ページ3―22『質問会』
263番の手によって、シアルが倒れるその瞬間。それを小さな窓越しに直視したケプナスは、自分側の最大戦力の喪失を目の当たりにし、震える声、震える手で兄を呼んだ。
「おにちゃ………まぁ……! 」
不安、恐怖、絶望。そういった負の感情によりリナに仕込まれたウイルスの引き起こす病状は悪化し、フラフラと扉へ向かっていく。
扉の前に立つハプはそこでやっとケプナスに気がついて駆け寄るが、ケプナスは扉を開こうと扉に手をかける。
「け、ケプナス! どうしたの…! 危ないから…」
「リーダー…が…」
そう言って扉の取っ手を回そうとした時、扉は勢いよく開いた。
「い…いたいたなのです…! 」
「おぉーっとごめん! いるとは思わなくてさ! 大丈夫!? 大丈夫だね! 良かったよ! でも大丈夫じゃない! 逃げるぞー! 」
大声で叫んだルーは2人を両肩に乗せて、勢いよく浮遊術で飛び上がる。
「は、速い速い速い! 何が…」
「うーん、外に出られるとちょっと困るな? 」
「な…! 」
声がした方に振り向くと、そこには大きめのマントを広げながら上空でふわふわ浮いてあるケミキルが、暗い笑顔で手招きをしていた。
「大丈夫じゃないって言ったでしょ! ハプ! ケプナス! 耐えてね! 」
ルーは一直線に海の方へ逃げようとするが、ローブを被った銀髪の男性に行く手を阻まれる。
「えーと、えーと……100何とか番さんなのです……! つよつよの人なのです、ラビヌとケッパスちゃんは…」
「151番だ、ある程度でも覚えているとは予想外だね。お前達の友人のことならば心配ない、死んではいないよ」
自分の体を浮かせたままで、腰に付けていた剣を片手で抜いて回転させ、ルーの方向に突きつける151番。
ケミキルは151番に対してウインクで感謝を伝えて、ルー、ハプ、ケプナスを隣の工場の中へ追い込もうとする。
「まだ抜けれる…と言っても、どうせ応援が来るんだろうさぁ、もーやだやだ! 20歳の天才的頭脳を用いても解決策など思い浮かばない! ローエル君のバカぁ! 」
2人に囲まれたルーは大人しく壊れていない工場の中に入り、両手に茨の弦を持つ。
「うーん、大人しく差し出す気はない感じ? 」
「断固として拒否しよう! 私に友達を見捨てる選択肢など、元からぁ、ない! 」
「そっか? いい子いい子、優しいんだね? 」
「はっはー! よくわかってるね、私はいい子だよ! ルーまだ20歳、天性生まれ持ったいい子の才能! 」
訳の分からないことを言いながら、野球のボールを投げる構えのようなポーズを取るルー。ケミキルは151番に手で行動するなと言った指示を出し、「へー」と笑いながら受け流す。
それから右手を耳に当てて、伝達を発動。
「263番ー、2人とも生きてた? まぁどっちでもいいけどさ? はい、来てー? 」
そう言った瞬間、扉から笑顔の263番、そして引き連れられた562番と563番が現れる。
「151番様、151番様、来ました来ました、来ましたよっ。263番はちゃんと言いつけを守って、言われてからここに来たんです。これでお力になれますか? 」
3人の使徒の、たった3人の増援だった。3人だけのはずなのに、増える絶望感はそうじゃない。
ハプは恐る恐るルーに話しかける。
「ルー、増援……。穂羽も戦う。ケプナスを守るのは、任せて」
「…不本意だけど、しゃーなしね」
2人はケプナスを囲うように戦闘体勢に入る。だが、まだケミキル達は攻撃してくるようではない。
扉から入ってきた263番は151番の隣へ、他の2人は3人を囲うように回り込む。
「スルーリーの人たち、はじめましてです。263番は、263番って言います。使徒番号263番、貴族ランクは、星無しです」
「わざわざ、自己紹介してくれるんだね。穂羽はハプ・スルーリー。貴方達には殺されない、スルーリー家の長男です」
ハプは両手に炎を灯して、自己紹介を返す。
「そうですか、そうですね。丁寧にじぶんのことをお話してくれる人、珍しいので嬉しい楽しい。263番達ってよく分からないから、みんなこわがってしまうんです。151番様、もう少しお話をしてもいいですか? 」
「お前はつくづく何故私に聞くんだ? 私達の従うべき相手はケミキルさんだ、私に聞くのは間違っているよ」
「僕ー? 僕はおっけーだけど? その子は優秀だし、自由時間くらいはね? あ、でも話すのはそのスルーリーだけね? 263番以外はみんなこっち来てー? 小さい方のやつとそこの茶髪、纏めて排除するからさ? 」
ケミキルの呼び掛けに使徒たちは一斉攻撃の準備を始める。ハプはそれを防ごうと1歩を踏み出すが、二歩目を踏み出すことは目の前でハプを見上げてくる桃髪の少女が許容しなかった。
「えっと…263番ちゃん。穂羽、ケプナスを守りたいんだけど」
「うーん、ケプナスって、あのちょっとはカワイイ女の子ですか? うーんうーん、うーーん。守ってあげようって気持ちは凄くいいと思うんですけど、そこまであの子カワイイですか? 」
「可愛いで判断するのは良くないと思います。それにケプナスは可愛いです」
「うーんうーん、まぁいいです。263番は納得しませんけど、まぁいいです。だって、守ってあげようと思うのは、すごくいいお兄ちゃんだと思いますから。くすくす」
263番は片手を口元に当てて静かに笑う。目はローブに隠れて見えないが、本当に笑っているのが何故かハプにはわかった。
「だったら…穂羽をあっちに行かせてよ! 」
「でもね、だけどね、それはダメ。ごめん、ごめんね、ダメなんです。263番は、貴方とお話がしたい。263番のわがままに、付き合ってくれますか? 」
媚び売るように腰を振りながら、無邪気に笑う少女。
隙を見て逃げ出そうかとも考えたが、それは無理なことがハプには理解出来た。
敵意はない。それは感じとれた。なら、今は話しておくのが1番安全だと、ハプはそう判断した。
「…わかった。ならね、ちょっとお願いがあるの」
「やった、やったよ、お話してくれるんですね。ありがと、です。263番は嬉しい気持ちです。ありがとうって声に出して、心から感謝を述べて、何度でも好きって言いたい気分。
それでそれから、お願いってなんですか? 」
「穂羽の聞いたことに…なんでも答えてくれますか? 」
真剣な目付きで、少し不安になりながらハプはそう言った。不安な声色が相手にも伝わったようで、263番の声は途端に優しくなった。
「いいですよ。263番は、何故かわかりませんが、貴方のことが気に入りました。ですので、なんなりと」
ハプは内心で、何かをやり終えた時の達成感を感じた。
これから、気になること全てを聞き出す。教団のことを知ることのできる、最高のチャンスだった。
なんでもと言ったのだから、断ることはできない。
「じゃあ、まず…263番ちゃんは、星無しなのにどうして…魔術が使えるの? 」
ハプの知識の中では、星無しというのは貴族ではない、魔術の使えない平民のことだった。なのに、263番は明らかに魔術を使っている。
「あれれ、知らないんですか。星無しには種類があるんです。もしやもしかして、貴方は平民だけだと思っていますか? 違う、間違いです。誤たっています。平民も勿論ですが、自分より上の位の貴族に仕える貴族、それから魔術では無いもので戦う人、わけのわからない人とかは星無しになるんです」
「その中で…263番ちゃんは、どれ? 」
「263番は、151番様に仕えています。だから、星無しなんです。これで、もう、充分ですか? 」
「わかった…なら、次」
まずは基本的な、小さな疑問から入っていく。そして次からは…。
「教団について、質問、してもいい?」




