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標本①


 私の人生は何時(いつ)からか狂ってしまったのだと思う。そうでなければ、眼前に(たたず)む、人ならざるモノには出逢わなかった筈だ。


 「貴方の伴侶…。あの人には、随分とお世話になりましたので、贈り物をしようと思うのですよ。」


 私の体躯は身動き出来ない様、インシュロックで椅子に固定されている。右手、左手、右足、左足。そして…首。そして首には更に別の厚さのあるインシュロックが一回りしている様だった。


 私は私の姿を鏡越しに観察している。そして私の後ろから、得体の知れない人物が私を鏡越しに視ているのだ。


 「年老いた犬の死因は本当に老衰だったのでしょうか?」

 その人物は唐突に、そう訊いた。


 私には、その問いの意味が解らない。

 そんな私に目もくれずにソレは話を続けていく。


 「まぁ。あの人の事ですから、色々と画策していたみたいですね。けれども、あの人は忙しそうだったので、代わりに同じ様に叔父に毒物を与えてみました。福寿草とトリカブト。そういえば貴方にも私から贈り物をしたのですが…。気に入ってくれましたか?」


 ソレは再び意味の解らない言葉を紡ぐ。私は言葉を失い、ソレを視ている。


 「手間隙掛けたので、気に入ってもらえていたのなら嬉しいのですが…。あの蛞蝓(なめくじ)。何て言いましたっけ?彼の名前…。ほら、あの…。広東住血線虫症の彼…。」


 私はソコで(ようや)く理解し始めた。少し前、私の部下である杉渕(すぎぶち)は精神障害を患った。蛞蝓を大量に食べ、広東住血線虫症になったと聞かされた。杉渕は重度の好酸球性髄膜脳炎になり脳機能に甚大なる損傷を負い、普通の生活をする事も出来ない状態になっている。


 「杉渕に何をした?」


 「ただ御食事に誘っただけですよ。蛞蝓のフルコースでしたけどね。勿論、私はそんなモノを食べはしないですけど…。」

 ソレは、嬉しそうに嗤い。

 「誰も彼もが、勘違いをしているみたいなので…。そろそろ、真実を明かさないと…。」

 またしても意味不明の言葉を告げた。



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