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うさぎと不思議くんは役に立ちますか?

楓は3人に家に上がってもらった。


「どうぞ。」

「おっじゃまっしまーす!わ〜い!」

「おじゃまします。」

「お前ら、初めてくる家にそんな勢いよく入るなよ。」

「え〜?別に初めてじゃないよ?」

「は?」

「うん。俺も。」

「は? ··········、なんだよ、昨日まで来たこと無かったの俺だけかよ。」

「緋音さん、さびしいの〜?」

「う、うるせぇな!」


今日は緋音さんに勉強を教えてもらう予定だったのだが、仕事終わりの奏音さんと、歩夢さんもうちに来ることになった。


奏音さんは、仕事終わりというのにこの元気さである。

歩夢さんも、緋音さんと同じ頭のいい大学に行っていて、勉強を教えてくれると言うのだが··········。


「すぅ··········」

「おい!人の家でで早速寝てんじゃねぇよ!」


楓の家のソファで早速寝始めた歩夢さんを、緋音さんがバシッと叩いた。


「わ、わーー!いいですいいです、寝かしてあげてください、」

「でもさすがに非常識だ。」

「ま、まぁ、今日はお店忙しかったので、きっと疲れてると思いますし·····」

「はぁ、それはお前も一緒だろ······」

「え?」

「いや、ほら、あいつはあんなに元気そうだぞ。」


緋音さんの視線の先を見ると、奏音さんがもう冷蔵庫を開けて中を見ていた。

楽しそうに鼻歌を歌いながら食材を見ている。


··········そういえば、冷蔵庫の中って綺麗にしてたっけ? ちゃんと食材入ってる··········?






「あ、ごめん!勝手に見ちゃってた!楓ちゃん、冷蔵庫何使っていい〜?」

「全然、何を使っていただいても大丈夫です。前作っていただいたこともありますし、調理器具の位置とかも全然変わってませんので·····、」

「作ったこともあんのかよ·····。」

「千絵さんお料理苦手だから、僕がたまにお呼ばれしてたんだよね〜!」

「ま、まぁお母さんはそうですね··········」


「楓ちゃんは上手なんだよね〜、また食べたいな!」

「あ、是非!今日は作って頂いちゃってますが、またご飯を食べにいらしてください。一人で食べるのも寂しいので。」

「ほんとう?やったぁ〜」

「おい!勉強するんじゃねぇの?」

「はい、お願いします。」


緋音さんがどかっとテーブルの椅子に座った。


「··········、なんか怒ってますか?」

「お、おこってねぇよ。」

「そ、そうですか。」


ふふふ。と奏音さんが笑って、歩夢さんすやすや眠っている。






楓は数学のワークを持ってきて机に座った。

ワークとノートを目の前に開くと、楓のノートが緋音さんの方に連れていかれた。


「··········前、教えてやったところは出来てるな。」

「はい。教えていただいたので。」

「ふーん、苦手だとか言ってたけど、案外やるもんだな、」

「え、褒めてくれました?本当に?」

「別にいいだろ·····。また分からないところあったら言えよ。」


「あ、もうワーク解き終わってて、分からない所まとめてあるんです。こことここと、·····」

「あぁ、見事に応用問題だな。··········ここは、」


楓は少し部屋が熱い気がした。まだまだ季節は涼しいはずなのだが··········。


緋音さんは教えてくれる時、距離が少し、近くなる。

なんだかそのせいで、居心地が悪いというかなんというか、

·····手の置き場所とかも気になるし、んーーー、なんだかな··········。


「分かったか?」

「え?··········あ、えっとー、えと、もう1回··········」

「あ?」

「いや、すみませんなんでもないです。」

「はぁー、ちゃんと聞いとけよ。」


それから何問か教えてもらった。

緋音さんの教え方はわかりやすいので、本当にありがたい。


それに、キッチンの音。こんな風に、誰かが料理をしている音を聞きながら勉強するのは久しぶりだ。

いつもは、1人で頭を抱えながら参考書と戦っているけれど、今日はスムーズで、順調順調!


·····そんな時、楓と緋音さんの間に、ずいっ、と青色の冊子が入ってきた。


「あ、歩夢さんおはようございます。」

「おはよう。··········緋音、近い。離れて。」


歩夢さんが台本と思われる冊子を、前に突き出して立っている。

そのまま、冊子で緋音さんの顔を押しのけた。


「やめろ!なんだよ、お前さっきまで寝てたろ、」

「うん。けど、そろそろ交代。」

「あと1問なんだよ!!黙って待っとけ!」

「あ、えっと、」


急に騒がしくなってしまった。

やっぱりこのふたりは仲が悪いのか··········、どうしよう。


「じゃあもっと離れて。これくらい。」

「この距離じゃ教えらんねぇだろ!別にさっきも近くなかったし!」

「近かった。」

「近くない!」


··········うわぁ、どうでもいい。


目の前で口論されているが、正直楓にはどうでも良く、それよりもあと1問だけなので教えて欲しかった。わからないところが分かったら、1人でもやり込める。


「あの、ちょっと·····」

「はい!ど〜ん!!かのん特製オムライス〜!」


2人が口論していると、奏音さんがテーブルに、ドンッと、わざと音を立ててオムライスのお皿を置いた。


うさぎの形だ··········、かわいい。


「あ?オムライス?」

「ほらみて!うさちゃんの形にしたんだよ〜、玉子のおふとんかぶってて可愛いでしょ〜?チキンサラダもあるんだ〜」

「すごいです!私こんなの作ったことない、どうやったんですか?」

「·····それはひみつ。」


奏音さんが口に人差し指をあてて見せた。

残念·····、こんなに可愛い盛り付けなら、お店の参考にしようと思ったのに。


「オムライス·····。奏音、ありがとう。」

「うん〜、だからもう喧嘩しないで〜。ほら、楓ちゃんもあと1問なんでしょ? 僕、食器準備するから教えてもらったら?」


··········奏音さん、なんていい人なのだろう。


その時奏音さんは、楓にではなく、緋音さんににっこり笑いかけた。


「·····お、おう。早くやるぞ。」

「お願いします。」






それから1問教えて貰って、無事数学が終わり、みんなでご飯を食べた。


奏音さんの料理はやはり絶品で、前食べた時よりも美味しい気がした。チキンサラダも、一体どんな味付けをしたのか、本当に美味しい。


さっきまでピリピリしていた緋音さんと歩夢さんも美味しいみたいで、すっかりご機嫌である。


「歩夢おいしい?」

「うん。」


このとおり、幸せそうな笑顔だ。

気さくで料理もできるなんて、多くの人が奏音さんのことを放っておかないだろうな、と、友達の由季がいつも考えているようなことを、珍しく思いついてしまった。






『ごちそうさまでした!』

「奏音さん本当にありがとうございました。」

「いえいえ!また言ってくれたら作るよ〜」

「え、いいんですか?」

「うん、もちろん!千絵さん外国行ってから、楓ちゃん、1人だしその、のこのこ作りに来てもいいものなのかなと、思ってたんだけど、」

「そんな·····、嬉しいです。またいらしてください。私もご飯作りますので。」

「ありがとう。そうだね、来ても大丈夫そうだし、もっと早く、前みたいに来ればよかったかな〜」


奏音さんが食器を片付けながらそういう。


前みたいに··········。


お父さんが死んで、お母さんがまだこの家にいた時、バイト終わりの奏音さんがたまに料理も手伝ってくれて、3人で晩御飯を食べた。


お母さんも料理を教えてもらってたけど、とんでもないものが出来てたっけ。


「私お皿洗い·····」

「そんなこと僕がやっちゃうから!座ってて〜。あ、歩夢は台拭き!お願い!」

「ん、わかった。」






その後、歩夢さんに英作文のやり方を教えてもらった。


「楓は考えすぎちゃうから。これ、使っておく、ね、点数高いイディオムがあってね。··········あとは言いたいこと、自分の使える単語で組み立てればいいよ。」


教えてもらった順を追って作文したが、自分でやるより驚くほどはやく書くことが出来た。


お、教える人って大事なのかもしれない··········。

今日色々教えてもらって、そんなことを思った。


あと、歩夢さんは何かを教える時、「·····ね。」って言うらしい。それに、当たり前だが、いつもより口数が多い。


「すごいです、私こんなに上手くスムーズに書けたの初めてです。歩夢さん教え方上手いですね。」

「·····楓の理解がいいだけ。··········試験、できそう?」

「はい、頑張れそうです。この感じで練習します。」

「·····そう。」


心做しか、歩夢さんのほうが嬉しそうだ。


「わ〜、すごいね〜、ぼくこんな難しそうなの出来ないよ〜。」

「歩夢さんのお陰で、はやく書けるようになりました!」

「へぇ〜!歩夢すごいね!」

「うん··········俺すごい。」


緋音さんはソファーで台本を読んでいた。


「緋音、セリフ、覚えた?今度、練習の前、合わせる?」

「あぁ、そうだな。今度やるか。」


一緒に演劇、やるのかな。··········仲が悪いけど、やっぱり、仲が悪くない·····みたいだ。

楓が2人をぼーっと見ていると、奏音さんが「真剣だね。」と、微笑んだ。






「今日はありがとうございました。本当に助かりました。奏音さんの料理も美味しかったです。」


勉強も、教えて欲しかった所を一通り教えてもらい、もう夜は遅いので、帰ることになった。

バイトもしてもらって、こんな事までお世話になって、本当にいい人達だなと思う。


「いえいえ〜」

「また、呼んで。」

「はい!ありがとうございます。」

「まぁ、なんかあったら、また言えよな。」

「はい。」

「·····ねぇ、台本の前半の、とこ、」

「あぁ、あそこな、」


緋音さんと歩夢さんが出ていった。


「あ、楓ちゃん。」

「はい。」

「前に僕があげたやつ、やってみたりした?」

「あ、あぁ、えっと··········。めちゃくちゃハマってたりします··········。」

「えぇ!本当?嬉しいなぁ〜!僕もやってるから、今度話でもしよう?」

「は、はい。」

「えへへ!じゃあね!おやすみ〜」


奏音さんが手を振って帰って、楓は家のドアを閉めた。

空間が広くなる。自分のスリッパの音も。


楓はリビングの教材を持って、自分の部屋に行き、ふと、隣の部屋を見た。


··········勉強、しなきゃ。さっき教えてもらったの身につけよう。






終業のチャイムが鳴った。


「たーー終わったーー、なーモック行かね?」

「モック?今日気分じゃないー」


実力テストが無事終わって、みんなは開放された気分になった。

今日はテストしかないので、学校が早く終わり、みんなは遊びに行くようだ。


··········それにしても、教えて貰えたおかげで、実力テストは何とか形になった。自信が無いのは数学の最後の問題と、あとは英語の問3の·····


「かーえで!ね!今日店休みでしょー?木曜だし!カラオケ!行かない?」

「え、休みだけどちょっと買い出しが·····」

「えー?そっかー。買い出しってそんな時間かかるの?」

「んー、1時間くらい、と、もうちょっと?」

「ふーん。··········はい!楓も行きマース!」

「えぇ!?聞いてた!?私の話、」


「お、甘味さんも来んの?珍し!」

「はよ行こーぜー」


ど、どうしよう。·····行ったとして、買い出しは、何時くらいから行けるのかな、えっと··········。


そもそもカラオケとかあんまり行ったことないのにな。


「ほら!楓!!行こっ!」

「えぇ〜、」


由季にはいつも振り回されてばっかりだ。でもたまには、カラオケなんてのも楽しい、かな。

·····由季となら。


暑く、空気が軽くなってきた春。色々なものに巻き込まれて、今年もきっと、あっという間に過ぎていく。

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