表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔術物語  作者: 青空 御春
第2章︰『登場人物の1章』
51/100

ページ2―23『チャンスの再来』

 ___沈黙が、続いた。


 ここに、この沈黙を破れる人など居たのだろうか。

 居ない、当然だ。

 ここに居るのは、常に冷静沈着なペリィでもなければ、空気の読めないケプナスでもない。


『時間の観望者』は、自分の見た『笹野穂羽』の過去を思い返し、生まれて初めて、心の底から驚いている。


『ハプ・スルーリー』は、自分の見たくもない過去を見返して、『心の底では』悲しみにくれている。


 でも、表情は、変えない。

 笹野穂羽は、ハプ・スルーリーという、壊れることのない仮面を被っている。


 仮面は、脆くて脆くて脆いもの。

 素顔を隠した仮面は、すぐに壊れるもの。

 ___壊れない仮面は、その持ち主の心が、壊れているから壊れない。


 無言、無言、無言。

 無垢、無垢、無垢。

 無力、無力、無力。


 破れない沈黙は、2人の人間を、見えない『何か』で押しつぶす。



 その沈黙を破ろうと、ナルが口を開く。少し震えながら、完全には仮面をかぶりきっていない状態で。騙しきれない状態で。



「___ミアという子は、最後までやり遂げるべきだったの。」



 何を言っていいのか分からなくて、ナルは思うがまま、思ったことを言う。

 但し、ハプと穂羽、その2人の関係については何も聞かずに。



「ホワのために役に立つと決めたら、最後まで役にたつべきだったの。」



 先程まで『過去』のあった場所を見つめながら、ナルは独り言のようにつぶやく。



「そんなの、ダメだよ。」



 これは、本音。穂羽とハプ、2人の本音。



「美愛ちゃんはあの時、自己犠牲じゃなくて。話し合いで解決するべきだったんだよ。」



 これは、虚偽。ハプの本音。

 そんなこと、違う。話し合いで解決するはずがない。

 __美愛は、穂羽の役に立ちたいなんて思ったらいけなかった。

 __美愛は、自分の意思に従って生きなくてはならなかった。



「尽くすと決めたら尽くし続ける。守ると決めたら守り続ける。大好きなら、それくらいは当然だと、ナルは思うの。」



 ___そんなのダメだよ。そんなことをして、ナルまで傷ついたらどうするの。もう、美愛ちゃんのような人を、見たくないのに。



「...さっきも言ったじゃない!ナルちゃんは大好きを馬鹿にしてる。そんなの、平和じゃない...!」



 ___違う、違う、そうじゃない。怒りたくなんかない。ナルちゃんは大好きを馬鹿にしてなんかいない。穂羽はただ、ナルちゃんに...。



「ナルなら、そうするの。自分がどうなってもいいから、リナにして欲しいことをするの。」



 ナルは話しながら、だんだんいつも通りに戻ろうとする。

 ハプは思う。

 笹野穂羽が、邪魔だ。早くどこかに引っ込んで欲しい。

 と。


 ハプスルーリーは二重人格では無い。二重人格では無いのだが、人格がふたつある。

『ハプ・スルーリー』とは、『笹野穂羽』が仮面を被り、演技して、悲しみから、苦しみから、あんな過去の再来から。

 逃げて、逃げて、逃げて、逃げた姿だから。

 穂羽は、逃げ続けている。

 もう、あんなことになりたくないから。

 もう、辛い思いをしたくないから。

 もう、悲しい思いをしたくないから。

 もう、友達を失いたくないから。

 そのために、逃げ続けている。

 自分を捨てて、逃げ続けている。



「ハプ。」



 ナルはもういつも通りに戻り、ハプに話しかける。

 ハプは「うん」と言ってナルの方に振り向く。



「これだけ、話を聞いておきたいの。それが終わったら、この話は終わりなの。」


「なに、かな。」


「これは、本当に君の過去なの?ナルがもし間違えたのだとすれば、1回攻撃していいの。」



 そりゃあ当然だ。

 だって、ナルが見せようとしていたのは、みようとしていたのはハプスルーリーの過去。

 ハプスルーリーという、有名な家系の星五貴族の過去を見ようとしたのだ。

 なのに、いざ見ようとして出てきたのは全く知らない笹野穂羽の過去。全く知らない別の世界の、全く知らない別人の過去。

 こんなの、ペリィでも動揺するだろう。



「...あってるよ。これは、ほわの過去。違うけど、そうなの。ほわは元々異世界の人だったの。死んじゃって、今ここにいるだけ。」



 ハプは心を痛めながら話す。

 信頼出来る仲間ならまだしも、宿敵にこのことを話すことになろうとは。

 __いや、この方が良かったのかもしれない。

 仲間に話すより、なぜか。

 なぜなのか、話せるから。


 それを聞くとナルは頷き、次の瞬間には何事もなかったように話し出す。



「そういえば、忘れていたことがあるの。ツアーの「参加特典」を渡さなければならないの。」



 ナルは手を叩き、笑顔になる。

 ハプは首をかしげる。



「参加...特典?」


「そうなの。ナルの『過去探検ツアー』に参加してくれた人には、参加特典を配るの。よくある、参加賞みたいなものなの。お土産...と言ってもいいの。」


「へぇ...すごい。」



 ナルはこの『過去探検ツアー』を、できるだけ本物のツアーに近い形にしている。それを見たハプは、かなり関心した。



「参加特典は、『過去の声』なの。その人の記憶の中の大切な人達の声を聞いて、話すことが出来るの。それが誰かはわからないけど、何人か居る人や1人だけの人、誰も居ない人。過去によっていろいろ変化するの。

 その過去の持ち主が強くその人に何かを伝えたい場合とかには、喜ばれる特典なの。」



 ナルは参加特典について説明した。

 参加特典『過去の声』

 もう一度話したい相手と、もう一度話すことが出来る。

 この固有特権を与えている、『神』の『読者』の、『魔術神』の、知る『その人』と。


 穂羽は思った。

 これがあれば、伝えられる。あやまれる。

 両親に、どこに行ったのかも聞けるかもしれない。謝れるかもしれない。

 柚希に、ごめんなさいと言えるかもしれない。あの時言えなかった言葉をもう一度、言えるチャンスがあるかもしれない。

 美愛にも、言いたいことが沢山ある。伝えたいこと、謝りたいこと。そして、ありがとうと言いたい。



「うん。ありがとう。その参加特典。ほわ、今すぐ貰っていい?」



 ハプは決意を固めた表情で、真っ直ぐにナルを見すえる。



「もちろんなの。今すぐに、プレゼントなの。」



 ナルも同じように、決意を固めた表情で、こちらを見すえる。

 それから手を前に出して、



「時間の観望者・過去、固有特権。

『過去の声』」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ