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異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第3章:『罪と友情の1章』
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ページ3―23『おしえられること』

 「教団について…ですか? 別にいいですけど、263番は色んなことを知りませんよ? 導き手なら少しは知っているかもですけど、263番は普通の使徒なんです。ごめんね、それでもいいのなら」


 「いい…んだ。ダメって言われると思ってた」



 ハプにはいよいよ、この少女の実態がわからなくなってきた。秘められているはずの教団の情報を殺さなければならない対象に気安く話したり、その対象と仲良くしたり。

 この子は主である151番に付き添って教団に居座っているだけで、教団のことは唯の居場所とか思っていないのかもしれない。



 「いいですよ? だってだって、263番は、あなたがお気に入りなんですから。それに、あなたはとてもラッキーです。普通の使徒よりも、沢山情報を貰えるかもしれませんね。だって、263番は…」



 263番は屈んでいるハプの耳元に唇を近づけて、小さな声で囁いた。



 「――第5の導き手様と、ふかーい関わりを持ってるんですから」



 ハプは一瞬、響く騒音を忘れてしまうような衝撃に駆られた。

 第5の導き手。今でもしっかりと覚えている。約1か月前、死に際の元時間の観望者―過去―…ナル・キャリソンによる忠告。


『もしかして、もしかするとだけど、『第2の導き手』はここに……なんでもないの。そして、友人の次に気をつけた方がいいのは……』


 その次に、ナルが最期に発した言葉が。


『第5の導き手、人る…』



 「第5の…導き手…! 」


 「あれあれ、その反応、もしかして知っているんですか? あったことがあるんですか? 怖がっているんですか? 怒っているんですか? 」


 「……違うよ。驚いているだけ。その名前だけ、聞いたことがあったから」



 それを聞いて263番は元の体勢に戻り、ほっとしたようにため息をついた。



 「良かった…ちょっと、びっくりしてしまいました。あの方は導き手の中でも、友人様くらいにしか会ったことのない方なので。使徒も連れて行かない、導き手とも会わない。任務は殆ど1人でこなす、実態のしれない導き手。それが第5の導き手様ですから」


 「ナルは…知ってたよ」


 「え? 」


 「ナルは…その人のこと、知ってたよ」



 真剣な目で見つめてくるハプに対して、263番は小首を傾げる。



 「ナル、えーと、えーと…あー! 第7の導き手様ですね! 最近、お亡くなりになられた! 」


 「そう…」


 「どうかされましたか? 」


 「…なんでもないよ」


 「そうですか、では、聞きたいことを」



 263番はその場でクルクルと回り、ハプの返答を待つ。ハプは少し263番に嫌悪感を覚えながら、何を聞き出せば皆の役に立てるのかを考える。



 「うーん、なら…。魔術神とかニート・スペリクルみたいな神様のこと、全然分からないから教えて欲しいんだけど」


 「263番にも、分かりません」



 惚けた顔で、そう言った。



 「ほんとに知らない? 知ってるなら教えてよ」


 「怒らないでください。知らないんです。でも、情報を教えます」



 263番はハプの背後に回り込み、先程の囁きとは反転して、無邪気に笑いながら言った。



 「神様のことが知りたければ、マクタニア帝国の首都神殿へ行ってください。魔術神が産み出されたその地でなら、何かが分かるかもしれませんよ」


 「マクタニア帝国…」



 また、ハプの中に知らない地名が飛び込んできた。ハプ達の住むツム国に、戦争を振りまく、マジシャン家の住むトムガノ魔術国。基本的戦闘力や経済力、魔術において最強と呼ばれるカルタヴェルタ王国。それから、魔術神の生まれた土地とされたマクタニア帝国だ。



 「そこに、何があるの? 」


 「魔術神と、貴方たちのご先祖さま、英雄と謳われる大魔術師様の歴史が。その歴史の全てを知る魔導書が。そこには眠っています。ささ、聞きたいことは以上ですか? 」



 ハプはその内容を、しっかりと頭の奥に染み込ませた。この情報を持ち帰り、シアルに伝える。そして必ず、その首都神殿へ。

 だが、ハプには1つ、気にかかることがあった。



 「ニート・スペリクルのことは、そこでは分からないの? 」


 「分かりません」



 即答だった。ニート・スペリクルという言葉を耳にした瞬間、その口は動いていた。



 「じゃあ、どこでわかるの? 」


 「ごめんね。なんでも答えるって言ったけど、それだけは言えません。それは151番様が、頑なに禁止されます。ごめんね、ごめんね」



 今まで全てを教えてくれていた263番が、急に小声で、申し訳なさそうに、しっかりと断った。ハプはいくら言ってももう無理なのだと理解して、諦めた。

 横目でケプナスとルーの戦闘状況を見ると、苦戦している様子が伺えた。



 「…ねぇ、戦いに 戻っていい? 」


 「…戻られるんですか? 」


 「もう、聞くこともないから。あの二人を助けたいの。苦戦しているみたいだし」


 「そうですか…その心はとても立派です。いいと思います」



 263番はハプに向かって手を振った。ハプは振り返さず、そのままケプナス達の方へと行こうとする。行こうとすると――



 「もう、話せないんですね」



 静かな紫色の光線が、ハプの胸を貫いた。




 ◇◆◇◆◇




 「やっ、はっ、それっ、やー! 20歳パワーを限界放出! 」


 「うーん、ずっとそれを繰り返すカンジ? 」



 ルーは茨を振り回し、3人の使徒の攻撃を交わしてゆく。



 「貴方こそ、ずっとそこで高見の見物してるつもりなのかな! 弱虫! 怖がり! 恐れんぼう! 」


 「恐れんぼうって何? それに僕、今の状況整理するために眺めてるだけだけど? 」



 天井間近で脚と腕を組んでふわふわ浮いているケミキルが、見下すようにルーを見る。ルーはケミキルの方は見ないで、それに対して返答をする。



 「やーもーうるさい! 黙ってな! 」


 「お前が話し始めたんだけど? こいつ意味わかんない」



 ルーは暫くは対応しきれるが、段々と対応速度が低下する。



 「それでー、ずっとお姉さん一人でやってますけどー、そっちのちびっこはお手伝いしなくていいんですかー? 迷惑かけてるって自覚ないんですかー? 」



 562番がケプナスの方へ行こうとするが、ルーの掌から飛んできた大量の落ち葉によって阻止される。



 「け、ケプナス様が入ったら、一瞬で勝負が着いてしまって、面白くないのです…ゴホンゴホン…っ! 」


 「あーもしかしてー、体調が悪いんですかー? あー、それは大変ですねー。失礼しましたー」



 と言いながらもまだケプナスに攻撃しようとする562番に対して、ルーは大声で叫ぶ。



 「行かせないよ! そっちに貴方を行かせたら、そいつが死んじゃうからね! 友達はぁ、守る! それが私の主義だ! ってパプ!? ハプこっちに来てる!? 危ないよー、そっちいなよー! 」



 ルーは263番と話し終えて自分たちの方へと向かって来るハプを見つけて、忠告をする。しかしその声はハプには届かず、ハプはまだ此方へ向かおうとする。

 そのルーの呼び声にケプナスが反応し、ケプナスはハプの方を振り返る。



 「おにちゃ…」



 希望を込めた声でハプを見た瞬間、絶望が見えた。



 「お、お、おにちゃぁまぁァァァァ! 」



 掠れた声でそう叫び、ケプナスは急いでハプの方へ駆け寄った。263番はそのケプナスを無視して、151番の元へと向かう。



 「お、お、おにちゃーまーが…。リーダーみたいになっちゃったのです…」



 喉の調子が悪く、上手く声が出せずに、そう言った。



 「おにちゃーまーが、おにちゃーまーが…」



 魔力の核のことなんて、ケプナスでも知っている事だ。外部からの魔術攻撃で核が攻撃された時、何が起こるのかも。



 「おにちゃーまー…が…………」



 涙声でそう言って、ケプナスはハプを抱きしめた。

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