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異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第3章:『罪と友情の1章』
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ページ3―21『突き進む悪意』

 静かな足音を立てながら、ハプ、シアル、抱えられたケプナスは、できるだけ、できるだけ工場から離れようと、全力で走っていく。



 「ごっめーん、1人逃がした! 私こっち忙しいから、何とか巻いて! 」



 ルーが茨の鞭を振り回しながら3人に叫ぶ。



 「ハプ! ケプナスを頼んだ! 」


 「にゃのですうー」



 シアルは浮遊術でケプナスをハプに引渡し、ケプナスは目が回ったように呻き声をあげる。

 シアルは応戦しようと時計の針を取り出した。

 ルーも鞭を振り回し、フードの男…141番と戦闘している。



 「ほほーん、君はほかの奴らよりは強いみたいだな! 私と張り合うとは! 」


 「これでも星4貴族だから、使徒の中ではある程度の実力を持っているものでね。見くびって貰っちゃあ少し悲しいな? 」



 茨を振り回すルーだが、141番はシールドで防ぐ。

 それと同時に手から渦巻きを生成し、ルーに向かって投げつける。



 「不利属性なのに、良くぞここまで耐えてる! 私は尊敬するよ! 黒い人! 」



 新体操選手のような動きで、見物人が思わず足を止めてしまうような鞭使いで、ルーは141番に攻撃を当てる。



 「…だがしかーし! このままではいけない! 貴方では私を倒すことは不可能だよ! 何故なら! 私の20歳パワーに圧倒され、貴方が私にやられるからだ! はっはー、どうだ参ったか! 」


 「…決めつけは良くないのでは? 」



 141番は掌の上に渦巻く水を生成し、ルーに向かって投げつける。



 「でも、貴方1人で何ができると言うのだ! 仲間にすらも見捨てられ、他の仲間も全滅させるような無能な貴方! 私に対してその姿勢で立ち向かう姿はとても勇敢でなかなかに嘲りがいがあるものだけど…ってまぁ!? 今の私のセリフ悪役じゃん! 」


 「私は足止め出来ればそれでいいのさ。お前にあっち側に加勢されると、少し私達も不利になるものでね。……あいつに任せるのさ。彼女はケミキルさんの下の使徒の中で、152番君の次くらいに手練だからね」



 そう言って141番が指を指した先に、身を前に乗り出し、桃色の長い髪をなびかせながら風を切るようにに走る小学生くらいの小柄の女子は、ハプ達の方へと向かってゆく。



 「ごめん、ごめんね。263番も、人を殺すのは嫌いなんです。でもごめんなさい。ケミキル様の、教団の、絶対守らなきゃいけない決まりなんです。でも、でもね。263番はやっぱり殺したりなんてしたくないの。悲しいことはしたくない。悲鳴を聞いてしまうと、心がいたんでしまうのです。

 許してね。貴方達を殺すための準備をしてしまう263番は、許されないと思うけど。でも、でもね。許して欲しい。許してくれますよね? 」



 263番は手を組んで、3人の方へと走っていく。

 それを見て、ハプはケプナスを連れて奥へ、シアルは杖を構えて前に立つ。



 「わざわざ出てきてくれたんですね、それはありがと、です。でも、でもね、あなたじゃないの。貴方は大切な教団の導き手。欠けてしまえば、復活は程遠くなる。ごめんね。本当にごめんね。すみませんって謝りたい。自らの過ちを叫びたい。でも、それは出来ないの。263番には、命令があるんですから」



 右の掌をシアルの方に向けて、攻撃を放つ準備をする。

 シアルも杖を構えて、時間停止の準備をする。



 「263番は、悪いことをします」



 掌から紫色の真っ直ぐな光線を放ち、シアルに向ける。初撃は相手の能力や実力が分からないため、シアルはかなり頑丈なシールドを張った。

 だがその攻撃はシールドを割った…のでは無く、シールドを貫通して、直接シアルに当たる。



 「…っ、これでも無理なのかなー! 」



 シアルは攻撃の準備の為に杖に魔力を込めながら、更に硬いシールドを張る。

 263番はその場に立ったまま、また同じように、紫色の光線を放つ。

 レーザーのような光はまたしも、シールドを貫通してシアルに直撃する。



 「…確かに僕が攻撃よりなのは認めるけど…これは、さすがに傷つくよー? 」


 「防御力。シールド。ダメージ軽減。そんなもの、263番にはないのと同じです。……防御特化なら別ですが」



 263番は何度もシアルに対して真っ直ぐな攻撃を放つ。

 シアルはいい加減に危機感を覚え、杖の中央を持つ。



 「…停止! 」



 ――という直前に、263番はシアルの腕に触れていた。

 シアルは触れられたその部分を見て、目を見開く。



 「ごめんね。知っているんです。貴方に触れていたら、貴方の事を触れていたら、時間停止は無効になる。そのことを、知っているんです。ごめん、ごめんね。勝手に見たみたいで嫌だよね。覗かれたみたいで気持ち悪いよね。なんで知ってるのって怖くなるよね」


 「お、前…! 」



 シアルは手を振り払おうとするが、263番は離さない。

 それどころか、シアルを掴んでいない方の左手で、もう一度攻撃を放とうとする。



 「許して。許してください。貴方は本当に優しい。優しい人はとても素敵。貴方のような人を殺すのは嫌です。心が痛むんです。お優しい方を殺す時ほど、自分が悪人に感じられるんです。

 …だから、だからね。今は、これで、許してください。貴方は殺さない。貴方はここで、倒れておいて。――そうして最後は、263番が、貴方を連れて帰ります」



 シアルの胸に手を当てて、263番は攻撃を放つ。

 263番の攻撃は、完全な魔法攻撃。肉体にダメージはない。だが、魔力を持つ人間には、魔力の核がある。

 実態を持たないが、その核に溜まった魔力を、体内にある正しい魔力の通り道を通って体外に放出することで、魔法を使う。

 その魔力の核を直接外部の魔力によって攻撃された時に。

 人は倒れ、動けなくなり、その意識は別の所へ。眠りから覚めるまで、1ヶ月はかかると語り継がれている。




 ◇◆◇◆◇




 「リーダー! 」



 ケプナスは震えながら寂しそうな声で、離れて行くシアルに手を伸ばす。



 「大丈夫、大丈夫だよケプナス…シアルは、とっても強いんだから。穂羽達を逃がしてくれたんだから、穂羽達はちゃんと逃げないと…」



 ハプは後ろを振り返らず、ケプナスを肩の上に乗せてフラフラと走る。同年代の中では小柄な方であるハプは、ケプナスを抱えて歩くので精一杯だ。



 「でも、でも…なのです」


 「大丈夫! でも、もしもを考えるなら、明るいことを考えようよ! シアルは守ってくれる。それに、教団の人なら、無闇にシアルを攻撃出来ないんだから! 」


 「わ、わかりましたなのです…」



 ケプナスが俯いて体の力を抜くと、ハプは更に速度をあげる。



 「初めて、使うけど…。身体強化魔法」



 ハプは身体強化魔法を発動し、少し速度をあげる。魔法の中の基本中の基本。浮遊術と並び、ほとんどの魔術師は使うことができる魔法だ。


 そうして走って、数軒離れた工場の中に入り、周りを警戒する。



 「穂羽、扉の前で守ってる。ケプナスは、そこの小さな窓から、外の様子を見守ってて」


 「はいなのです…」



 ケプナスは小窓から外の様子を覗き、寂しそうな顔をする。

 暫く見ていると、急にケプナスは顔を青くして、震える声でハプを呼んだ。



 「…おに、ちゃーま…ぁ」



 しかしその小さな声は、ハプには到底届かない。



 「…リーダー……が…! 」




 戦況報告


 逃亡軍

 ハプ・スルーリー 行動可能

 ケプナス・スルーリー 行動可能 病気発症中

 シアル・キャリソン 失神中

 アルクトテ・ルー 行動可能

 ラミカス・ラビヌ 行動不能

 ケッパス・スリータ 失神中


 教団

 ケミキル・バント 行動可能

 152番 行動可能

 263番 行動可能

 141番 行動不能

 562番 行動可能

 563番 行動可能

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