意思を伝える
「ねぇ。」
神木は不意に吐息の様な言葉を放った。
「んあ?」
天乃はそれに答える様に言葉を返す。
「人はさぁ。言葉で意思を伝えるでしょ?」
「うむ。そうだなぁー。言葉は偉大だな。」
天乃は両の手を腰に当て、胸を張りー
音にしても文字にしても意思を伝えられる手段の1つだからな。
と続ける。
「それならさ。例えば…。」
神木は辺りを見渡す。そして空を見上げてた。
「鴉はどうなんだろうね?」
と質問をする。
「んあ?鴉??」
天乃は神木の視線の先に自らの視線を合わせた。
視線の先には幾つかの影があった。鴉がー
カァー。カァー。カァー。と鳴き、夜の空を舞っている。
「かっけぇー。」
天乃は瞳をキラキラと輝かせながら言葉を紡ぐ。
「鴉は世界各地で太陽の使いや神の使いという神話や伝承が語られているんだよ。日本だとよく言われてるのが、古来から鴉は霊魂を運ぶ霊鳥とされていたね。聞いたことないか?「烏鳴きが悪いと人が死ぬ」って、鴉が騒いだり異様な声で鳴くとー。」
ーその周辺で死人が出るって…。
その時。鴉が鳴いた。
天乃は右耳に右手をあて声を確認した。そしてー
その後、言葉を置いていった。
「鴉は知能が高いんだよ。鳴き声やその回数で意思を伝えているらしいな。」
天乃は鴉の鳴き声を真似している。でも可愛らしい声しか、その口からは出ていない。そんな天乃を見て神木は少し吹き出してしまう。
「まぁ。」
天乃は小さく咳払いをしてー
「鴉の鳴き声が研究されていてね。例えばカァー。カァー。はノンビリしている時らしいな。」
また、天乃は真似をする。
「カッ。カッ。カッ。と短く鳴くと、注意喚起や警戒を意味するらしい。」
そして、また鳴き声を真似た。
それからー。
「ガァ。ガァ。と鳴くのは…。」
其処で天乃はー
言葉を止めた。
少し離れた場所にある時計塔の上空を1羽の鴉が旋回してー
ガァ。ガァ。と叫び声をあげていた。
それを見た天乃はー
「遠回りしよう。」
と方向転換をして道を変えて歩き出した。
「どうしたの?」
神木は天乃に訊く。
するとー
天乃は言葉を返した。
「ガァ。ガァ。と鳴くのは…。警告を無視したモノへの臨戦態勢を示しているらしい…。どちらにしろ、あの時計塔の辺りで何かしら良くない事が起こっているのかも知れないね。鴉が教えてくれてるみたいだし。」
そしてまた、天乃はー
ガァ。ガァ。と鴉の真似をする。
その声が、やっぱり可愛らしい声だったからー
神木は声を上げて笑った。




