表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第2章︰『登場人物の1章』
61/100

ページ2―33『人生の地図』

「参りましょう、過去公開ショー」



 部屋はその空間に包まれ、その部屋全体に、その過去は、映し出された。




 ◇◆◇◆◇



 ナルは、リナと双子だった。

 つまり、同じ時期に産まれていた。


 同じ時期に産まれているのに、『どちらが上か』『どちらが下か』なんて、どうして決める必要があるのだろうか。

 ナルは、『下の子』だった。

 リナは、姉だった。


 でも、ナルはリナとは、ほとんど話したことがなかった。

 だって、別々に育てられていたのだから。


 キャリソン家の本家は、シアル達の家。つまり、ナル達の家は、キャリソン家の分家。

 その分家の『跡継ぎ』は、『上の子』であるリナだ。


 リナは、父と母に育てられた。

 実の両親に、愛情を込めて育てられた。将来に役に立つことを沢山教えてもらったり、好きなものを買ってもらったり。

 幸せそうだな、と思って、遠くの部屋から見ていた。


 ナルは、使用人に育てられた。

 ナルは将来、リナの付き添いになると決まっていた。


 礼儀作法を教えられたり、いざと言う時の武術を教えられたり、勉強を教えられたり。


 決して、愛情を込めて育てられることは、なかった。


 リナが羨ましいなんて、そんなことはなかった。


 元々、決められた運命なのだから。

 ナルはリナの隣に居られるために、何もかもを学ばなければならないと、その事しか考えていなかった。


 でも、リナのことが好きだとは思わなかった。

 ほとんど顔を合わせず、ほとんど話さない。

 そんな相手を好きになることなんて、誰にできたのであろうか。


 ナルは生まれつき、『固有特権』を持っていた。

 固有特権を使うと、ほかの人の過去を見ることができた。

 何もすることがない時は、勝手に人の過去を覗き見た。


 色々な過去があった。

 楽しそうな過去、悲しそうな過去、苦しい過去、輝かしい過去。

 ひとつの過去の中にも、色々な出来事があった。

 喜んだり、落ち込んだり、人生は色々な変化をしていた。


 ――色々な色が付いていた。


 そんな過去を見る度に、思う。

 ナルの人生には、色がない。

 生まれた時から未来が決められていて、そのためだけに生きる。


 愛情も注がれず、知識だけは蓄えられて、心には大きな空白が出来上がる。


 そこに色を付けたいなんて、そこの空白を埋めたいなんて、思うことも、なかったのだけど。




 ◇◆◇◆◇




 リナは、ナルと双子だった。

 同じ時期に産まれているのに、『どちらが上か』『どちらが下か』なんて、どうして決める必要があるのだろうか。

 リナは、『上の子』だった。

 ナルが、妹だった。


 ナルを見たことがあるのは、大きなパーティなど、家全体での行事の時だけだった。

 その時だって、話したことは無かった。

 初めての面会の時に、少し挨拶をしたことは覚えている。

 他には、ほとんど話していないだろう。


 リナは将来、家の跡継ぎになると決まっていた。両親は、優しかった。何でも買ってくれたし、何でもしてくれた。

 勉強や魔術も分かりやすく教えてくれるし、今思えば、両親なりに愛情を注いで育ててきたのかもしれない。


 でも、なんだかつまらなかった。好きなことをして生きてきたのに、何故かつまらなかった。


 リナは生まれつき、固有特権を持っていた。固有特権を使うと、他の人の未来を見ることが出来る。

 人生は、山あり谷ありだった。

 いいこともあれば、悪いことがある。悪いことが続いても、少しはいいことがある。

 絶望と希望が繰り返され、色の付いた人生が出来ていた。



 そんな未来を見る度に、思う。

 リナの人生には、色がない。

 人間の素晴らしい瞬間は、希望から絶望へ、絶望から希望へと、人生が揺れ動いた時だ。


 人生には、絶望があってこそなのだ。


 しかし、リナの人生は、『思い通りに進みすぎていた』のだ。

 これが欲しいと思えばそれは手に入り、あれがしたいと願えばいつの間にか出来ていて。

 何も無い、揺れ動かない。

 凹凸おうとつのない、平坦な道。

 そんなの、面白くなんかない。


 つまらない、つまらない、人生だ。


 ナルの様子を除くことが、稀にあった。ナルには、自由が少なかった。

 自由が少なくて、縛られ続けていた。

 そんなナルを、可哀想だと思っていた。自分の元に来たら、沢山甘やかしてあげようと。

 でも、少し。

 ほんの少しだけ。

 羨ましいと、思っていた。




 ◇◆◇◆◇




 ぽっかりと穴を開けたまま、心に穴を開けたまま。

 どんどん、成長して行った。

 生きている意味はあったから、それに向かって進むだけ。

 寂しくはなかった。苦しくもなかった。悲しくもなかった。

 でも、楽しくもなかった。



 そんな日々も、終わりに近づいて行った。

 育ての親の使用人に、1週間後に正式にリナとの面会がある、と話された。

 そのために、色々なことを勉強し、リナと会っても何も問題を起こさないように色々な練習をした。


 リナと会うことに、緊張感なんてなかった。

 何かが変わるという期待もなかったし、リナを好きになるなんて思っても見なかった。



 ◇◆◇◆◇



 平坦な人生をずっと、歩んでいた。

 そのままで、成長して行った。

 自分の人生がわからずに、ずっと、ずっと。迷いながら。

 寂しくはなかった。苦しくもなかった。悲しくもなかった。

 でも、楽しくもなかった。



 そんな日々に、変化が訪れようとしていた。

 父親に、1週間後にナルとの正式な面会がある、と話された。

 決めていたように、色々なことをしてあげようと思っていた。ナルはどんな子なんだろうと、気になってもいた。

 ナルと会ったら、人生についても、聞こうと思っていた。


 ナルと会うことに、緊張感なんてなかった。

 あんなに大切に思うなんて、あんなにしたって貰えるなんて、思ってもいなかった。



 ◇◆◇◆◇



 その日、ナルの全てが変わった。

 その日、ナルの人生が変わった。

 生きている意味はかわらなくても、それを楽しいと思えるようになった。


 こんなにしっかりとリナと話したのは、初めてだっただろう。

 2人でしばらく話していると、リナは付き添いに、『2人だけにして』と言った。


 2人だけになって、何か話題を持ち出さなければ、と考えた。

 しかし、それより前に、リナの方から話してきた。



「貴方の人生は、楽しいのぉ? 」



 その一言だった。急に、それを聞いてきた。

 少し驚いたが、思ったままに答えようと、そう思った。



「特に、楽しくないの」



 それが、本音だったから。



 ◇◆◇◆◇



 気になっていたことを聞いた。自由がないのは、楽しいのか。困難だらけなのは、楽しいのか。

 でも、ナルから返ってきた言葉は。



「特に、楽しくないの」



 本音なんだろうと思った。誤魔化しているようにも、思えなかった。



 ◇◆◇◆◇



 それだけを答えたら、しばらく沈黙が続いた。リナは何かを考えているようで、ナルはそれを見つめていた。

 すると、リナが急に口を開いた。



「ねぇ、知ってる? ナル」



 リナは、そっと頬に手を当ててきた。



「絶望だと思っていた現在なのに、希望の未来を迎えた時。人間はとても素晴らしい感情を抱くの」



 急に何かを言い始めたと思えば、訳の分からないことを言っていた。



「でもね、ナル」



 微笑んで、その手を下におろして、自分の膝に当てた。



「人間の最も素晴らしい瞬間は、希望だと思っていた時から、待っていた未来が、絶望だった、時なのよぉ」



 言っている意味は、よくわからなかった。



「よく、分からないの」


「ええ、そうねぇ。私にもよく分からない。だって、私もあなたも、ずっと味わっていないはずよ。人生の、素晴らしい瞬間なんてねぇ」



 それからリナは真っ直ぐに立ち上がった。それから手を取って、言われた。



「探しましょう? その瞬間を。見つけましょう? 私達の人生を。あなたも私も知らないような、素晴らしい人生を。ずっと真っ直ぐだった私達の人生の地図に、曲がり道を作らない? 」


「……よく、分からないの」


「私もよぉ。でもきっと、じきにわかるわぁ。私はあなたと出会い、あなたは私と出会う。それが人生の曲がり角。

 2人はそれぞれ、足りていない。足りていない部分を足しあって、2人で地図を作りましょう。

 私たちの人生は、2人でひとつ。

 どーお?面白いと思わないかしらぁ?」



 心に、大きな穴が空いていたら。

 何も貰えず、何も無く。

 何も入っていない、大きな穴が。

 心の殆どに、穴が空いていたら。

 その心に何か一つ、一つだけでも、とても大きな物が入ってきたら。

 その穴はそれで埋めつくされ、心はそれで埋めつくされる。

 大切な、それで。

 大好きな、それで。

 生きがいである、それで。



「リナ……だーいすきなの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] リナとナルの過去が対照的に描く表現が上手いなと感じました。また、ナルの異常なまでのリナに対する愛がいかにして生まれたのかが丁寧に書かれており、内容を思い出しながら読めるのがいいと思いました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ