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鋏が切り落とした夢
ボタンの掛け違い1つでー
その姿は、歪に歪んで見える。
何気ない日常もー
何かが1つ違っただけでー
とても、歪に歪むのだろうか?
私はー
理容師をしている。
理容師は幼少の頃からの夢だった。
専門学校も無事に卒業して、✕✕区の理容室へと就職した。
毎日ー
私は、ハサミを扱う。
ジョギリ。
ジョギリ。
そう音を立てながらー
髪を切る。
ある日の事だ。
髪を切り、掃除をしているとー
ふとー
髪の塊がー
不気味に思えた。
あんなにも艶々と光を反射していた髪がー
ハサミに切り落とされるのと同時にー
死んでいく。
ジョギリ。
ジョギリ。
とー
色が褪せー
くすんでいく。
艶も。
香りも。
手触りも。
そのどれもがー
死んでいく。
嗚呼ー
生からー
切り落とされるとー
死んでいくのだとー
ふと思ってしまった。
私はー
死骸をー
かき集めー
店の裏のー
ポリバケツへと放る。
不意にー
何かが嗅覚を刺激した。
ポリバケツを覗き込む。
何故かー
其処に【手首】があった。
色は褪せてー
くすんでいる。
私はー
ポリバケツに蓋をした。
「やっぱり、切り放されると死ぬんだな…。」
そう呟いてー
翌日、店を辞めた。




