協力を拡大するなど、不透明な状態が続いている。

 ルーマニアやブルガリアも機能不全のNATOと経済が好調なロシアを天秤にかける動きを見せており、アメリカの内向き姿勢が合わさってNATOの空文化が著しい。

 トルコは機能不全のNATOから離脱してロシアから地対空ミサイルや戦闘機を購入している。

 ヨーロッパで孤立しているドイツは、経済でAEUと連携を深めているが、山本氏はドイツとの協調には否定的である。

 山本氏がネットで発言した「非ドイツ3原則、(1)助けない(2)来させない(3)関わらない」は、日本国内のドイツ永住者やその2世、3世の強い反発を集めている。

 しかし、筆者としてもエゴイズムの塊のようなドイツの動きには、追随するべきではないと考えるところである。

 距離的な問題でドイツとの連携など不可能であるし、日本国内に住むドイツ永住者が何をやって祖国から逃げ出す羽目になったのかを我々はよく知っているはずである。

 権威主義を強めるドイツ情勢や被害妄想的なアメリカの対外姿勢が今後、どうなるのかは予断を許さないところではあるが、対話と信頼醸成を呼びかける山本氏の姿勢は中道派や左派から評価されている。

 筆者も、コロナ禍において無益な国家間の対立を回避し、防疫のために国際社会が一致団結した対応をとることを切に願うものである。

 2022年こそ、新型コロナウイルスに対して日本が、人類社会が勝利した年であってほしいものである。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 現代での山本五十六、田中角栄、アメリカ,ソ連大統領の評価とか見てみたかった
[良い点] お疲れさまでした。 毎回ちゃんと完結させてくれるのほんとありがてえ [気になる点] 今回はまだ存命かつ現役バリバリの人物が多数登場してましたが 登場させるのはせめて引退済みの人までにしとい…
[一言] 読んでて、読み終えて。 こんなに悲しい気分になったのは初めてでした。 マジで泣けるわ。
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