空白の記憶 参
目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。
辺りを見回す。身体からは管が数箇所生えている。
僕が起きた事で周りが騒がしくなった。
そうして漸く…。
朧気な意識でこの場所が病院である事に気付いたのだった。
直ぐ様、精密検査が始まり…。
その後、医者から説明があった…。
その医者は女医だった。
「大変でしたね。私は二階堂マリアと言います。此処は月ケ丘総合病院です。貴方が意識を失い倒れていた処を上司の方が救急へ通報して下さったようですね。では…。説明に入らさせてもらいます。」
そのマリアと名乗った女性は、異常な迄に美しかった。化粧はしていない様なのだが、きめ細かい白い肌、その肌の艶とハリは艶かしい。白いと表現はしているものの、生気が抜けた色なのではなく、それは絹の様に光沢を放っている様にも見える。色の抜けた栗色の髪は、動きに合わせてサラサラと空間を舞っている。瞳の色は鮮やかな水色で、見るものを吸い寄せる様な淡い色。そしてー。服の上からでも分かる完璧なプロポーション。その女神の様な医師は言葉を続ける。
「検査の結果…。貴方は広東住血線虫症である事が判明しました。」
「何ですか…。それ…。」
僕には聞き覚えのないものだった。
「簡単に説明すると…。貴方は蟲に寄生された状態です。」
「…。」
想像すらしてなかった状況に…。
口から言葉は出なかった。
「最近、国外で旅行されましたか?」
「いえ…。してません。」
「国内で旅行されましたか?」
「いえ…。してません。」
「最近、生物を食べられましたか?」
「いえ…。生物は生理的に無理なので食べません。」
「そうですか…。サラダは好きですか?」
「いえ…。と言うか質問の意味が解らないのですが…。」
女医は、少し沈黙をし…。
そして言葉を紡いだ。
「ソレなら率直にお聞きしますね…。生きた状態の蛞蝓を食べましたか?」
病室の外は曇りだ。
窓の外はジメジメとした空気が支配している。
その窓の片隅には数匹の蛞蝓が這っていた。
僕には空白の記憶がある。
僕は何をしていたのだろうか…。




