誰にも言えなかった事が有る。
誰にも言えなかった事が有る。勿論、貴方が悪いわけではないし、私が悪いわけでも無い。ただ悪夢の様な忘れたい出来事があっただけなのだ。
嘘を吐いていた。ソレが自分自身を騙す為の嘘なのか、ソレとも貴方を巻き込まない為の嘘なのか…。私にも解らなかった。でも何方にしても、偽りを創ってしまった事には変わりないのであろう。
真実を偽ってしまった。誰も傷付けたくなかったし、私も傷付きたくなかったからだ。だから嘘を吐いた。そんな私を知らずに、貴方は云う。
「嘘を吐く人間が理解出来ない。仕事柄、そういった人間を数多く見てきた。偽証は罪だ。到底、許されるべきでは無い。」
貴方が云う嘘偽り無い言葉。道徳的にも正しい言葉。その言葉が、私を責め立てて、追い込んでいく。だとしたら私は嘘を吐いた罪人であるのだろう。
嘘を1つ吐いた。嘘を隠す為に、嘘を重ねた。嘘を吐く度に、私は私の首を締めてしまう。嘘を付かなければ幸福になれたのだろうか…。違う。嘘を吐いたから今の幸せがあるのだろう。
幸福と不幸は、皆に平等に降り注ぐのだ。と誰かが云っていた。人生は幸福と不幸のバランスで成り立っているのだと…。本当にそうなのだろうか…。ソレは個人ではなく世界単位での話なのではないか。この世界には一定の幸福と不幸が存在し、幸福に満ちる人間もいれば、不幸に見舞われる人間もいる。と仮定した方が納得がいく。
嘘。口から出る虚しい言葉。私は嘘を吐いた。嘘を隠す為に、嘘を重ねた。私は私自身を騙し、貴方をも騙している。私は罪人である。ソレも嘘なのだろうか…。
正義の天秤より抜粋。




