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異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第2章︰『登場人物の1章』
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ページ2―28『素晴らしい瞬間』

「まちな……さいよぉっ! 」



 ゆぴは眉間に皺を寄せ、手に持っているマシンガンを乱射した。その対象は、リナに向かって走り続ける、ナル。

 ナルはもう既に、かなり負傷している。無限に続くかのように銃の弾が飛んできて、体の周りを取り巻くような炎が渦巻いてきても、シールドも張らず、生身で突き進んでいるのだから。

 ハプが炎を出すために、かざしている手が震えている。

 ゆぴのボタンや引き金を押す指は、焦り、闇雲に動いていた。



「だァーもうなんで! なんで進むのよ! 」



 ゆぴは立ち上がり、地団駄を踏んだ。



「リナ、今助けるの。待っていて欲しいの…! 」



 走ってゆく。真っ直ぐに、真っ直ぐに。振り返ることなく。

 その見開かれた目は、遠くでシアルと戦っているリナを、リナだけを、しっかりと見つめていた。

 その様子をケプナスは、後ろで立って見つめていた。

 2人とも必死になってナルを止めようとしているのに、自分だけ役に立てていなくて、悔しかった。

 ケプナスは右手をグッと握りしめ、肩を少し上げた。



「ケプナスだって! 」



 ケプナスは叫び、思いっきり走り出した。

 《鬼ごっこ―鬼―》発動。

 思いっきり無駄に太ももを上げながら全力疾走しているケプナス。ナルはあまりにも負傷しすぎて、少しずつスピードが劣ってゆく。

 その一方でケプナスはどんどんスピードをあげて追い上げてゆき、ナルを追い越してしまった。



「ケプナスの勝ちなのです! 」


「追いかけっこじゃないからね! ケプナス! 」


「もちろん、今から本領発揮なのですから! 」



 そういうとケプナスは息を吸い込み、方向転換する。

 それから両手を上げて、飛び込むようにナルの前に向かってジャンプした。その途中でケプナスは、グッと目を閉じた。

 ケプナスは手を上げたままで思いっきり床に落ちる。



「アンタ、何やってんの! 」



 すると、あまりに急な出来事に対応しきれなかったナルはケプナスに躓き、同じような状態でケプナスの上に倒れ込んだ。

 顔面で床を殴った状態で倒れ込んだケプナスの上に、手を上にあげたまま倒れ込んだナルが乗っかっている。

 なんとも不思議な光景だ。

 だが、一応これでナルを足止めすることができた。

 ゆぴはそれを見て剣を取り出し、ツカツカと2人に向かって歩いて行った。



「ケプナス、感謝してやるわ。これで、しばらくは足止めできそうよね。

 ナル・キャリソン。アンタも、そろそろ終わりね。精々仲間を助けられなかったことでも、後悔しまくって死にゆきなさい! 」



 見下す目線で叫び、剣を振り上げて。

 その剣を真っ直ぐに、突き刺した。



「グッ……! 」

「いたいたなのです! 」

「ケプナァース! 」



 ナル、ケプナス、ハプは同時に叫ぶ。

 ケプナスとハプの叫び声を聞き、ゆぴは震えながら剣を自分が突き刺した場所に振り向く。

 ゆぴは勢い余って、ケプナスまで突き刺してしまった。


 ハプは全速力でケプナスの傷を応急治療する。それから調理台を出してスープを作り、スプーンでケプナスに食べさせる。



「これ、食べて。ケプナスがゆぴに殺されたら、穂羽泣くよ! 」



 ケプナスはゆっくりと口にするが、そのHPは回復しない。

 その間にも、ゆぴはナルが逃げないようにと取り押さえていた。



「どうして、どうして回復しないの……。もしかして、穂羽の料理、美味しくないのかな」



 そう言って、ハプはステータスカードを取り出して、それを確認していく。

 目を通し、途中でハプは目を見開いた。

 それから一回無言で頷いて、立ち上がり、ケプナスに手をかざして、唱える。



「固有能力《能力転換・固有魔法転換》

 ケプナス、なんでもいいから今すぐに、料理作って」



 ハプはケプナスを抱き抱え、調理台の前に連れてゆく。するとケプナスはハプ程ではないが、常人波では無い素早さで、初めての朝に作っていたコンソメスープを作り終える。

 それをケプナスが口にすると、そのHPは完全ではないが回復した。



「そっか、そういうことか。やっと理解したよ、穂羽の能力。

 《能力転換・効果返却》」


「おにちゃーま、ありがとうなのです。おにちゃーまが治してくれたから、左手も全部あるのです! 」


「うん、大丈夫。ゆぴ、ナルは逃げてない? 」



 ハプはゆぴの方を振り向く。

 ナルは致命傷を負いながらも、必死にゆぴの拘束を解こうともがいている。



「こいつ、しつこい。魔力量そんなになくても、ちゃんと星5貴族の魔術師だし、こいつもアルロット・キャリソンの子孫だし。そう簡単に死なないってよ」



 呆れた顔で2人に言うゆぴに対し、ナルはまだ、必死にリナのいる方向を見つめている。



「リナを……助けないといけないの。邪魔、するなぁァァっ! 」



 ナルは叫び、目を見開き。その目にリナだけを映して、ダガーを取り出す。勢いよく仰向けになると、手に持ったダガーを闇雲に、意図もなく振り回した。



「危なっかしいわね、馬鹿! 」



 ゆぴは振り払おうとするが、腕に刃の先が当たり、浅い傷が出来た。

 その隙にナルはゆぴの腕を振り払って、ふらつきながらも走ってゆく。



「結構出血してるけど、これくらい大丈夫なの。こんなの気にしてたら、リナが殺されちゃうの」



 ナルはそう言って自分のマントを引きちぎり、出血部に巻き付ける。



「リナ」


 走って。


「リナ」


 呼んで。


「リナ」


 駆けつけて。扉を、大きく開いて。


「リナ…、リナ、リナ、リナ、リナ、リナ、リナリナ……っ! 」



 愛して、愛して、愛して。



「ナル…?ナルじゃなぁい!来てくれると思ってたわぁ、ほんと、肝心な時に、流石ねぇ。」


「シアル…リナを離せ。今すぐに離すの!リナは、お前には殺させないの! 」



 ナルはダガーを腰の位置に当てて突き出し、ツカツカと前に進んで行く。その目の中には、リナが生きていて喜ぶ希望の色でなく、リナを愛する赤い愛でもなく。真っ黒な、リナを対する、リナにだけ向けられる愛が映っていた。



「助けてよ…ナル! 」



 ――良かった、生きれる。


 そんな希望が、リナの中をよぎる。

 その間も、ナルは真っ直ぐに歩き続ける。


 足だけを動かして、そのままの体勢で。



「シアルには殺させないの。」



 ――ねぇ、知ってる?ナル



「ふふ。シアル…残念ねぇ。」


 前に進んで行く。リナに向かって進んで行く。


 ――絶望だと思っていた現在なのに、希望の未来を迎えた時。人間はとても素晴らしい感情を抱くの。



「リナ。だーいすきなの。」


 ナルは片手で、リナに抱きつこうとする。


 ――でもね、ナル。



「何回も、聞いたわぁ。」


 ナルはリナに抱きつく。静かに。ゆっくりと。


 ――人間の最も素晴らしい瞬間は、



「───ガ、ッ」


 リナの口から、ゆっくりと、赤色の血が流れてゆく。


 ――希望だと思っていた時から、



「――()()()()()、殺させないの。」


 ゆっくりと両手でリナを抱き抱える。そのまま、真っ直ぐに進んで行き。


 ――待っていた未来が



「リナ、だーいすきなの。」


 抱き抱えたままで、窓の傍に歩く。その窓の隣の地図には、「4F パーティホール」と書いていた。その目は、黒い愛で、染まっていた。



「これからも、ずっと、ずっと。愛してるの。ずっと、永遠に。リナへの愛は、永遠に、永遠とわに、朽ちることは無いの。

 ――リナ、だーいすきなの」


 窓から身を乗り出し、ナル・キャリソンは、ゆっくりと抱き抱えている手を離す。



 ――絶望だった、時なのよぉ。



 リナ・キャリソンは呟く。離れてゆく空を見上げながら。



「___ああ、私の人生で1番、素晴らしい瞬間ねぇ」


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