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異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第3章:『罪と友情の1章』
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ページ3―15『描きたい世界』

 ――シャッ


 静かに風の音がして、床には赤い血が1滴、2滴、3滴…ポタポタポタと垂れて、そこは真っ赤に染まってゆく。



  「…こちらは、回収してよろしいでしょうか。ケミキルさん」


「いいけど? 僕は、見られたやつを殺してくるからさ? 」



 ケミキルの部下の使徒がホテルの従業員の死体を肩に乗せて運び、懐から取り出したボタンを押す。すると、使徒はその場から消えた。



「――苦しんで死ねよ? 人間が」



 ケミキルはメスで空気を切って血を払い除け、ホールから階段を使って2階へ上がって行く。

 ただし途中でその足を止めて、後ろを振り返った。



「…誰? いるでしょ? 隠れなくていいからさ? ほらほら、出てきなよ? 出てきてくれたら殺さないから」



 ケミキルがホール中に響き渡るように呼びかけると、中央の観葉植物の葉がかさかさと音を立てて、人影が見える。



「ちゃんと出てきてくれるとはね? で、なんの用? 迷子? 」


「ちょーっと聞きたいんだけど、いい? 」



 ケミキルは目でOKと訴える。



「ありがと。感謝してやらんこともないわ。でも、感謝なんてしてないんだから」


「どっち? 早くしてくれない? 僕も暇じゃないんだけど? 」


「ふん、あんたの用事なんか知らないわ。質問いい? アンタさ、キャリフラワーズの魔術師チームって、どこにあるかしんない? 」


「…キャリフラワーズの魔術師チーム? 何か用でもあるの? まず君誰? 名前や聞く理由も言わずに質問してきて、失礼とは思わない? 殺すよ? 」



 ゆぴは少し怯み、相手が危険な相手だと判断する。1度目を細めて、髪を手でなびかせる。息を吸い込み、次に言った言葉は――



「私、ユナリーカ・スリータ。お兄ちゃんとソルビ市で二人暮しをしてたんだけど、勉強勉強勉強ばっかりで、嫌になって家出してきちゃった」



 落ち着いて、完全になりきったゆぴはそう言った。その声も、性格も全てが、さっきまでとは打って変わっていた。



「ごめんなさい、家出したのがバレて、お家に引き戻されるのがいやだったから、声や性格を変えて演じてたの。ソルビ市から離れたくて、キャリフラワーズのチームに匿ってもらいたくて」



 ゆぴは靴を履いていない足を指さしながら言う。

 勿論、全て嘘だ。ケミキルを警戒するゆぴの野生的本能から、本当のことは言わない方がいいと感じている。

 ケミキルはゆぴの目を伺うが、あまり怪しいとは思えなかった。

 しかし、ケミキルはトランシーバーを取り出し、使徒に連絡をかけようとする。

 ソルビ市、ソルイヨ市では使徒を使って詮索をさせていたが、キャリフラワーズ市は詮索していない。

 なぜなら、ソルイヨ市はソルビ市のすぐ南にあるが、キャリフラワーズ市とソルビ市の間には大きな山があり、そう短時間で行ける場所ではないからだ。

 でも、絶対に無理だということは無い。



「…ケミキル・バントだけど、聞こえるかな? 263番? 」



 ケミキルはそう、トランシーバーに向かって問いかける。

 ゆぴは聞き出しが成功したことに喜び、ホールをクルクル回転していた。



「…君だよね? キャリフラワーズ工作学会から、魔術神秘教団に入ってきたやつ」



 ケミキルはそれからもしばらくトランシーバーに向かって話をした。

 終わり際に、ありがとうとお礼を言って、にやりと口元が綻んだことに、ゆぴは気づくすべもなかっただろう。



「これ。キャリフラワーズ工作学会の地図だよ? 」



 ケミキルはそう言って、ツム国の地図を渡す。その地図の印がつけられた場所は、本拠地から近いとは言えない場所だった。



「ここが、本拠地。君も用事あるんでしょ? 」


「そうよ、ありがとう」


「…でもね? 今からそこに行くのはちょっと危ないからさ? 1回、ソルイヨ市に行った方がいいよ? 」



 ケミキルは出来るだけゆぴを引き離そうと、そう言った。



「ソルイヨ市? なんでよ」


「今からそこではちょっと危険なことが起こる気がしてね? 僕の固有魔法で、それを察知した。

 ソルイヨ市は、キャリフラワーズ市で作られた最上物の武具がいい価格で大量に手に入るよ? 危険な場所に行くなら、それなりの装備は整えてた方がいいよね? 」



 固有魔法のことは、嘘だ。全ては、ゆぴを引き離すため。



「最上物の武具が…いい価格…で? 」


「そうだよ? 商業のソルイヨ市って言うよね? 」


「貴方は、行かなくていいの? 危ないんでしょ? 」


「僕はいいよ? それなりに、準備はしてあるから? 」


「そ、わかったわ。感謝しとく、ありがとう! 」



 ゆぴはそう言って全力猛ダッシュでホテルから飛び出ていく。



「…ここはせっかくキャリフラワーズに近かったのに、わざわざソルイヨに後戻りするとか、馬鹿すぎない? 」



 ケミキルは嘲るように笑い、トランシーバーを片手に持って本拠地に向かって走って行く。時刻は、日の降りていった、夕方。



「使徒のみんなー、聞こえる? 聞こえるよね? 聞こえてない人がいるようだったら、近くにいるやつは聞くように言って? 今から僕は、キャリフラワーズの本拠地に行くからさ? そこに、アイツらがいるかもしれないから?

 で、今からそこまでの地図を『伝達』するから、みんな今やってる事中断して来てね? じゃ」



 ケミキルは笑いながら、トランシーバーの連絡を切った。




 ◇◆◇◆◇




「…至福! 」


「ふーん、なかなかうめぇな」


「ふむ、これは才能だね」


「ケプナス様には負けるのですがね…美味しい! 」


「うんうん、これだけは敵わないよねー」


「みんな、ありがとう! 穂羽のお料理、沢山褒めてもらえて、穂羽、頑張った甲斐があったよ! こうやってみんなでご飯を食べてると、みんな仲良くなれるし、ご飯が美味しくなるよね! 」



 6人はテーブルを囲み、ハプの作った晩御飯を食べている。



「これだけの腕前があれば、料理人にでもなれるんじゃないかな? 将来は何になるつもりなんだい? 」



 ケッパスが天然水を飲み終わり、ハプに質問をする。



「貴方なら、料理人でも十分にやっていけそうだな! もし店を開いたら、私が常連客になろう! 」


「…そう言ってくれるのはとってもとっても嬉しいんだけど、穂羽、国際魔術協力連盟に入りたいの。平和な世界を作りたいから。戦争のない、大切な仲間や、友達や、家族の死なない、平和な世界を」



 ハプは胸に手を当てて、そう言った。



「うんうん、ハプらしい答えだねー。でも、それはとっても難しいこと。わかってるのかなー? 」


「うん、勿論わかってる。それでもね、穂羽は平和な世界を作りたいって思う。連盟に入るかどうかは分からないけどね。

 やっぱり、戦争とかは嫌いなの。仲間が死ぬのは見たくないの。今ならいいけど、ケプナスとか、ゆぴとか、みんなが死んじゃったらって思うと…穂羽…。

 だから、穂羽は平和な世界を描きたい。それが穂羽の夢」


「おにちゃーまがへーわを作るの、楽しみにしているのです! 」



 ケプナスは無邪気な笑顔でそう言った。



「うん、そうだね。前までの穂羽は、世界中の人が平和な世界を作りたいって思ってた。でもね、今はわかってるの。

 誰かの平和を作ったら、平和じゃなくなる人もいるんだって。だからね、穂羽は、穂羽達の平和を作る」



 ハプは決意のこもった目で、未来を見つめた。



「なのです! 」


「有言実行だよ! 穂羽は絶対に、平和な世界を描きます。みんなが平和でいられる、ケプナスも、ゆぴも、ペリィも、シアルも、ここにいるみんなも、誰も、誰も、だーれも死なない、みんなが仲良くすごせる、そんな世界を。何度でも、諦めずに」


「頑張って――」



 ケプナスがそう言おうとすると、煙突の入口の方から、どーーんと大きな物音がした。



「ちっ、いいとこだったのにさ! 」



 ルーが叫んで、煙突の方へと様子を見に行く。



「ハプ達は隠れて。僕の部屋においで。教団の可能性があるからね」



 ケッパスは3人を連れて、部屋へと走って行く。

 ラビヌは空中から巨大な手動ノコギリを取り出して、構えの体勢に入った。



「…戦闘開始、ってやつか」

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