ページ3―28『好転に向けて』
今となっては抵抗することなどできるわけのないシアルを連れて、263番は戦場を後にした。この戦場から、2人の使徒が居なくなった。
「マクタニア帝国の、首都神殿…」
「ヒトジチを取るなんて、悪い子なのです! 犯罪者なのです! おまわりさんなのです! ぴーぽーぴーぽーなのです! 」
ハプは呆気に取られ、ケプナスは顔を真っ赤にしてその様子を眺める。マクタニア帝国、その首都にある神殿。その名前は、忘れているはずがない。
ついさっき、その当人、263番から聞いた場所だ。
「魔術神が誕生した場所なんだよね」
「そ、そうなのですかぁ!? 」
そう、魔術神秘教団の信仰対象、謎に満ちた存在である魔術神の誕生地だ。神殿には、この教団のことを詳しく知ることの出来る場所だ。そこにわざわざ人質を取り、チームソルビ市一行を誘き寄せようとしている。
「なんでだろう…。確かにあの人たちにとってもシアルが大切なのはわかるけど、わざわざあんなこと言って、何がしたいのかな」
ハプはいくつかの考えをだすが、誰もこれも纏まらない。こう言った相手の諸事情を探る仕事は、大抵知識の多いシアルに任せていたからだ。シアルにそれが不可能な状態の時は、変わってペリィが分析していたが、ここにはペリィもいない。この問題は一旦お預けにするしかないだろう。
「多分、罠なのですよ! その神殿があの人たちの神様の場所なんだったら、その場所もきょーだんのおててのなかなのです! きっと、きっと…『手のひらの上でころころ回される』のですよ! 」
「うん…ありがとうケプナス。その話は、帰ってからペリィたちとゆっくりしよ。穂羽から始めたから、こんな事言うのよくないと思うけど、今は他のことを優先するべきだよ。
ケプナス、付いてきて。一旦元の工場に戻って、ケッパスとラビヌを回復させる。ルーは暫く安静にしててね」
ルーは寝そべったまま、静かに微笑んで頷いた。それを見てハプも微笑みを返し、その場を後にした。
「りょーかいなのです! ケプナス号発車! 」
2人は小走りで工場に向かう。恐らく、2人はまだ中にいるだろう。2人以外の使徒はまだこの辺りにとどまっているはずだし、人質の確保も完了しているため2人を攫ったところで需要がない。
「急がなきゃ…! 出来れば2人にも加担して欲しいし、何より、穂羽が早くあっちに戻らないと」
ケプナスは大きく3回頷いて、その勢いにやられてコケそうになった。
「ふゆー…でも、あんまり急いでたら、あの二人をちゃんと治せないのですよ」
「そうだよね…困っちゃう。最悪…途中まで穂羽が回復させておくから、それからはケプナスに頼んじゃおっかな? 」
一瞬だけ振り向いて、ケプナスをウインクを投げかけるハプ。それを見たケプナスは鼻息を荒くして、もう一度大きく頷いた。
「やっと…やっとおにちゃーまもケプナス様の実力を理解したのですね! ふっふっふ…この天才魔術師であるケプナス様に任せておくのです! そんなの! ちょちょいの! ちょいで! やってしまうのです! 」
ハプはわざとらしく返事をしようとしたが、その言葉を押し込んで言った。
「…やっぱり不安。2人の命が危険かもしれない」
「ふえぇ!? それは、それは、それはぁ…ひどひど! ひどひどというものなのですよ! 」
「あはは…冗談だよ。でも、ケプナス1人には任せられないから、穂羽も一緒にいるからね。あっちにいる使徒達は、ゆぴに頑張ってもらわなくちゃ…」
ちょっとしたからかいに対して、100点満点の反応をしたケプナス。その慌てようを見てハプは口に手を当てて静かに笑い、落ち着いた様子で対応した。
そんなやり取りをしている内に、2人はキャリフラワーズ工作学会の本部に辿り着いた。
目的の2人の名前を呼びながら、ハプとケプナスは奥へ進んで行く。
「やっぱり、この入口入りにくい…! 迷路みたいで、なかなか覚えられないもん…」
「天才ケプナス様がいれば、迷路なんて余裕なのですよ! 固有魔法遊び…迷路! 」
そう言うと、ケプナスの目の前から、古びた紙のようなものが降ってきた。
「あっ、そうだった…! これ、道書いてくれてるのかな? 」
「どれどれなのです…」
その紙を広げて中を見ると、そこには沢山の文字が書いてあった。
「ImgI…これを並び替えてできる方向に進め。こ、小文字! 小文字は読めないのですよ! わかんないのですよ! 」
「なにこれ…ローマ字でしょ!? それなら4文字だから左な筈もなく右だよね! 答えじゃなくてヒントがでて来るの!? 」
焦ってシステムに文句を言うハプに対して、ケプナスは文句を言う。
「答えが初めからわかる迷路なんて楽しくないのですよ! 謎を解いて、そして初めてヒントや答えを獲得するのです! 謎解きと、迷路が、同じ時に一緒に遊べる…最高なのですよ! これぞ遊びなのです! 」
熱血的に語るケプナスを後にして、ハプは自力で迷路を進む。待つのです! と叫ぶ声は聞こえたが、ここで待っていても無駄な時間を取られるだけだ。待つ代わりにケプナスを自分側に引き連れ迷路を抜けて、ハプは倒れている2人を見つける。数秒遅れてケプナスもそのことに気がつくと、すぐさま2人に駆け寄った。
「ふたり! ふーたーり! 起きて! 起きなきゃダメなのですよ! おはようなのです! こんにちわなのです! 今は夜なのです、起きろなのです…ん? 夜だから寝てていいのです」
「普段はそうだけど、今は起きて欲しいから…! ごめんね、無理矢理回復させるみたいになっちゃって…! 」
そう言ってハプは2人の間に入り、右手でラビヌ、左手でケッパスの手を握る。そして2人の傷を治すために回復を始めた。その様子をケプナスは眺めていたが、暇になったのかケプナスソードと呼ばれていたおもちゃの剣を取り出して振り回していた。
「待っててね…ゆぴも、あとちょっとだけ、耐えてて欲しいの…! 」
◇◆◇◆◇
ハプが全身全霊で現状の好転に手を差し伸べている中、ゆぴも全力を奮って戦闘を行う。ケミキルと相手をしていたところ、ルーが相手をしていた他の使徒もさらに加わり、いい状態とは言えなかった。
「はぁ…早くしなさいよケプナス! あたし1人に任せて! 馬鹿! ばーか! ハプも早く来なさいよ! もう! なんなのよ! ばーーーか! 」
一心不乱に銃を振り回しながら、何度も2人の名前を呼ぶ。
「さっきまでの威勢はどこに行ったのやら? 仲間にばっかり頼らないで、1人で相手でもしてたら? 因縁の相手なんでしょ? ね? 」
「んな…そうよ! あたし、1人でもできるんだから! ハプに来て欲しいなんてちっとも思ってなんかないんだから! ケプナスに励まして欲しいなんて欠片も考えてなかったんだから! 援助して欲しいなんて思った事ないんだから! さっさと死になさいよ! 」
更に高速で、弾をそこら一帯に飛ばしまくるゆぴ。ケミキルは一切の焦りを見せず、その弾を回避し続ける。
ゆぴはその様子に不快感を抱き、相手を鋭い目付きで睨みつけた。
「…あたし一人なことに文句はないわ。ただ、あんたも1人で戦いなさい。邪魔なのよ。周りでちらほら見えてるそこの雑魚達。どきなさい、ここはあたしたちの戦場なんだから」
落ち着き、使徒に対してそう話すゆぴ。それを聞いて使徒はケミキルに目で合図をする。
「いいよ? 君たちももう帰って帰って? この子の言ってる通り、君たちがいても戦況に大差はないし? 流石だね、わかってんじゃん? やっぱり、僕達は2人で争うべきだよね? 初めて会った、あの時みたいにさ? 」
ケミキルは両手にメスを構える。それを見て、ゆぴは手に持ったマシンガンを捨て去り、愛用のモーニングスターを取り出す。
「あの時の恐怖をさ? 」
「あの時の楽しさをね! 」
2人は互いに見つめ合い、武器を向け合う。
「「もう一度味合わせて!!! 」」




