ページ3―12『平和協定』
ケッパスに事情説明を要求されたシアルは、今の自分たちが置かれている状況を詳しく説明する。
本当に、全てを説明していた。ケッパスがこっちの様子を伺っている間、シアルもまたケッパス・ローエルと言う少年を測っていた。
その結果、ケッパスに隠し事は通用しないと、シアルは判断したのだ。
「要件は知ってるよねー? 僕達を匿って欲しい。ここまではOKかなー? 」
「それくらいは、ね。さっきの会話から推測できるから! 知りたいのは、そこから。君達は、どうして僕達に匿って欲しいのか。そして、僕達が君達を匿ったことによる、僕達の利益だよ」
「うんうん、その辺が妥当かなー。じゃあとりあえずだけど、僕がどうして匿って欲しいのか。これを君たちに説明することにするよー」
笑顔でそう言うシアルの手が、テーブルの下で握りしめられたのがハプには見えた。
「助かるよ。それくらいの情報も無しに手を貸すなんて、僕には到底できないから」
「よく出来た8歳児がいたものだねー、流石ぺリィの親戚なだけあるよー。子供だと思って油断してた。まぁ僕達3人は、ちょっと危険な集団に追われててね」
「危険な集団のことを詳しく知りたいね。ぼかされると、僕は君達を怪しまずを得れない。危険な集団がどうして危険なのか、どうして君たちはその集団に追われることになったのか、その集団はどのような集団なのか。せめてこれくらいの情報は欲しいところだね」
「……聞いたことにより、君は狙われる可能性があるけど、それでもいいのかなー? 」
「いいよ。もしそうなった場合は交渉による僕達側の利益を、もし僕達がその集団に襲われた場合に、君達が僕達の手助けをし、君達が僕達を護衛することとするからね」
シアルは歯を食いしばる。ハプも、驚いて隣で俯いていた。ケッパスが賢いと言うことは気づいていたが、出来る子だ。交渉を、完全に自分達の有利な方向に傾けようとしている。
「…わかったよ。でもそれは、君達が襲われなかった場合は無効としよう。保険ってことだねー」
「ふむ。でも今はその話をする時じゃないね。集団の全貌を聞かなければ、その話だって進まない。君ならそれくらいは理解しているはずだよ」
ケッパスは、逸らされようとしていた話を元に戻す。この交渉の全貌を把握しながら、8歳の子供が大人に対して躊躇いなく重要な話をする。しかも、自分の所属チームのこれからに関わるような話を。
これが、ぺリィ・スリータの親戚。この血筋は、身分が良かったのならば、絶対的な権力を手に入れていたことだろう。
「了解。君、ルーみたいに年齢偽ってない? まぁいいよ。その集団の名前は【魔術神秘教団】という宗教だ。ケッパスは、魔術神という神様を聞いたことはあるかなー? 」
「【魔術神】…? 【創造神】ではなく? 聞き覚えがないね」
「そうだろうねー。【創造神】ニート・スペリクルが『作者』と呼ばれる存在なら、【魔術神】は『読者』と呼ばれる存在だねー。その魔術神を信仰する宗教団体が、魔術神秘教団」
「作者、という呼び方も僕は、今初めて聞いたよ。知らない知識がどんどん流れ込んでくる。頭がパンクしないように気をつけなきゃ」
ケッパスは隣に置いてあった水の入ったペットボトルを、さらに自分へと近づける。
「『作者』『読者』という呼び方は、『友人』の呼び方だ。友人は、神世界の全貌を知り得ているからねー。この世界を作った創造神が『作者』、その作られた世界が『物語』だ。そしてその世界を見守るために作られた魔術神が『読者』で、この世界の住人が『登場人物』と呼ばれている。
あぁ、友人って言うのは、魔術神秘教団にいるよく分からない人だ。友人について言及されても、本当にこれくらいしか答えられないからねー」
ハプにはその呼び方を聞き、引っかかるものがあった。ハプはその呼び方を、聞いたことがある。
リナが言っていたこと? いや、そうでは無い。リナは確かにそう言っていたが、それは友人からの受け売りだ。友人と出会ったことがあるはずなんてないのに、『作者』『読者』『物語』『登場人物』と言っていたのは。
――ハプ、分からない?ならエイ、もっかい言う。キミ、この【世界】の【住人】じゃないでしょ。つまり!【異世界】の【住人】ってこと!
「…シアル、友人だけじゃないよ。エイも、そう言ってたよ」
それを聞き、シアルは反射的にハプに顔を向けた。
「…エイも!? ……いや、今はそうじゃない。ハプ、その話は後だ。まぁそういう神様だよ。それを信仰してるのが、教団だねー」
「なるほど、確かにこの世の中ニート・スペリクル以外を信仰するというのは、変わってるのは間違いないね。でも、それだけでは魔術神秘教団が危険な理由にはならないよ、僕にだってそれくらいわかるもん」
ケッパスは気分なのか、急に子供っぽい喋り方になる。シアルは笑顔で、説明を続けた。
「危険なのはその中の人だね。2つ目の、僕たちが追われている理由と一緒に説明するよー。教団の中には、導き手という役柄が存在するんだけどねー。まぁ、幹部的な存在、一般的な宗教で言うと司教や神官のようなものかなー。その人達がね、狂ってるんだよ」
ハプは率直すぎて、少し笑いを堪えてしまった。
「狂って…頭がおかしいって意味? 」
「うん、頭がおかしい。色んな意味で頭がおかしいんだけどね。まぁ、積極的に人を殺せ! みたいなやつばかりでは無いんだよねー」
「ふむふむ。ならなんで君達は、今逃げているのかな? 」
「それがね、教団の目的だ。教団は何故か、スルーリー家、マジシャン家、コリア家、ゆーぴぃー家を積極的に殺そうとしている。ルールにもある。理由を聞かれても答えられないよー。理由を知ってるのは、各導き手の代表のみだ」
つまり、シアルは知らない。この前ナルが、時間の観望者の代表はリナだと言っていた。
「英雄組に加えてゆーぴぃー家か。ナルシー・ゴールドの討伐に関わったメンバーだね。キャリソン家、ソーサーラー家が抜かれているのが不可解だけど」
「その理由は未だにわかっていない。フレンダー・ソーサーラーに関しては、子孫を残してないからねー。残したのは、自分の精霊達のみ。
キャリソン家に関しては、教団の導き手になってるやつも居るからね…」
「それもきっと、君に聞いても分からないんだろうね。でもありがとう、理解したよ。ケプナスちゃんとハプ、2人はスルーリー家だからね」
シアルは手を組んで顔にわざとらしく近づける。それから、笑顔で、弾んだ声で、ケッパスに返答する。
「話が早くて助かるよー。そうそう、そういうことだねー。1回、ケプナスが殺されかけてねー。その時は逃げ切れたんだよー。それからソルビ市は危険だと思って、キャリフラワーズのホテルに泊まった。でもそこが特定されて、今逃げてる最中だねー。その結果1番安全と判断したのがここ。
キャリフラワーズ市の魔術師チームだよー」
「理解したよ。完璧にね。理由はわかったし、協力してあげたいとも思う。そこで利益の話だね。僕達への利益についてだけど」
「…さっきのじゃだめなのかなー? 君達を守る、ってこと」
「もし教団が僕達を襲わなかった場合、利益が出てくるのは君達だけになる。そうなれば、僕達だけが損をするからね。それは避けておきたいよ。僕から提案しようか。チームソルビ市と、平和協定を結びたい」
ケッパスは両腕を腰に当てて、シアルを見る。
「なるほど、平和協定か。いいんじゃないかなー? 今回のはチームソルビ市全体の問題じゃないけど、それは僕達も嬉しいなー。…ん? それだと、僕達にも利益が出るけどいいのかなー? 」
「質問! 平和協定ってなんですか! 」
ハプは、手をあげて2人に質問する。
「チーム同士の平和協定。偶にあるんだよ、チームとチームの争い、戦争が。簡単に言うと、お互いに戦争はしない、傷つけ合わない。お互いが困っていたら、お互いを助け合う。チームのリーダーとリーダーで、それを誓い合うんだよ。僕達のチームも前々から、チームソルビ市と平和協定を結びたいと思っていたんだ。
チームソルビ市を敵に回すと、厄介だからね」
「いいこと! 」
◇◆◇◆◇
「僕達チームソルビ市は、キャリフラワーズ工作学会に争いを持ちかけず、問題が起きた時には、できるだけの手助けをする誓おう」
「キャリフラワーズ工作学会は、必ずチームソルビ市と争わず、相手側が困っていた時には、できる限り手を貸すと誓う」
全員の見る前で、チームソルビ市リーダーシアル・キャリソンと、キャリフラワーズ工作学会リーダーラミカス・ラビヌは握手をした。
こうして、交渉は成立する。




