空白の記憶 肆
「そんなの食べるわけないじゃないですか…。」
そうだ。そんなモノ食べるわけがない。生きたままの蛞蝓を食べるなんて想像すらした事も無い。
【あの粘液に塗れたトロトロとしたモノを口に含んだのなら】
そんな言葉が頭を過ぎった。厭だ。気持ち悪い…。
ネバネバとした液体が口の中に広がる…。そんな感覚に陥る。
噛んだのならどうなる?咀嚼する度に、あの粘液が増殖するのだろうか…。
少し楽にはなったものの頭痛がする。
ズキズキと眼の奥から痛みが広がる…。
刹那、脳裏に、とある映像が過ぎった気がした。
しかし何も思い出せない。
「どうなされました?」
女医の声が遠くから聞こえる。
「大丈夫ですか?杉渕さん。」
意識が曖昧になる。
「あぁ…。はい…。大丈夫です。」
「すみません。無理させてしまって…。でも聞いておきたい事なのです。何故なら、貴方が感染した場所は、広東住血線虫が感染している生物が生息している事になるからです。国内での症例は沖縄を中心としているのですが…。都内での症例は珍しい…。」
女医は何やら考えー。
「心当たりはないのですか?記憶にないですか?」
と続けた。
「申し訳ないです。記憶には…。」
そこで僕は言葉を止めー。
「あっ。おかしな話なんですが…。2週間程前、記憶には無い空白の時間があります…。5時間程の記憶が全くと言って良い程に抜け落ちてます…。それって何か関係ありますか?」
と続ける。
そうだ。
僕には空白の記憶がある。
でも思い出してはいけない気がする。




