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異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第3章:『罪と友情の1章』
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ページ3―26『うそ』

「……っ、逃げるのです! 」



突如、爆発が起こり、ケプナスとハプは一命を取り留めた。ケプナスは後ろを確認しながら、ハプを引きずって逃げる。

しばらくは周囲を気にしていたが、151番もケミキルも、他の使徒も追ってくる気配はない。


ケプナスは爆発でボロボロになった工場から、外に出ようと一生懸命ハプを引きずる。スピードは遅いが、何故かケプナスは安心していた。それは、使徒が追ってこないからではない。決して、戦況が有利だから、とかでもない。



「ゆぴ…ちょっと、遅いのです。ばーか」



親友が、守ってくれた。あの派手な爆発。このタイミングで、無駄にカッコつけて登場する人物。ケプナスの親友、パートナーの、ゆーか・ゆーぴぃーだ。



「これが終わったら、怒らないといけないのです」



ケプナスは少しだけ口元を綻ばせ、やっとの思いで建物の外に出た。きっとこの工場は、すぐに崩れるだろう。今からここで、激闘が繰り広げられるのだから。



「崩れちゃったら危ないのですから、おにちゃーまーは土の上に寝てなのです」



ケプナスはハプを土の上に仰向けで寝かせ、隣にちょこんと体育座りをした。



「263番が、おにちゃーまーを31日起こさないようにしてしまったのです」



ハプは心地よさそうな顔で、ケプナスの隣に眠っていた。ケプナスがいることで、安心したのだろう。



「こんな状況で、その顔は、憎たらしいのです」



ケプナスは少し頬を膨らませ、ハプを見つめた。だがその安心した顔を眺めていると、ケプナスまで、安心してきた。そっと両手でハプの手を包み、笑顔でケプナスは言った。



「役に立てなくて、ごめんなさいなのです」



ハプはそれを聞いても、ずっと、眠っている。



「何も、できなくて…」



声を少しだけ震わせて、囁いた。



「ケプナスは、悪い子なのです…」



涙ぐんでいるのを隠すように、笑顔でぐっと手を握りしめた。

だがその笑顔によって、返って悲しみが増えていく。自分に対する憎しみが、増えていく。



「おにちゃーまーを守れなくて…」



乾いた土に、一滴、少ししょっぱい水が垂れた。



「ごめんなさいなのです…! 」



二滴、三滴、四滴……。ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽろぽろぽろ。

涙の量は増えていき、誰も見ていない、誰も聞いていないひとりぼっちの場所で、ケプナスは泣いた。

ケプナスは、あの時から何も変わっていない。みんなの役に立とうとしても、結局役に立てない。何をすればいいかもわからなくて、やろうと思ってもできない。何もかもが出来損ないだ。



「また、ゆぴに助けられたのです…」



ゆぴはすごい。ケプナスは、ゆぴのような人を目指したい。



「ゆぴは自分が弱いってわかってて、弱いから強くなろうとしているのです」



ケプナスはそう言って、ハプの胸に手を当てた。そして、今まで考えていたことを、全て無にした。忘れてしまえ。無くしてしまえ。逃げてしまえ。

嫌なことはぜーんぶおいて、嘘ばっかりついて明るく自信たっぷりに振る舞う。

それが、ケプナススルーリーだ。ケプナスなりの、生き方なのだから。



「――天才なのですから」



誰も認めないようなことを繰り返し、逃げ続けるのがケプナス。



「――最強なのですから」



自分すらも認めないようなことを自信満々に言い放ち、嫌なことを忘れるのがケプナス。



「――ケプナスは、やろうと思えばなんでも出来るのですから」



嘘に嘘を重ねて。



「お役立ちできるのですから! 」



嘘に期待と、願いと、理想を重ねて。



「おにちゃーまー…。大丈夫なのです。ケプナスは天才回復術士の、子孫なのですから!」



嘘を、本当にするために。

ケプナスは眉を吊り上げてハプの顔を見た。



「魔術を使って傷つけられたのなら、魔術でなら治せるのです。おにちゃーま、戻ってきてなのです。ケプナス様だって、おにちゃーまのいもうとなのですよ」



263番によって傷つけられた核に、ケプナスは自分の魔力を当てた。そして、目を閉じて、祈った。


――戻ってきて


と。

すると、ケプナスの手元は黄色く眩い光を放つ。



「できる…できるのです! ケプナス様も、おにちゃーまと同じように、できるのです…! 」



ケプナスは閉じた目を開き、もう一度、グッと手を押し当てた。光はそのまま続き、ハプの瞼が少しだけ動いた。

それを見て、ケプナスは少しだけ頬を綻ばせる。だが、手を抜いた瞬間に、光は少し弱まった。



「はっ、大変なのです。注意、注意。集中、しなきゃいけないのです」



ケプナスはもう一度目を閉じて、考えた。自分の身体の中にある魔力の核から、少しづつ、ハプに触れている手の方向へと魔力を送り出して行く。そして、その魔力を相手の魔力を馴染ませ、負担している部分を軽減する。



「ケプナス様は…天才回復術士、プーリル・スルーリーの子孫なのですから」



何度も、何度も言った言葉を繰り返す。その目には決意と、願いを宿していた。手元の光は徐々に大きく広がっていき、ハプの身体全体を包む。



「流石…天才なのですね」



そう言った時、ハプの目は、ゆっくりと開こうとしていた。



「おにちゃーまー…。大丈夫なのです。ケプナスは天才回復術士の、子孫なのですから! 」



ケプナスがそう言うと、まるでその言葉と、ケプナスの笑顔を待っていたかのように。ハプは、土だらけの地面に手をついて、ゆっくりとその体を起こした。

それを見て、ケプナスは一瞬だけ、口元を綻ばした。自然に出来た優しい笑顔で、ケプナスはハプに語りかける。



「おかえりなさい、おにちゃーまー」



ケプナス・スルーリーは、持ち前の回復術を使って、ハプの魔力の核を回復させた。



「ケプナス…? 」


「そうなのです。おにちゃーまーの妹、天才回復術士の子孫、天才で、最強で、すっごく可愛くて、全てにおいて世界一の、ケプナス様なのです」



それを聞いたハプは口元に手を当てて、弱く微笑んだ。



「もう…嘘ばっかり」


「嘘じゃないのです! あ、そうそう、もうケプナス様が完全に完璧に元気満々に回復させてやったのですから、今すぐにでも立ち上がってルーの手助けをするのです! あ、待つのです、ルーだけじゃなくて…」



ケプナスは両手を腰に当てて自信満々にそう言うが、ハプはその間、自分の手から淡い光を出して、さらに回復を施していた。



「残念ながら、完全に完璧には回復してないみたい。できただけ、ケプナスにしては優秀すぎる進歩だけど。だって、魔力の核が攻撃されたら、とっても大変なことになるんでしょ? 」


「そ、そうなのです! 30日くらいも眠るはずだったのを、こんなに早く…」


「でも、完璧じゃないのは確かでしょ? こんな重症を中途半端に回復させたんだから、穂羽はしばらく動けません。ごめんね、でも、嬉しかったよ。ありがとう」



ハプは素っ気なくお礼を言った。ケプナスは少し俯いて、悲しそうに言い訳を考えている。その様子に気がついたハプは、ケプナスの顔を上に向かせて、目を見て言った。



「でも…すごいね。穂羽、ケプナスのことみくびってたのかも。ケプナスきっと、才能が無いわけじゃないんだね。…もしかしてケプナス…うそ、ついてた? 」



ケプナスはそれを聞いた途端、先程までの表情を吹き飛ばすような笑顔になり、もう一度自信満々に手を組んだ。



「ふっふっふ…ケプナス様は、自分にだけはショージキモノなのですよ」


「もう…ケプナスのうそつき」

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