人魚の肉
私は自殺をした。何もかもに嫌気が差し、入水自殺をしたのだ。自殺の名所である崖から飛び降り、死んでいる筈だった。しかし、私は何故か生きていたのだった。
薄暗い洞穴の様な場所で目が覚めたのだが、全身を強く打ち付けた所為か、動く事が出来なくなっていた。しかし長い時間冷たい海水に浸っていた為に、肉体の感覚は麻痺をしている。だからか痛みは、そんなに感じる事は無かったのだ。
寂しい。侘しい。そんな感覚が肉体を包み込む。
どれ程の時間が経過したのだろう。動けない肉体にも空腹感は襲ってくる。腹は鳴り、喉は乾く。【死ぬ】事に恐怖が芽生えた。
皮肉なモノだ。死を願って入水した私は…。現在は、生きる事を強く願っている。
寂しい。侘しい。苦しい。悲しい。
【生きたい】心の底から、そう願った。
その願いが神様に届いたのか…。
私の眼前に2体の天使が舞い降りてきたのだった。
同じ顔。同じ背丈。髪型と服装、そして表情だけが違う。
白い服を着た天使は笑顔で言葉を歌った。
「あれれ?どうしたの?♭何でこんな処に居るの??♭」
黒い服を着た天使は真顔で言葉を置いた。
「ホントだ。人が倒れてる。」
「ねぇねぇ~。冬馬ぁ♪誰かいるよ~♪」
白い服を着た天使は後ろに振り向くと、大袈裟に両手を降り、大きな声で言葉を歌う。
「どうしたんだ?」
冬馬と呼ばれた影が少しずつ人の形を成した。其処には、完成された美しい美術品が存在していた。そして…。その美術品の傍らには女神の様な美しい女性が佇んでいる。
その女神は私に近寄り、身体に触れ、言葉を詠んだ。
「全身打撲と低体温症。早く対処しないと危険ね…。」
「なるほど…。」
美術品は顎に右手を添えると何やら思考をしている。
そして…。微笑み。生きたいですか?と私に言葉を放った。
意識朦朧としていた私は、その言葉に違和感を抱く事は無かった。現在思えば不可思議な言葉だと思う。しかし、その時の私には、その様な考えは浮かばなかったのだ。
そして。私は、ゆっくりと瞬きをして首を微かに縦に振る。
ソレが間違いだったのだ。
美術品は手にしていたクーラーボックスから。何やら取り出した。鼻腔を刺激する食物の匂い。私の口腔は、唾液が広がる感覚に包まれる。
「コレは干し肉なのですが…。」
そう言って、手にしたモノを私の前に差し出し…。
「少し変わった干し肉なのですよ…。」
と続けた。
「変わった干し肉?」
私には思考する迄の力は無い。
すると…。
完成された美術品は…。
「えぇ。食べると不老不死になる…。人魚の肉です。」
と…
そう言った。
リビングデッドより。




