ページ2―8『電話』
「ハプは...あいつはどこに行ったの?」
「彼はこの連盟の牢屋に、妹を探しに行きました。...出来れば、行かせたくなかったのですが、彼のためです。私は場所を教え、資格を与えたのでございます...。」
連盟長の執務室で、ゆぴ、ペリィ、セレインは静かに待っていた。
セレインはエイのことを知っているのだろう。不安そうな顔をして、待っていた。
沈黙が続いた。するとその沈黙が破られた。
部屋の端に置かれた電話が鳴った。
カチャ
「はい、こちら国際魔術協力連盟長、セレインです...。」
セレインはかかってきた電話をとると、電話の相手と話をし始めた。
ゆぴは少し気になり、耳を傾けたが聞こえなかったので諦め、引っ込んだ。
「___兄様!?」
セレインは電話に向かって大声で叫んだ。
それを聞いたゆぴは椅子をひっくり返して立ち上がり、 さらにセレインに近づいて声を聞いた。
するとそこからは、つい最近会ったばかりの、新たなリーダーの声が聞こえる。
「驚いたでございます...。お久しぶりです。随分とお急ぎのようですが、どうされました?」
『セレイン。久しぶり。でも今はその話をしてる暇はないからねー、ごめん。手短に話す。』
ゆぴは肉体強化術をかけ、耳を通常より良くした状態で電話の声を聞いた。それから大事そうな話だと判断し、手招きでペリィを呼んだ。
ペリィは本を閉じて立ち上がり、同じように聞いた。
「...ええ、わかりました。お伝え頂いてよろしいですか?」
『理解が早くて助かるねー。で、話なんだけど。ケプナスは無事だ。少なくとも死んではいない。』
「ケプナス様ですか。」
『多分そっちにハプ達が向かってるよねー?まあ、君がそんな身勝手なことはしないと思ってたからさー。大方、僕の予想は大当たりー、と言ったところかなー。』
ゆぴはさらに耳をすます。そう、電話から、『ケプナス』の名が聞こえてきた。今回、助けると誓った相手。無意識のうちに出来た、大切な友人。
ずっと『仲間』なんて出来ずに、友達なんて、自分からは遠くかけはなれた言葉だと思っていた。
だからゆぴは、無意識のうちにケプナスを助けようとしている。
「...ええ、ハプ様がケプナス様のことを話し、その次に牢屋のことを聞いた時点でなんとなくの予想はついておりました。
...それで、ケプナス様はどう言った状況なのでしょう。」
『はは、流石だなー。頭の回転の仕方が違うよねー。
...動いたね。』
電話の奥で、シアルは声のトーンを下げて言った。顔は見えないが、ゆぴにはなんとなくその顔が予想出来た。
「動いた...?...理解しました。動きが早いですね。」
『うん、さっすがー。それは僕も思うよー。まあ予想はできるよー。今回の目的はケプナスを殺すことでは無いはずだよ。大方、』
「人質、と言ったところでしょう。」
セレインはシアルの言葉を遮り、言った。ゆぴは衝撃を受けた。 それからペリィの方に顔を向け、お互いに頷いた。2人は紙とペンを取りだし、聞いたことをまとめながら聞いてきた。
『全くもう、困った奴らだよー。というわけでさ、連盟も動いてくれるかなー?場所伝えるからさー。』
「もちろんでございます。それなりの用意をして、向かわせていただきます。その前に、わかっている限りでいいので情報を教えては貰えませんでしょうか。」
『もちろん、そのつもりだよー。ほぼ情報はゼロだけどねー。』
「それは承知の上です。まず場所は。」
『国際魔術協力連盟。ツム国のね。』
「...なっ!?」
セレインは驚いた。それもそのはずだ。国際魔術協力連盟は自分が管理している組織だ。
『驚くだろうねー、まぁ。簡単な事だよー、箱型のちょっとした結界を利用した牢屋。あれはケプナスを閉じ込めておくのに便利だからねー。恐らくだが、連盟を襲い、牢屋に出入りする資格を持つものを利用してケプナスを入れたんだろ。場所はわかるよねー。』
「小癪なことをしてくれますね、全く。それで、使徒だけでしょうか。それとも...。」
『使徒だけで国際魔術協力連盟を落とせると思う?』
「...導き手も。」
『そういうことだねー。あ、ちなみに次は誰が来たのか聞こうとしてたでしょ。それは知らないからねー。まあそれは行ってからのお楽しみ的な感じー?能力とかによって判断するよ、僕ならすぐわかる。』
「了解です。では。」
そう言ってセレインは電話を切った。それからゆぴとペリィを見て、座り直して言った。
「聞いていましたね、それならそれなりに、協力はしてもらいます。」
「...いいわよ、ケプナスが捕まってんでしょ?あたしらだって協力すんに決まってんじゃない。」
「喜んで、と言ったところかな。ところで、相手の情報が全く見えないよ。教えていただいてもいいですか?」
ペリィは焦って口調が普段に戻っていて、途中で気がついて敬語に直した。
「相手は、とある組織です。名を、『魔術神秘教団』。その集団が、ケプナスを捕らえています。」
「魔術神秘教団...?」
「ええ。『教会』という名を、聞いたことはありませんか?ゆーかゆーぴぃー様。」
セレインはペリィではなく、ゆぴに目を向けて聞いた。ゆぴはそれを聞き、ゾッとした。なぜならその名を聞いたことがあるからだ。ゆぴは今までにも、その名を口にしかけたことがある。戦争でハプと争っていた時、黒いローブの人間が現れた。そのローブの背中にあった模様をハプに聞いた時、ゆぴは『教会』と言いかけたのだ。
「ある、けど...。」
「あれは一般的に知られている名前であり、本当の名前ではありません。本当の名は魔術神秘教団。得体のしれていない団体です。
その集団が、ツム国の国際魔術協力連盟でケプナスを捕らえています。今から...。」
セレインがそう言おうとすると、執務室の扉が大きな音をたてて開いた。
「その言葉、聞き捨てなりません!セレインちゃん。」
そこには、箱の牢屋から出てきたハプが立っていた。
「勘違いして、ごめんなさい。ほわ、騙されてた。国際魔術協力連盟の名を語ってケプナスを誘拐したんだね。誘拐は犯罪だよ、悪いことだよね。勝手に名前を語るのも権利を侵してることになるし、しかも魔術師のトップだなんて。恐らくだけど懲役10年は覚悟しておいた方がいいんじゃないかな、とほわは思います。
でも今はそうじゃないの。ケプナスを奪った犯人、わかったんだね。早く突き止めなきゃ。」
ハプはつかつかと部屋に入ってきて、立ったままで言った。
「ほわは何をすればいい?手伝わなくてもいいなんて、シアルみたいなこと言わせないから。絶対手伝うよ。意地でも手伝う。」
「...ええ、手伝ってもらいますよ。借りられる手は、できるだけ多く借りたいのでございます。兄様と違い、自己犠牲の道は選びません。
2人はこの建物の中の人々に召集をかけてください。
ハプ様は、そうですね。...先程の牢屋に、子供がいたはずです。連れてきてください。」
セレインはゆぴ、ペリィ、ハプに順に指示を出した。
「エイを?どうして?」
ハプがそう言うと、セレインは不思議そうな顔をした。
「エイ?」
「...知らないの?あの牢屋の中にいる、エイ。」
「あなたは、アレの名前を知っているのですか?」
「アレ...?それってエイのこと?それじゃ、まるで物みたいだよ?」
「名前を、聞くことができたのですね。私達には聞くことは出来ませんでした。エイ、ですか。
...得体のしれない物なので。
急いでください。」
言われるがまま、ハプは走って牢屋に向かった。その白い空間に戻ってきた。エイはやはりきがつかないようだったので、同じようにつついた。すると同じように飛び上がり、言った。
「ハプだ、戻ってきた。やっぱり戻ってきた。」
「うん、戻ってきたよ、エイ。エイ、外に出るよ。」
そう言うと、エイは笑顔になった。
「外、出られる?嬉しい!」
「うん、急ごう!」
それからハプはエイを抱き抱え、走って外に出ていった。
「色のある世界だ。綺麗!」
エイは目を輝かせて言った。




