迷宮で産まれた悪夢【彷徨うミノタウロス】
「どうしても、その人に逢いたいのです。」
柊冬馬は頭を下げた。
心の底から込み上げた渇望は声になった。
「やめた方が良い…。」
岸田孝三は、優しく諭す。
「何故です?」
「君の能力は認めてるよ。心理学には色々と分野がある。でも何で、彼女に拘るのだ?犯罪心理を学びたいという君の勤勉さも評価してるが…。」
岸田は深呼吸しー
「彼女は、人の手に負えるとは、思えない。」
と言葉を並べた。
「手に負えない?」
「君はよく知ってるはずだ。催眠。洗脳。人の脳のシステムに干渉する非人道的な技術。彼女は、其れを巧みに操る。」
「催眠、洗脳。でも其れはまだ、完全には解明されていない技術です。」
「だからだよ。でも、何故か、彼女は其の技術を完全に操っている。人の手に負えないとは、そういうことだ。」
柊はー
思考している。
【催眠。洗脳。その、類いの技術を完全な形で人に使用したのなら…。】
柊の身体は、恐怖で満たされた。
「彼女は特殊なんだ。彼女は幼少の頃、交通事故に遭った。その時の脳に受けた損傷が原因らしいのだが…。」
「それなら尚更、逢いたいと思うのです。その技術が人を助ける技術になり得るのではないですか?」
「闇よりも深いのは人の心だよ。呑み込まれたら抗えない。」
「…。」
ーそれは誰よりも理解している。
それでも…。
「黒澤聖との面談を許して下さい。」
柊は返答を待たず、部屋から退出した。
この先にー
人の心が造りし迷宮があるとは知らずに…。




