ページ0「終わる、始まる」
初めての投稿です。よろしくお願いします
━━━あついよ、なんで?
突如、声が聞こえてきた。
━━━たすけて、たすけてよ、あついよ!
燃えている。目の前が、燃えている。全て、そこにあるもの全て、燃えている。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ」
ガバッ!
そう叫んで、少女はベッドから起き上がった。いつも通りの朝。いつも通りの風景。
「あれ...…?燃えてない..….ゆめ? ゆめなのかなぁ」
そう言って彼女、笹野穂羽は立ち上がって自室を出ていった。
穂羽は、通常なら高校に通っている17歳である。そう、通常なら。彼女は生まれつきの精神障害があり、学校に通うことができていない。そして親は居ないため、一人暮らしをしている。
その為全ての家事を穂羽が担当していて、その腕はプロ並み。
「今日の朝ごはんは、何にしようかなぁ? あ、お肉がある! ビーフステーキでも作ろうかな?」
そう言いながらいつものように冷蔵庫をのぞく。
「佃煮だ沢山余ってるなー。今日は佃煮を入れたおかゆとビーフステーキだ! ふんふーん。美味しくなーれ」
穂羽は鼻歌を歌いながらフライパンを取りだし火を付けて、普通ならありえない組み合わせの料理を作ろうとする。そう、普通なら……
「あ、そうそう。今日はゴミを出さなきゃ。パッと行ってこようかな?」
穂羽は独り言を呟いて、そのまま調理器具を流し台に入れて、ゴミ箱に溜まっていたゴミをゴミ袋に入れて行く。
大量のゴミ袋を抱えて滑り込むようにサンダルを履き、そのまま玄関を飛び出す。
街中を走って駆け抜けて、数分後にはごみ捨て場についていた。穂羽は大きなゴミ袋を「えいっ」と言いながらその場に置いた。
ゴミがなくなって軽くなった両手を振り回しながら、穂羽はスキップで家に向かう。同じように街中を抜けると、ハプは自分の自宅にたどり着く。
そしてその扉を開けて中に入ると、穂羽は異変に気がついた。
「…何この匂い。何か焦がしちゃった?…あ、待って、火、つけっぱなし! 」
これではダメだ。そう思った穂羽は、急いでキッチンの方向へと向かう。焦って扉を開けた瞬間、穂羽の真正面から顔を覆い尽くす黒色の煙が襲ってきた。
その煙を必死に払い、半目を開けて穂羽は様子を覗き込む。
予想は的中した。最悪だ。
「ほわのバカ! バカバカ!」
もう、キッチンには火が回りきっている。笹野穂羽の家は火事となった。
急いで逃げようとした。だが手遅れだ。
穂羽がキッチンの扉を開けたことにより、火はもう家を包み込もうとしている。
ショックで足が動かなくなり、穂羽はその場に座り込んだ。
「...あついよ、なんで? どうして? 分からない!」
彼女は涙を流し、燃え続ける炎に飲まれていく。
「たすけて、たすけてよ、あついよ! …...う、うわぁぁぁぁん!」
死ぬ、その時実感した。
終わる、その時実感した。
目の前には何も無く、その全てが燃えていた。
「これ、夢とおなじ…。そっか、あの夢、正夢だったんだ…」
諦めたように、沈んだ声で言う。涙を流し、唇を噛み締めて。
「さよなら、ほわ。さよなら、おうち。もうすぐお別れだね。今までありがとう…」
そう言って、笹野穂羽は、命を落とした。
◆◇◆◇◆
それから数分たった時だった。
ハッ!
穂羽は目を覚ました。しかし、そこはいつもの部屋ではなかった。可愛いぬいぐるみもない。大好きな調理雑誌もない。
ナイ、ナイ、ナイ、ナイ……
そこは、いつかテレビで見た感じの中世ヨーロッパのお金持ちが住んでいそうな古風な内装で、薄暗い雰囲気の部屋だった。穂羽の家にあった物は全て無い。
な、何ここ…ほわ、ここ知らない。これってもしかして、アニメとかでよく見るヤツ…なんだっけ…
心の中で、必死に考える。
『異世界転生!』よく分からないけど、死んじゃって別のとこに行っちゃうやつ! まほうとか、たくさん使えるやつだ!
そんなことを考えながら驚いていると、右の方から音が聞こえた。
ノックの音だ。
「あ、はーい。誰ですか?」
混乱しながらも思わず出た普通の返事。
初めて転生先での自分の声を聞く。綺麗な声で、喋っているだけなのに、歌っているようだった。美しい、高い声だった。
自分の声に驚きながらも、人を待たせるのが苦手な穂羽はノックをした人に向かって言葉をかけた。
「は、入っていいよ」
そう言うと、扉が開き、幼い幼女が入ってきた。黄色い髪で、くりくりした大きな目。もちっとした輪郭に、小さな鼻と、可愛らしい口。
━━━━可愛い
それ以外に当てはまる言葉などないほど、可愛らしい子だった。
「おにちゃーま、起きるのおそいのです! ご飯作ってるから、早く食べてチームの集会に行くのですよ?」
「おにちゃーま…?」
自然に話しかけてくる幼女に、穂羽は問いかける。
「おかしくなっちゃったのです? はっ、もしかしてぇもしかしてぇ!! 『きおくそーしつ』なのですねっ!! この天才的ケプナススルーリーの推理は完璧に当たっているのです!」
決めポーズを取りながら自問自答をしてその場で回転する幼女を、穂羽は目を見開いて見つめる
「そうそう驚かなくてもケプは敵じゃないのです! ケプナスの名はっ! 最強回復術士! プーリルスルーリーの子孫! ケプナススルーリーなのですぅ!」
彼女ケプナスは、またもや決めポーズを取りながら自己紹介をする。
「ケプナス…? ケプナスは、ほわの何?」
「ケプナスは、おにちゃーまの妹なのです! おにちゃーまはケプナスのおにちゃーまなのです」
輝かしい笑顔を見せながら、次々と穂羽が転生した所について話してくれるケプナス。
……これは、好都合だ。色々と知らない異世界のことを1から知るチャンスである。
「そっか、妹なんだね。こんな可愛い妹ができるなんて、ほわ、とても嬉しい。ところで、ほわの名前は?」
異世界で新たな穂羽として生きていくために絶対的に必須な情報、名前。先程まで座っていたベッドから立ち上がり、ケプナスに近づきながら疑問を問う。
「お名前? おにちゃーまのお名前なのです? おにちゃーまはおにちゃーまなのです」
「……え、えっとね、そうじゃなくて…」
何度か同じ質問を繰り返したが、ケプナスと名乗る子供は自信満々に「おにちゃーまはおにちゃーま!」と言い続けた。
...…ダメだこの子、馬鹿だ。兄の名前すらわかっていない。もはや名前があることがわかっていない。
「ケプは知らないけど、知りたいならステータスカード見ればいいのです。はい、ステータスカードなのです」
そう言ってケプナスは、隣の棚の中から1枚のカードを取り出し、穂羽に差し出した。
「ステータスカード? よく分からないけど...」
そう言いながら穂羽はそのカードを受け取る。するとそこには、ゲームなどでよく目にするようなステータスが書かれていた。
⦅ステータスカード⦆
【名前】ハプスルーリー
【性別】男【年齢】13歳
【チーム】チームソルビ市
【タイプ】炎
【戦闘タイプ】ヒール
【固有魔法】能力転換、合体
【固有能力】調理
【身分】貴族(星5)
「ハプスルーリー...これが、ほわの名前...」
ステータス表を見ながら、新しい人生の自分の情報を見る。それを見て、涙が出そうになった。
━━━また、生きられるんだ。
笹野穂羽は死んだ。人生が終わった。
しかし、また始まる。笹野穂羽、ハプ・スルーリーとして、新たな人生が。