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異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第3章:『罪と友情の1章』
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ページ3―19『隠し通路』

「君達、私についてきて。ケミキルさんから集合がかかってる」



 キャリフラワーズ工作学会の本拠地に向かって、一定のスピードで走って行く、黒いローブの集団があった。



「どうしてお前に指示されなきゃならないんだね、152番君。何よりどうしてお前がケミキルさんから『伝達』を受けるんだね、お前の方が私達よりも立場が上と、そう言われているのかな? 」


「戯言を。ケミキルさんに対して文句があるのか、口を慎むんだな使徒番号141。あの人がそうしたいからそうしたんだ、文句があるからって私に言うのはやめて欲しいな」



 その集団は、ソルビ市中心部分…チームの本拠地周りを詮索していた集団だ。



「でもー、ケミキルさんの機嫌を損ねてちゃんとした役割を頂けなかったのってー、152番君じゃありませんかー? 失敗したって言うのに、そんなに威張れるとかー、私にはぜーんぜん分かりませーん」


「562番。貴方は星3貴族でしょう、私と同等に。その口の聞き用は、とても上の身分の者に対する口の利き方とは思えません。身分を弁えてください」


「ふえー、真面目さんですねー。563番ちゃーん、私だって敬語使ってるからいいじゃないですかー、ケチですねー」



 雑談をしながら4人は走って行くが、途中で先頭に立つ使徒…152番が立ち止まり、耳に片手を当てた。



「少し静かに。ケミキルさんから『伝達』だ」



 そう言ってその場で独り言のように話し、一定の時間が経過すると耳から手を外す。



「ケミキルさんから。この地図が送られてきた。この場所に行って、合流だ。案内人と、ね」



 152番はそう言って、3人に話しかけた。それを聞き、141番と呼ばれた使徒は納得したように話す。



「――263番、か」




 ◇◆◇◆◇




「えい、やっ、それっ、えーい! 」



 ケッパスはいつものような落ち着いた雰囲気は捨て去り、無邪気な子供のように跳ね回り、掛け声をあげながらケミキルに対して攻撃を仕掛けた。


 有り得ない速度で向かってくる有り得ない難易度の問題が、ケミキルをその場から動かせない。



「僕は…無駄に戦いを長引かせるのは…好きじゃ…ないんだけど…ねっ? 」

 


 ケミキルもできるだけそれに対応しようとするが、速度はケッパスによっていくらでもあげることができてしまう。



「…でも、君の魔力も無限とは…行かないよね? 」


「当然だよ! 神様じゃないんだし! 」



 ケッパスは変わらないスピードでチョークを動かし続ける。書いて、書いて、書いて、書いて。目には映らない黒板に、手をとめず、一心不乱に。



「僕…戦いは好きじゃないよ? 特に長いのは? 」



 そう言って計算式の1部を手で払い除けたケミキルを見て、ケッパスは思いがけず一瞬手を止めた。



「…ケチ! 」


「絶対防御貫通の攻撃とか、固有魔法でも持ってない限り、ね? 」



 ケミキルは徐々に慣れてきたのか、攻撃を防ぐことのできる量が多くなる。ケッパスもそれに対応するよう、書くスピードや問題を届けるスピードを早くして攻撃に移った。

 その分、魔力消費量は多くなり、ケッパスも消耗は早くなる。だがやはりケミキルの足止めをするという点に関しては、かなり優勢になる。

 相手にいると思い込ませているハプ達を守るために、できるだけここで時間を稼ぐ。その間に遠くへ3人を逃がし、準備を整えさせる。

 いずれは、ハプ達三人もケミキルと対峙することになる。それはケッパスにもわかっていた。


 だからこそ、時間を稼ぐ。ケミキルと遭遇した時に、できるだけ有利な勝負を挑めるように。


 時間稼ぎという面では、この攻撃は非常に優秀だ。相手をほぼ永久的にその場に留まらせることが出来る。

 タイムリミットをつけることで焦る感情を煽り、失敗率を高くする。

 時間をかけて、少しずつ、相手の体力を削っていくこの技は、一対一の戦いにおいてかなり使いやすいと言えるだろう。



「『伝達』〜、152番、行って? 」



 そう、一対一なら。相手が勢力を増やし、問題の作成中に奇襲をかけられたのならば、全ては崩れ落ちる。



「あっ…」



 ケミキルがそう言って右耳に手を当てた瞬間、ケッパスの背後から黒いローブの男が剣を持って降り掛かってくる。


 不意打ちをされたら、この攻撃は意味が無い。開いてしまった手からチョークは床に落ちて、砕けて割れた。

 152番はそのまま剣を振り下ろし、ケッパスを背後から切り裂いた。



「痛い…! 」



 シンプルな叫び声が部屋に響き、ラビヌはそれに気がついて152番に攻撃しようとするが――



 「そう簡単にー、行っていいんですかー? それってー、お仲間さんがこれくらいでやられる弱い子だってー、信用してあげてないんですかー? 」



 フードを脱いだ562番が、1本の光のような刃物でラビヌを斬ろうとする。



 「彼処あちらはケミキル様と使徒番号152番様が御相手をしてくださっておりますので、私共は貴方の足止めを。既に到着していた使徒も勿論同一です。貴方1人で堪えてくださいね」



 そう言ってラビヌの背後から出てきた563番は、152番の持っていたものと同じ剣を取り出して、静かにラビヌに切りかかる。



 「次から次へと湧いてきやがって…このゴミがぁ! 」


 「貴方は星四貴族、私達は星3貴族以下。身分的に下ですから、ゴミと言われても当然でしょうね」



 ラビヌが両手に持った電動ノコギリを円状に振り回す。そのまま空中に飛び上がって上空から大量のカッターナイフを使徒に向かってばらまくが、焦りが強く出過ぎて、その命中率は極めて低い。



 「それだけですかー? 」



 562番を筆頭に使徒は束になってラビヌを地上に引きずり落とす。




 「数には…負けるって…」



 一か八か、と思い、ラビヌは熱された鉄の塊を取り出し、その場に集まってきた使徒に向かって投げつける。それを繰り返すことでやっと使徒を払い除けることが出来たが、そこには1人、563番の姿が見当たらなかった。



 「おい、お前ら…さっきのやつは…! 」



 かろうじて立ち上がり、もう一度ノコギリを構えるラビヌ。その前に立った562番が、小首を傾げて悪戯に笑った。



 「563番君ならー、あっちに行きましたよー? ケミキルさんのいるところー」


 「…」



 その指の指した先は、ケミキルとケッパスが事を構えている、その更に奥。ハプ達が隠れているはずの場所だ。




 「…ハプ! ケプナス! シアル! お前ら、よく聞け! 」



 はずであって、本当は逃げている。だが、ラビヌは、そのことを知らない。



 「待っ…」


 「そこの端っこに、隠し通路がある! そこから外に出て逃げろ! 」



 ラビヌは、そのことを知らない。もし逃げていないのだとすれば、言わなければならなかった情報。だが、逃げているのだとしたら――



 「ですって、ケミキルさーん」



 562番はケミキルに対してそう呼びかけた。だが、ケミキルは平然とした顔だ。



 「…知ってるよ? 」


 「は? 」


 「ど、どういうこと! その隠し通路は、僕も存在しか知らない、今回初めて知ったと言うのに! リーダーや副リーダーしか知らない、その情報を…どうして君が持っているの…! 」



 地面に押さえつけられて、ケッパスは起き上がろうともがきながら、苦しそうに叫んだ。


 

 「ほら、わかるよね? 情報がないのなら、情報を持ってるやつから情報を聞き出せばいいんだよね? それくらい、ちょっと頭使えばわかる常識だよ? 」



 2回、ケミキルは自分の頭に指で触れた。



 「は? お前、まさか…」



 ラビヌが目を見開いて息を呑むと、ケミキルが耳に片手を当てた。



 「…聞こえるかな? ――263番」

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