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異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第2章︰『登場人物の1章』
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ページ2―34『人生を変える1幕』

嬉しかった。

その時、差し伸べてくれた手が。

注いでくれた愛情が。


初めて知った。

他人のことを好ましく思う気持ちを。

愛して貰えたという実感を。

初めてだったのに、すぐに理解した。

それが愛なんだ、と。


大好きと伝えた時に、リナは驚いていた。

思ってみれば、急に大好きなんて言われたら、ほとんどの人は驚くはずだよね。

でも、そう思ったから。愛情ってこういう事なんだって、知ったから。

その気持ちは、嘘偽りない素っ裸の気持ち。

だって、相手の愛もそうなんだから。




◇◆◇◆◇



言いたかったことを言い尽くした。

楽しくはないと否定された時は、少し驚いた。予想外だったから。

思うがままに生きていても楽しくなくて、自由を封じられながら生きていても楽しくなくて。

ナルなら、知っているかと思っていた。

楽しい人生を。

生きがいのある人生を。

生きる意味を。


でも違う。なら何なのだろうか。

人生って何?

生き方って何?

楽しいって何?

自分って、何?


ナルも知らないなら、丁度いい。

分からないなら、これから知ればいい。

知らないことはある。こっちにも、あっちにも。


でもナルは、こっちの知らないことを知ってるから。

私は、ナルの知らないことを知ってる。

教え合えばいい。伝え合えばいい。

お互いに助け合って、お互いに歩み寄って。


一緒に、探して。


だから伝えた。まずは、今思っている『人生』を。

素晴らしい瞬間という自論を話して聞かせた。合っているのか、間違っているのか。そんなの関係ない。

でも、『今信じているもの』を話した。

これから2人で、これが正しいのかどうかを探すために。いつか、正しい『人生』を見つけられた時に、その時の答えと、今の答えを比べるために。



「リナ、だーい好きなの」



話して終わると、そう言われた。

なんて言われるかなんて、想像してなかった。でも、意外だった。

その話の流れから、『好き』なんて言葉が、『大好き』なんて言葉が、出てくるなんて。


でも、わかった。

すぐにわかった。

その好きは、本物の好きだということを。『後継ぎとして』とかそういうのじゃなくて、人間として、好きって言って貰えたんだと。


だから、嬉しかった。



「あらあら、嬉しいわぁ」




◇◆◇◆◇




好きって言ったら、嬉しいって言った。

相手も好きなのかどうかはわからなかったけど、それでも好き。

なんでって?好きだから。

相手を好きになるのに、理由なんて必要ない。

好きだから。その人がひたすらに好きだから。


守りたいと思う、ずっと一緒にいたいと思う、いつでも話していたいと思う、その人のものになりたいと思う、その人を自分のものにしたいと思う。


そしたら好き。

愛してる。


好きだから、一緒に居たいと思った。

好きだから、役に立ちたいと思った。

好きだから、喜ばせたいと思った。

元々、リナの付き添いになる予定だったのなら、とても好都合だ。

リナのものになってやる。



「リナ………ナルは、リナのお付き添いとして、いつも一緒に居るの。リナのために、一生懸命……」



リナは笑った。悪戯な笑いを口元にうかべた。

まぁ、その笑みの理由を考えるなんて、その笑みの理由なんでどうでもいい。

リナに笑って貰えたのが、1番の収穫だから。



「私に、いいように使われることは覚悟できて居るんでしょうねぇ? 」


「リナのそばにいることが、ずっと一緒にいられることが、ナルの希望なの。そう思えるように、なりたいの」


「そう……でも、その希望、すぐには叶わないわねぇ」



その時の面会は終わった。リナから、これからしばらくは会えなくなると伝えられた。両親が、もうしばらく2人を引き離そうとしたことが原因だそうだ。

次会える機会は、本家との面会式。リナはもう既に会ったことがあるが、ナルはまだ会ったことがない。

そのための面会に加えて、ナルが正式にリナのお付き添い係になることを発表するらしい。

リナの話によると、ナルをリナのお付き添い係にすると決めたのも、両親だそうだ。


それからは数日、リナと会えなかった。

日付を聞くまで1ヶ月だと勘違いしていた。


その時、初めて知った。

誰かを嫌いになるという気持ちを。



◇◆◇◆◇



パーティの日は来た。朝起こされて、クローゼットに案内された。色々な服があって、好きに選んでいいと言われた。

色々な服があったが、選んだのは紺色のタキシードだった。この上にはシルクハットが置いてあり、所々に派手な色が付いていた。



「お嬢様、それは道化の者の衣服です。貴女が着るようなものでは……」


「良いのよぉ、私、これがいいの。偶に私もショーをみていたけど、凄く素敵だったと思わない?何が起こるかわからないような不可解なことが、次々と起こって。見ていて、とってもワクワクするのよぉ。

私、道化師は好きよぉ。

私は知りたいのよぉ、道化師のショーは、見ている私達だけではなく、ショーをしている本人も、ワクワクするものなのか、ってね。」



準備を続けて、パーティー会場へ行った。本家側の人たち、2つの家の使用人達、キャリソン家に関係しているたくさんの人達。100人位は、人はいたのではないだろうか。

その人たちに挨拶をしに回ったり、料理を食べたり、色々なことがあったが。

一番嬉しかったのは、ナルと会えた時だった。



◇◆◇◆◇



リナとまた会えて、初めて従兄弟と出会った。従兄弟と出会って、特には何も感じることは無かった。

1人はシアルと言った。長男の方だ。年上で、強い魔力の気配を感じた。そこに至るまで、たくさんの努力を積んできたという話だ。まさに、未来のキャリソン家のトップに相応しかった。

もう1人はセレインと言った。長女の方だ。ナルよりも年下だった。出会って自分が年下だと気がついた瞬間に、対応を変えていた。人により柔軟な対応ができる、しっかりした子だった。


リナと会えた時ほど嬉しい時は無かった。パーティでたくさんもてなせば、リナは笑うと思っていた。でも、リナはパーティの最中は、1度も笑うことはなかった。


そう、パーティの最中は。このキャリソン家全体でのパーティは、思いもしなかった形で幕を閉じることになったのだから。



◇◆◇◆◇



このパーティに関係する出来事で1番嬉しかったのは、ナルと再会した時だろう。

そして、その次に嬉しかったのは、パーティが終わった時だと思う。


その日、その時、その瞬間は、リナの人生を、大きく変えた時。


その出来事は、リナとナルの人生の地図に、大きな曲がり角を作って、無理矢理に進む道を変えてしまった。



特に楽しいとは思うことの無い、パーティが続いていた。ナルと2人きりになった時には、固有魔法の話をした。

その頃は2人とも、固有特権のことを固有魔法だと思っていた。

遊び半分で、隣に座っている人の未来を見た。すると、ありえないことが起こっていた。


数分後、その人は死ぬ。


それが分かり、絶望し、恐怖し。同時に、人生に動きができたことに対して、喜びを感じていた。




扉が開いた。あまりにも自然に。父親が「ようこそいらっしゃいました」と挨拶をしようとした。

参加者だと思っていたようだ。しかし扉が開いたその先には、黒い、金色のラインが入ったローブを着込んだ人がいた。

深くローブを被り、顔は見えなかったが、声を聞くことで女性だと理解した。



「ご丁寧にどうも」



その一言だけを残し、女性はこちらに近づいてきた。

余程の異質感を放っているのに、何故か違和感を感じないまでの、自然な歩き方で。

それから、立ち止まり。俯いて、顔の見えないままで、3人に言った。



「私は友人。貴方達導き手の友人であり、全ての使徒の友人である。

お迎えにまいりましたよ、『観望者』様」

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