告解
「神の赦しを頂きたいのです。」
懺悔室に無機質な声が響いた。
懺悔室とは罪を告白して神の赦しを乞う場所である。
お互いの顔が見えない構造になっている。
「罪を告白して下さい。」
私は、いつもの様に言葉を並べる。
無機質で綺麗な声が耳に届く。
「僕は見てしまったのです。」
漠然とした告白だった。
「何を見てしまわれたのですか?」
「聖職者でありながら、快楽を貪る様に人を弄ぶ貴方を…」
ー 何だと?
本来なら存在しない覗き穴から、相手の顔を探る。
ー なっ…。
眼が合った。
相手側からは知るよしのない覗き穴の筈だ…。
壁を一枚隔てた先にー
青年がいる。
その青年は美しかった。
「脅迫するつもりか?」
私は、聖職者でありながらー
禁忌とされている事を犯している。
人を✕✕✕と云う事を…。
それも己が欲望を満たす為だけに。
【人をーーしーめ、ーしーす。】それが私の欲望だ。
動揺もせずに青年は言葉を発した。
「いいえ…。貴方の犯行を一部始終見て…感動をしたのですよ。」
ー 感動?
「だから貴方を誘いにきたのです。」
ー 誘い?
「僕達と世界を創造しませんか?」
ー 創造だと?
「神になるつもりか?」
湧き上がる喜びを抑制し、美しい青年に問う。
「そんなモノになりたく無いですよ。創りたいですけどね。」
青年は瞬きもせずに返す。
そしてー
「僕は罪深い人間にすぎない。それ以上でもそれ以下でも無い。」
と続けた。
ー ククク。
歓喜に近い声が唇から漏れる。
「何をすれば良い?」
「今まで通りで良いのです。ただ、僕達の仲間になれば安心して欲望を満たす事が出来る。みんな貴方の様に本来の生物に近い人達ですよ。」
青年はフードを被ると下を向いた。
肩まである髪を指先でクルクルと遊んでいる。
「貴方は、先天的に此方の人間ですから…。」
「嫌だ。と云ったらどうする?」
「残念なだけですよ。貴方を殺すのは勿体無い…。」
ー ククククク。
「気に入ったよ。誘いにのろう。」
躰が喜びで震える。
「ありがとうございます。詳細は後日に、別の場所で…。」
「連絡を待ってるよ。」
青年は無機質なまま懺悔室の扉に触れる。
「あっ…。」
青年は艶やかな吐息の後に、振り返り純粋な笑顔を見せ
「神様は、僕を赦してくれますよね?」
と続けた。