ページ2―38『厨二心の真髄』
ケプナスはピコピコハンマーを放り投げる。
「これでは、ダメージが0に近いのですよ、不良品! プンスカプンなのです。全く、次なら大丈夫なのです」
ケプナスは、おもちゃの弓を取り出す。プラスチックで出来た弓に普通の紐がくっついてあり、プラスチック製の矢の先に吸盤が付いている、くっつけて遊ぶあれだ。
ケプナスは矢を引っ張って言った。
「なのですパワーチャーージッ! 3、2、1、パワー全開なのですっ! 発射ァ! 」
ケプナスは矢から手を離すと、ナルに向かって矢を飛ばす。しかし、ナルはそれを受け止める。
「…なの」
「な、なんだと!? このケプナス様の最高速弓矢の矢を軽々しく手でキャッチするとは! まるでキャッチボールのように! 」
ケプナスは弓矢も投げ捨て、弓矢はその場から消えた。ケプナスは手を上に掲げた。
「次こそは…でてこいなのです! 」
上空に、ぽんっと音を立てて、剣が出てくる。剣と言っても、勿論本物ではない。その落ちてくる剣の持ち手を、ケプナスは華麗にキャッチする。
「これは伝説の真剣、なのですソードなのです! ケプナスの力の源、心に秘められしなのですパワーが、なにかの気持ちがとても大きくなった時に武器となり形を持つ、なのですソード! なのですパワーフルモードで、伝説級の斬れ味なのです! いたいたなのですよぉ〜? 喰らえ、渾身の斬撃、なのですパワー全開、なのですソーード! 」
ケプナスは『なのですソード』と命名されたおもちゃの剣を持って、ナルに斬り掛かる。『伝説の真剣』と呼ばれていても、それは設定であり、所詮はおもちゃ。ナルはダガーを取り出して、なのですソードの刃の部分を切り落とした。
「なのですソードがぁ! よくも! 」
「お子様のごっこ遊びに付き合うつもりはないの。ここは…逃げることを最優先に考えるの」
ケプナスはそれを聞いて焦り、100円ショップで売っているようなおもちゃのプラスチックメガホンを取り出す。
ケプナスはメガホンに口をつけて、部屋全体に聞こえるように大声で叫ぶ。
「みちびきてが、逃げようとしているのです! こちら、ケプナス司令官! 直ちに、みちびきてを取り押さえよなのです! 」
「エイ、お願いできるかな? 」
「うん…って言いたいところだけど、エイは大丈夫。ほら、見て」
エイは杖を片手に、指さした。その指の先を見つめると、セレインとゆぴがナルを引き留めようとしている。
「エイ達は、邪魔しようとする使徒さんを倒す方が、いいと思う」
「じゃあ、行きなさい! 」
「了解です、“減速”! 」
セレインはナルの速度を低下される。
「感謝してやらんこともないわ! 」
ゆぴは逃げるスピードが遅くなったナルを普通のスピードで追いかけて、ナルをキャッチする。
「ゲット! アンタ、セレイン! ケプナスの相手してやんなさい。1人じゃただの馬鹿になるから。まぁ、ただの馬鹿なのはほんとだけどさ」
「了解でございます、ケプナス様。少し、よろしいでしょうか? 」
「なんなのですかよ、ケプナスは今忙しいのです! 」
「聞いてください、ケプナス様。貴方、先程の弓矢はお持ちですか? 」
セレインは片手を右に出し、ケプナスに問いかける。ケプナスは弓矢を取り出す。
「例えそれが玩具であり、本物の弓矢では無いとしても。当たり所や速度によっては、大きなダメージを与えることができます。ケプナス様、射撃は得意でしょうか? 」
「射撃とはよく分からないのですが、射的なら得意なのです。お祭りの射的は、“射的”の能力を使って景品を確実に当てることができたのですからね! 」
「少しズルのような気がするのでございますが、ひとまずそれは置いておきましょう。なら、それで構いません。固有魔法『遊び』の中の“射的”を発動してくださいませ。私がその弓矢を加速させることで、相手に与えるダメージが増幅します。狙う部分は、どこにしますか? ケプナス様がお決めください、ダメージの大きいところで」
ケプナスは弓矢を取りだし、ドヤ顔をする。
「準備OKなのですか? 」
「えぇ」
セレインはゆぴの銃と同じように、弓矢に手をかざす。するとケプナスは長いセリフを言い始める。
「これは、なのですとれんめーの力が込められた、団結の弓矢なのです! ケプナスとお友達が仲良しに協力したことにより、なのですパワーが相手の真の力と結びつき、武器となり…」
「早く攻撃をしてくださいませんか!? 」
「わ、わかったのです、喰らえ、なのですれんめーパワー全開のミラクル弓矢、おめめにちょっくげーき、なのです! 」
ケプナスの射った矢は、真っ直ぐにナルに向かって飛んでゆく。セレインの速度調整は強力だ。魔術師の頂点を務めているだけ有り、魔術師としても長けている。そんなセレインは、サポーターとしては超優秀、余程特殊な戦い方をしない限り、彼女の助けを借りることで強化される。
ケプナスの矢はナルの左眼に直撃し、ナルは焦って目を抑えた。ナルはまだ残っている部分のマントを破り、それを眼帯にすることで出血量を少なくする。
「目潰しの矢なのですよぉ? どーだ、思い知ったか! 」
ケプナスは弓矢をしまい、究極のドヤ顔を作る。さすがのナルがどれだけ意地を張っても、痛いものは痛い。おもちゃの矢だとしても、ものすごいスピードで目に直撃してきたら、誰だって痛い。すごく、とても痛い。ナルは目を抑えた状態で下を向き、その場に膝を着いて倒れ込んだ。
「まだ…まだなの…ッ! リナの分まで、ナルは、『時間の観望者』として、第7の導き手して…、まだ生きなければならないの! ナルを救ってくれたリナを、そのリナを救ってくれた『友人』に…、借りを、作ってしまったから…」
「作って、しまった…? 」
ハプは呟く。不思議に思ったからだ。『しまった』という言葉は、後悔した時に使う言葉。ナルはリナが好きで、リナのためならなんでもする。リナに感謝しているのに、なぜ後悔しているのか。
「もしかして、ナルは、リナのこと…」
ナルは俯いている。今狙えば、確実に殺せるだろう。
「嫌い、だったの…? 」
ナルは抑えていない方の目で、ハプを睨みつける。
「もうナルは無理。ナルはここで死ぬの。さぁ、殺せ。それが、『友人』にとって、痛手となるのなら」
ナルは、リナが好きだ。ナルを救ってくれていた頃の、リナが。『友人』が、リナを変えた。ナルから、リナを引き離した。
ナルは『友人』と、『友人』に染められたリナが嫌いだ。今、嫌いだったんだと、気がついた。
「ケプナス、エイ」
ハプが2人を呼ぶ。ケプナスは気がついてこちらに向かおうとするが、エイはハプの存在を認識できない。その事に気がついたハプがケプナスに声をかけると、ケプナスはエイを連れてハプの近くに行く。ハプはエイをつついて、気がついたようなので話を続けた。
「3人もの能力を一つに集めるのは、穂羽の魔力量が大量に必要。そのために溜めていた魔力を、2人に使うよ。“能力合体、料理”」
まずは、ケプナスと自分の能力を合わせる。ハプはエイの杖をナルに向けさせる。それからエイとケプナスの能力を合わせる。
「行って、ケプナス! 」
「了解なのです! 」
ケプナスはエイと一緒に、杖を持つ。2人の下と杖の周囲に、ハート模様の魔法陣が広がる。
「ふおぉ、なんかかっこかわいいのです! 行くのですよ! いでよ、なのですの陣ッ! 我が心に秘められしなのですを込めてッ! この十字架の真髄に、究極のなのですパワーを秘めてッ! では…」
ケプナスはドヤ顔で、エイの方を向いて言う。
「行くのですよ、厨二病! 」
エイは呆れたように向き返し、笑いながら言う。
「うん、行こうか、厨二病ちゃん! 」
2人は笑いながら、ナルの方を向く。
「ケプナスとおにちゃーまの力を合わせることで生まれ、エイと力を合わせることで増幅させたなのですパワーの極限ッ! 発射ッ! コンソメ、スーーープッ!」
杖の先から、ハプが異世界に来た日にケプナスが作ったスープを発射させる。ハプの能力を使うことで、料理を武器にできる。ただでさえデバフ効果を付与できるスープなのだから、効果は大幅に上がる。そこにエイの魔力を上乗せすることで、さらにデバフとダメージ効果を上乗せ。
ケプナス史上最強の武器、コンソメスープ…否、どろどろスープだ。
「美味しさにまみれて、朽ちてゆくがいいのです! 」
透き通っていることのあるはずのないそのスープは、高く宙を舞って。窓から零れる光と、ケプナスや、仲間達の気持ちによって。
透き通って、輝いて見えていた。
「ケプナス様が、お前のお友達を。めちゃめちゃにしてやるのですよ! 」




