空白の記憶 弐
6月6日(晴れ)
朝起きると倦怠感が凄い。今日も会社を休む事にした。頭痛は更に酷くなり、嘔吐を繰り返している。ろくに食べてもいないものだから、サラサラとした胃液だけが口から溢れる。トロトロとしていないだけましか…。全身が傷む。動くのも億劫だからベッドから余り動けない。考えようともするのだけれど、思考が纏まらない。記憶に無い空白の時間に何かあった筈だ。けれども思い出せない。もどかしい…。
6月7日 (曇り)
カーテンの隙間から射し込む太陽の光で目が覚めた。と思っていた。けれど、窓から見上げると外は曇りだった。異様な迄の眩しさを感じている。目がチカチカするとは、この事なのだろう。頭痛もする。嘔吐もある。身体がダルく、全身が傷む。だから今日も会社を休んだ。僕の身体に何があったのだろう。早く風邪が治りますように…。
6月8日 (曇り)
手足が痺れている気がする。会社へ休みの連絡をした時、呂律が回らなくなっていた。上司は心配してくれているらしく、今日の夜に様子を見に来てくれるとの事だ。視界がチカチカとしている。眩しくて眼を細めてしまう。頭痛と嘔吐。微熱。倦怠感。全身の痛み。日に日に酷くなっている気がする。視界が歪む。視界に映る全てが2重に見えている。僕はどうなってしまうのだろうか?上司から連絡があった。会社でトラブルがあったらしく、明日の夕方に寄ってくれるとの事だった。四肢が麻痺してきた。顔も強ばってきている。
怖い。僕が僕でなくなる…そんな気がする…。
助けて…。
6月9日 (雨)
ダメだ…。視界が悪く世界が反転している。
頭痛と吐き気が絶え間なく続く。力が入らない…。
身体が麻痺している。四肢と顔面。
水を飲みたい。水を飲みたい。水を飲みたい。
玄関脇にストックしてあるペットボトルの水を取りに行きたい。
でも立って歩く事が儘ならない。
仕方無く這いずりながら玄関脇へと向かう。
僕が這いずった箇所が汗でテカテカと濡れている…。
イヤだ。イヤだ。イヤだ。
ベッドへ戻り、この事を記している。
僕は僕の事を記している…。
イヤだ。いやだ…。いやだ…。
【この文章は全てひらがなで、子供が書きなぐった様な筆跡となっていた。】
僕には空白の記憶がある。
もうそんな事、考えている余裕はない…。




