王子キャラは実在するのでしょうか?
「おーい、悠斗〜こっち来いよ〜。ほれ!」
「うわぁ!メガネ取らないでよー。」
「あはっ!!私池田がメガネとった顔好きだなー!」
「ねぇ、楓ちゃんカラオケとか来るの珍しいよね。」
「うん、そうだね。ちょっと緊張するんだけど、」
「私もあんまり来ないけど、みんなでどこか行くのはちょっと楽しいよね〜」
「··········うん!そうだね!」
楓はクラスのみんなとカラオケに向かっていた。
実力テストの日だったので、早めに学校が終わり、みんな遊びに行きたい気分なのだ。
本当は今日、お店の買い出しに行く予定だったのだが、由季に誘われてみんなと出かけている。
男子たち何人かと、由季と、同じクラスの碧ちゃんだ。
··········来てよかったな。碧ちゃんとは去年から仲いいけど、遊んだりとか出来てなかったから。
「楓!電車きたー!」
「あ、うん。」
電車が来てドアが開いた。楓もみんなについて行く。
すると、乗り込む前に後ろから話しかけられた。
「あれ、甘味さん?」
「へ、あぁ、由佐くん。」
「ちょっと楓!早く乗らないと、」
「あ、」
気づいた時には音が鳴って、電車のドアが閉まってしまった。
由季が電車の中でドアに張り付いて何か言っている。
碧ちゃんはとても焦っていた。
楓ももちろん焦って、とりあえず急いで、
「次のに乗っていく、ごめんね。」と、言うことをジェスチャーで伝えたつもりだが、伝わったかどうか··········。
「あぁ、楓、乗遅れちゃった〜、」
「なぁ、あいつ5組の由佐だったよな。」
「な!5組の王子!もしかして甘味さんとスクープ!?」
「まじ?俺、甘味さんタイプなのに、小鳥遊さんなんか知らないの?」
「えっ、私は何も聞いてないなぁ。」
ざわつく中、由季が自信満々で言い出した。
「みんなバカだね!」
「はぁ?お前がゆーなよ。」
「ひどーい!楓がスクープなんて無いよ〜!だって楓忙しくて、恋愛とか全然考えてないんだもん!·····でもー、わたし的にはー、ドキドキする恋バナ、楓がしてくれたらいいなぁって思う!」
「ほんとお前バカっていうか、甘味さんバカだよな....。」
「えっと、本当にごめん、次のに乗っていくから先に行ってて。と、」楓は由季にメールを送った。
「甘味さん、ごめんね。乗り遅れちゃったよね。」
「いえ、大丈夫ですよ。今メールしましたし。」
「ごめん。·····そう言えば、また敬語になってるよ。」
「あっ、ほんとですっ·····、ほんとだね。お店の時の癖でつい。由佐くんは何か用事? 家、確かこっちじゃないよね。」
「あぁ、うん。ちょっとね。」
··········なるほど。あれ関係か。
「でも、由佐くん、制服のままでいいの? 学校の子に会ったら、」
「大丈夫、着替え、持ってきてるから。」
「·····へ、へぇー。」
着替えまで持ってきて、なんという周到さ。
王子と言われているだけあって、隙がないなぁ·····。
··········というか、すごい熱心。
「甘味さんは、友達とどこか行くの?珍しいね。」
珍しいって、一緒に行くみんなにも言われたなぁ。んー、そんなに、付き合い悪かったかな。
お店のことばっかりで、あんまり·····ね。
「みんなでカラオケに行くの。誘って貰えたから。」
「カラオケ、甘味さんカラオケ行くんだ。」
「うーん、ほぼ初めてみたいなものだよ。由季と行ったことあるくらいかな。」
「そう。ふーん。·····じゃあもし今日のカラオケが楽しかったら、今度、僕にも付き合ってくれない?」
「え、カラオケに?」
「うん。」
··········これは予期せぬお誘いだ。
でも·······、由佐くんがカラオケってなると、他に呼べる人いないし、2人きりか··········。
学校の女の子たちに見つかったら刺されそう。
ここは、やんわりと、断わろう······
そう思いつつ、由佐くんを見ると、そこはかとなく、そこはとなくキラキラした目をしている。
えっと··········
「あー、うん。もし楽しかったら行こうかな。」
「本当?嬉しいな。·····もうすぐ電車来るね。」
本当に好きな趣味なら隠さなくてもいいのに、と楓は思うが、そうもいかないのだろう。
しかし、好きなことを追い求めて、そのためにバイトもして。
そんな姿は少しあごがれて、そして羨ましくも、·····疎ましくもあり。
私は··········。
楓はようやくみんなのいるカラオケに着いた。
電車を目の前で乗遅れたとか、ちょっと恥ずかしいな。
「遅れてごめんなさい!」
「お!楓おかえり〜!」
既に、カラオケはかなり盛り上がっていた。
高橋くんと池田くんがラブソングをデュエットしている。
「甘味さん来た!おい!お前あれ聞けよ!」
高橋くんがマイクでそのまま話している。
「えぇ〜?」
みんながこそこと話し始める。
……なんだろう?
そんな中切り出したのは、まさかの碧だった。
「ねぇ楓ちゃん、由佐くんと付き合ってるの?」
『えっ!?』
楓はもちろんびっくりしたが、碧ちゃんの思い切った聞き方にみんな驚いていた。
「小鳥遊さんストレートだな!」
「あ、ご、ごめんね。気になっちゃって。」
そうか、電車乗る前に話してたの見られてたよね。
うーん、みんなお店のこと知らないだろうし·····。
「えっと、バイト仲間なんだ。」
「へぇ〜、甘味さんバイトしてるんだ。いつも早く帰るもんね。」
「お前、よく見てんなぁ?」
「いや、そんなことねぇよ、」
「王子がバイトねぇ、甘味さんどこでバイトしてんの??」
「えっと、」
由佐くんのバイト先を勝手に言っていいものだろうか、私の店なんだけど·····
「ねぇ!楓も歌いなよ!!」
悩んでいると、由季がマイクを渡してくれた。ニコッと笑ったので、察してくれたんだと思う。
「うん。」
··········ん? 流れですんなりマイクを受け取ってしまったけど、私、歌うのか。
どうしよう、カラオケなんて由季とか、お母さんとしか来たことないのに。
みんなの視線が集まってちょっと気後れする。
せっかくだし、みんなの知ってそうなのを歌おうかな。
「楓、なにいれるー?」
「んー、何がいいかな。KWiiiとかってある?」
「え!甘味さんアイドル歌うの?」
「あ、でも有名なのだけ··········」
「へぇ〜、甘味さんのアイドル·····ありだな!」
「何がだよ!」
「楓は有名なのならオールマイティだよ!みんな聞いて驚け〜?」
「は?」
「えぇ?」
何だかみんな黙ってしまった。
··········私、声変かな、もしかして音痴? まぁいっか別に。1曲歌ってしまえば、
「甘味さん·····、歌うますぎだろ?」
「いや、まじすげー!声可愛いし!やば!」
「楓ちゃんすごーい!KWiiiだ!」
「ふっふっふ!でしょ〜?楓ほんとに歌上手いんだよ!」
·····なんか、喜んでもらえているみたい。楓もちょっと嬉しくなる。
声もなんだかノッて、とても楽しくなってきた。みんながよく分からない合いの手も入れてくれる。
そして、みんなアイドルのポースを真似していた。
私も少し気分が良くなって、歌いながらみんなと同じポースをとった時、カラオケルームのドアが開いた。
「あ、」
「あ、」
楓はそのポーズのまま固まった。
店員の人が入ってきたのだ。赤髪の。
「フライドポテトお持ちしました。」
「ありがとうございまーす!」
「甘味さん気にしないで歌ってよ!もっと聞きたい!」
「あ、うん。」
楓はまた歌い始めた。
声はさっきよりぎこちなくなる。
··········緋音さんだ。
カラオケでも働いているなんて、初めて知った。多忙だなぁ·····。
けど·········、こんな間が悪い。
調子に乗ってポーズした所を見られるなんて·····。
楓は顔を真っ赤にしていた。
はぁ、今度会った時になんて言われるか·····。しかも、部屋を出ていく時に目が合って笑われた。
ついてない。
「ねぇ、甘味さん次これ一緒に歌おう?」
「え、知ってるかな。」
「·····ふぅ。」
ようやく解放された。楓は飲み物を取りに来ていた。
あの後、何曲もみんながリクエストしてきて、ずっと歌いっぱなしだったのだ。
··········オレンジ、あった。由季はメロンソーダだよね。
機械音がして、オレンジの液体と水が一緒に出てくる。たまに飲むこういうオレンジジュースは美味しい。
あ、先に氷入れれば良かったな。
「おい。」
「え、」
横を見ると、トレンチを持った緋音さんが立っていた。
「うわっ··········緋音さん·····」
「ほら、ちょっとそこどけ。」
「え、はい。」
緋音さんは少なくなったストローと、その他のものを補充していた。
いつもどれくらい働いているのだろう。一昨日はもしかしたら、貴重な休みだったりしたのかな·····。
「お前さ、·····これ。」
「え、···············っ! 最悪です。」
緋音さんがさっきのアイドルのポースを真似してきた。すごく意地悪い顔で笑っている。
「はっはは!俺笑いこらえるの必死だったんだけど!」
「それはすみませんね!もう、見られるなんて思いませんし、」
「ははっ!まぁ、いいんじゃねぇーの? てか、お前歌上手かったな。」
「ありがとうございます。」
緋音さんはすごく楽しそうだ。··········恥ずかしい。
「アイドル聞くとか意外だったけど。」
「そうですか? 音楽なら割となんでも聞くんです。」
「へぇ。」
楓はメロンソーダを入れ終わった。
緋音さんはドリンクスペースでの用事が終わったようだが、まだ戻る様子もなく、楓と話をしている。
サボり? 休憩? ··········でも緋音さんは働き者だし、あんまりそんな事しないはず。
「お前さ、こういうとこ来るんだな。··········、なんかちょっと安心したっつーか、まぁ高校生活大事にしろよ。」
「あ、はい。」
緋音さんは楓の頭にぽんっと手を乗せて、戻って行ってしまった。
·····安心した、か。確かに私はお店のことばっかり、かもしれないけど、高校生活もそれなりに·····。
心配、かけているのかな。
楓はしばらく緋音が行った方向を見ていた。
「楓ー?」
楓がぼけっとしていると、ドリンクバーエリアに由季がやってきた。
心配してきてくれたのかもしれない。
「由季? ごめんメロンソーダこれ、遅かったよね。」
「楓、今の。さっき部屋に来た店員さんだよね? 誰! 知り合い?」
「お店で働いてくれてる人だよ。由季は月曜日来たことないし、知らないか。」
「ふふふ。ねぇ!頭ポンって!仲良いのー?」
「あぁ、由季が考えてるような感じではないよ·····」
「んーそっかぁ、残念ーー。でも!これからってこともあるよね!いい人そうだったし!」
「ないよ。··········あ、飲み物持って行って貰ってもいい? ちょっと私トイレに行きたい。」
「りょーかい! じゃあ先戻ってるね! 楓が帰ってこないから、今池田がアイドル歌わされてんの。なるべく早く!」
「え、わ、わかった。」
そう言って飲み物を持って行ってもらった。
「なんかやっぱり迷路みたいだなぁ。」
トイレにたどり着くのも少し大変だったし·····。
楓は部屋番号を見ながらうろついていた。
慣れてないからカラオケの場所はわかりにくい。早く戻らなきゃいけないのに、
「〜〜♪〜〜ドッキドキ!りっずむに合わせて♪〜〜私もあなたの〜」
ノリノリだなぁ、アニソンか。
カラオケって結構音漏れするよね。
それにしても大きい声。というかめちゃくちゃ楽しそうに歌って··········
楓は声の主のいる部屋の前を通り過ぎた。
··········え?
ちょっとまってちょっとまって。
楓は後ろ足で4歩戻る。
そしてもう一度前を通って、決してガン見はしないように部屋をちらっと覗いた。
··········由佐くんだ。