ページ3―17『職人魂』
3人を呼ぶケミキルを見て戻ってゆくケッパス。ラビヌはそれを理解して、その場所から目を逸らさせるように動いた。
ラビヌ、ルー、ケッパスの3人は、長い付き合いだ。相手の性格や行動はしっかり理解している、最高のチームメイト。
「残念だが、お探しの奴らは居ねぇよ。お前の仲間か? 」
ラビヌは真顔でケミキルに問う。状況を理解し、3人のことを隠そうとする。
それに対して、ケミキルはヘラヘラと薄っぺらい笑顔で答えた。
「隠さなくても大丈夫だよ? 魔力反応的に、この部屋に君1人ということはないよね? 少なくとも三、四人はいるよね? 」
「俺はこれでもリーダーやってんだ、そこそこの実力はあんだよ。それにあんまりズカズカ入り込まれると困る、早めに切り上げるが吉だと思うぜ? 」
ラビヌがそういうと、ケミキルはラビヌの方を見ながら右手で両目を覆い隠して、その手をゆっくりとのけた。
それからラビヌの方を目を細めて見据えて、屈託なく笑う。
「この魔力、全てが君って訳ではないみたいだけど? 」
「…根拠がねぇなぁ、勝手に判断するなよ馬鹿が。思い込みが激しいやつなんて、ルー1人で充分だ」
「固有特権『診察』」
「…は? 」
ケミキルは悪戯に笑った。ラビヌはそれを聞き、困惑する。
固有特権、つまり、魔術神秘教団の導き手のみが所有する魔術神に与えられた固有の能力。
「あぁ、知らないかな? 固有特権って言うのは、導き手が持ってる能力? これ以上はシアル達に聞いて? 」
「だから居ねぇって言ってんだろ…。んで、その固有なんちゃらがどうしたよ」
「僕の固有特権は2つ。その1つが「診察」だよ? ま、僕が勝手に呼んでるだけだけどね? その効果は、相手の状態を知ること。元々は魔術神の状態をチェックするための能力だけど、応用的な? 僕、頭はまぁまぁキレるから」
ケミキルは、メスの持ち手の部分で自身の頭部を指しながら言った。
ケミキル・バント…神体の管理者の固有特権、「診察」の効果は、魔術神の状態チェック。魔術神の魔力量、体調、その時所持している固有魔法、同じく固有能力、同じく固有特権、ステータスの状態、異常状態、デバフ、バフなどの状態変化などを瞬時に見ることのできる能力。
神体の管理者は文字通り、神を管理する為の役割だ。だから固有特権はその為の物…のはずだった。
ケミキルバントは頭がキレる。頭の回転の速さだけで競うなら、導き手で2番目くらいにはなるだろう。それに加えて、管理だけでは物足りない。
殺人を楽しむ殺人鬼、と言ってもいいような人物だ。
その全てが集まって、「診察」は戦闘に用いられる形となった。
ケミキル・バントは考えた。魔術神のような強大な魔力の塊の、この上ないような魔術師の状態がわかる。
それならば、大抵の魔術師の状態なら分かるではないか。というより、魔力を少しでも持つものならば、知れるのではないか。
ケミキル・バントは実行した。初めは病院の患者だ。診察にこの能力を使うと、病名、原因、治療法などが全てわかった。
その能力は、使い方によってはとても戦闘に用いりやすい。
これを使うことで、普段よりもより詳しいステータスカードを、強制的に見ることが出来る。
固有魔法、固有能力がわかり、その名前だけではなく、その効果や使い方まですべてがわかる。
タイプ、戦闘タイプなども一瞬のうちにわかり、名前はもちろん、年齢、性別、誕生日など。
魔術神と同じように、その時リアルタイムのステータスの増減、状態変化の有無。
魔術神以下の魔術師に対してなら、これを全て知ることが出来る。
「…ちっ、自分で自分のこと頭良いみたいに言うやつ、うぜぇ」
「そうかな? それは残念、気に入って貰えなかったみたい? 」
平然な顔で、その場からほとんど動かずに、ケミキルはラビヌの首目掛けてメスを投げる。
ラビヌは払い除けようと右手で防ぐ。
「…厚めの手袋しててよかった…ベッド作れって言ってきたケッパスに感謝だわ」
「早く僕を中に入れてよね? このままじゃ、君を殺さなきゃならなくなるよ? 」
「通さねぇぞ、約束だけは守るタチなんだよ」
そう言ってラビヌは両手を勢いよく両側に開く。
するとその背後に、様々は大きめの工作道具が浮いて並ぶ。
「さァ、工作の時間だ」
「へぇ、やる気なんだ? 」
ケミキルは「それなら」と言うようにニヤリと笑い、ラビヌに向かって大量にメスを投げつけた。両手に、1本ずつは残した状態で。
ラビヌはノコギリを土台にして大きく弧を描いて宙をまい、その攻撃を避ける。
着地に向かいながら、その手に持った原寸大のカッターナイフの刃を1番長い状態にする。
「どんな細かい作業でも、任されたんなら一つ一つの作業工程は丁寧に、美しく、だ。俺のモットー」
そう言ってラビヌはケミキルの隣を横切り静かに素早く刃の先を頬に当てた。
「いった…やめてよね? 」
「軽傷だろ? 人をいたぶる趣味はねぇ」
「僕もかな? 人を殺す趣味ならあるけど」
そう言ってケミキルはもう一度メスを投げる。ラビヌは大きめの水鉄砲のようなものを取り出し、発射の準備をした。
「中身は瞬間接着剤だ。ほんとに瞬間たぜ? 俺が調整できるから、てめぇを拘束してやんよ」
「へぇ…でも、タイミング悪いかも? 」
ケミキルがそう言った瞬間、ラビヌの背後から数人の使徒が走ってくる。ホテルにケミキルと一緒に来ていたグループだ。
「ナイスタイミング」
ケミキルはそう言ってラビヌの攻撃を避ける。ケッパスの部屋の方へと進んで行くケミキルを見て、ラビヌは手を伸ばすが、そこを使徒が塞いだ。
「ちっ」
「お先ー」
ラビヌは容赦なく電動ノコギリを振り回す。だが使徒は続々とその場に到着し、ラビヌを引き止める。
「そこでそいつ引き止めててー? 僕はあっち見てくるから? 」
ケミキルはコツコツと足音を立てて奥へ進んでいく。それを聞き付けたケッパスは立ち上がってケミキルの方へと向かい、3人は隠れられる所に隠れる。
「…誰? シアル達は? 」
「ケッパス・ローエル。シアル達の居場所は言わないよ」
ケッパスは両手の親指と人差し指を使って三角形を作る。
「へぇ、君は居ることは隠すつもりないんだ? 」
「バレてるのに隠しても、無駄に頭を使うだけだよ。それに、僕は不器用だから、そんなの苦手」
「へー? まぁいいよ? 僕のことは知ってるよね? 」
「会話も全て聞いたからね。僕は能力とか見られても支障ないから、大丈夫だよ。ここからは僕が足止めさせていただくよ」
◇◆◇◆◇
「やーだー! 出たいー! でーたーいー! 」
ルーはまだ拘束され、じたばたと暴れている。
「腰の茨が、この外に出てたらいいんだけど…って、出てるじゃん」
ルーはその事に気がついて、目を瞑って唱えた。
「【植物同化移動】!」
そう言うと、ルーはその場から光になって消え、しばらくするとつるの先に出現した。
「20歳を…舐めるでない」
究極のドヤ顔でルーが言う。
「アルクトテ・ルー、参戦、だね!」




