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勇者リスキル  作者: ラグーン黒波
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【第二節】ヴォルガード王

今回は元の小説では故人や生死不明の人物が登場します。パラレルだとこうした部分も書けていいですね。

 煉瓦通りをジグザグに飛ビ、往来する魔物達に指を差されたり手を振られながラ、店の看板や店頭の商品と文字を知識として蓄えていク。完全には読み解けなくとモ、造形文字の一定法則に住人達の【思考】を照らし合わせればフワッとは理解出るのだヨ。

 例えバ……あの緑の葉が三枚重ねられた看板の薬屋。商品棚の右から赤い瓶の【体力回復ポーション】、青い瓶の【魔力回復ポーション】、緑色の瓶は【解毒ポーション】、こっちの世界じゃ【禁忌】に触れる黄金瓶の【蘇生ポーション】。瓶一本で何でも補える世界とカ、正に医者いらズ。夢のようじゃないカ。本屋は色とりどりの【属性魔術書】、【地図】、北を常に指し示す【コンパス】なんて便利な物も売られていタ。食べ物はこちらと同じ形が多いガ、色味や調理のされ方が全く違っていテ、迂闊に齧って後悔するなんて事態も有り得るネ。

 世界が違えば文化も違ウ。ツイツイ興味深くて目移りしちゃうケド、まずはヴォルガード王。観光はその後からゆっくり見て周ればサ。


「……ムムッ!! 白い城壁に赤い薔薇低木ミッケッ!!」


 荷車を引く四つ足一角獣が何頭ものし歩く大路地の先、もさもさ魔物に教えられたその建物はあっタ。ダガ、城と呼ぶにはあまりにも小さク、隣接する煉瓦工房の建物の方が大きく見えル。眼下の魔物達へ手を振り返しながら門へ近付いて行くト、門の傍に見知った下縁眼鏡に樋爪の足、色黒肌の姿があるじゃないカ。角の形までそっくりそのままとは驚きだネ。


「――おっとぉっ!? 待ってくだせぇっ!? 断り無しに敷地内へ侵入するのは門兵として見過ごせねぇっすよっ!!」


「ホラ、門の上には何もないから開いてるもんだと思ってサ?」


「ワケわかんない屁理屈言ってないで、早くこっちへ戻ってくるっすっ!!」


「ヘーイ」


 門へ寄りかかって考え込んでたようだから無視して行けるとそうだったけド、流石にそこまで緩く無いよネェ。城前の薔薇庭園から引き返シ、門兵の顔の高さまで高度を落とス。訝しげな表情でウチをじろじろと見るト、右手親指で自身の顎を擦りながら尋ねてきタ。


「この辺りじゃ見ない顔っす。【ステ】もごちゃごちゃ、種族も分からない。……何者っすか?」


「ウチは【魔女・ベファーナちゃん】サッ!! 暫くこの国の厄介になるから覚えてネ、【ローグメルク】?」


「へぇっ!? 俺の名前を知ってるんすかっ!? 【ステ】には名前まで入ってない筈っすけど、そういう【スキル】もあるんすねぇっ!?」


「イーヒッヒッヒッ!! 全知全能の【魔女】にわからないことなんてないのだヨッ!!」


「はぁ、【魔術師】や【魔法使い】じゃなくて【魔女】すか。……お嬢さん、こっちの世界の人じゃないっすね?」


 ゆるっとした周囲の空気が張り詰メ、門番の男――【ローグメルク】が目を細めてウチの目を見ル。ナルホド、【思考】から考えるニ、【こちらの世界の住人じゃない来訪が今日ある】ってのは周知してたカ。パチリと彼の目の前で右手指を鳴らシ、左手の中へ彼の眼鏡を移動させル。


「……ほっ!? おっ、俺の眼鏡っ!?」


「マァマァ、落ち着いて耳を傾け給えヨ。ウチは君らの味方デ、もうすぐこの国……イヤ、この世界に危機が訪れることを知らせに来たのサ」


「………………」


 もう一度指を鳴らして取り出した繊維の細かい布デ、彼の眼鏡を拭きながら続けル。


「この世界の神様ハ、ウチの世界の神様ほどじゃないにしても退屈していル。君らが独自文化で勝手に成長し続けたもんだかラ、一つ波乱を起こそうと他所の世界から人間を【勇者】としテ、ここに連れてこようとしてるんダ」


「……それって、何か問題あるんすか? たかが人間一人が増えるくらいで国の危機とかイマイチ実感――」


「――ソウ。実感も出来ない内に君達は悪者へ仕立て上げらレ、何も知らない無知の【勇者】は君達を一人残らず滅ぼすヨ」


「!?」


「魔術が人と魔物が研鑽を重ねて出来上がったものならバ、【魔法】は神々の直接的な加護があって初めて扱えるのサ。君達が詠唱だけでいい【魔法】を扱えないのは【魔物だから】じゃなイ。神が欲しいのは人間の強い【信仰】であッテ、演劇の敵役として君達魔物は存在すル」


「んな……そんな事急に言われても……」


 拭き終えた眼鏡を手渡シ、混乱するローグメルクへ笑いかけタ。


「混乱するのもわかるとモッ!! だからウチは君達の王様に会いたいのサッ!! この話を信じるにしろ信じないにしロ、聴くだけの価値はあるのは保証しよウッ!! 中へ通してくれないかイ?」


***


「――ヴォルガード王様。不肖、ティルレット。お楽しみの最中失礼いたします。許可を」


「? ああ、構わないよ。何かな、ティルレット」


 娯楽室にて、額に一本の小さな角を生やした部下の魔物――【ハンス】とのチェスゲーム中、メイド長である【ティルレット】が静かに隣へ立つ。


「来客にございます。門前で対応したローグメルク曰く、かなり深刻な内容と見受けられました」


「……来てしまったか。嫌な予感ほど良く当たるものだ」


 チェス盤へ伸ばしかけた手を戻し、ソファから立ち上がる。昨晩見た悪夢が、現実となるのも時間の問題か。


「よし、応対の準備を始めよう。ティルレット、君は客人を客間へ案内を。私も正装に着替え、少し遅れて向かう。……すまないね、ハンス。今回は途中退席した私の負けで構わない」


「おおお、お待ちください王よっ!! このような形で初白星を戴いてもこのハンス、誇らしくも嬉しくありませぬっ!! ですが、引き分けという形も納得いきませぬ故、このまま盤上を保持することを提案いたしますっ!!」


 慌てた様子でハンスもソファから立ち上がり、チェス盤を指差す。


「うぅむ、しかしだなぁ。……他の者が娯楽室でチェスを楽しみたい時、不在の私達がたった一つのチェス盤を独占するのは良くない。皆が楽しむ為にこの部屋は作られたのだからね」


「ぬぬぬぬぬ……」


「あと一手にございましょう。失礼」


 ティルレットはそう言うと、私の座っていたソファの後ろから回り込み、チェス盤に乗った【黒のルーク】をハンスの陣地の奥へと運ぶ。……自軍の駒によって妨げられ、逃げ筋が一つしかない【白のキング】の逃げ場が無くなり彼の【詰み】となった。


「えっ……あぁっ!?」


「チェックだ、これで気が済んだろう。ハンス、急ぎ盤と駒を片付け、客人へ出す紅茶と茶菓子の準備を」


「……また、ハンスの負けですか」


「ハンス」


「……はっ、ティルレットメイド長!! 只今っ!! ヴォルガード王っ!! お忙しい中、お手合わせありがとうございましたっ!!」


 自身の負けが分かりしょげた様子のハンスだったが、こちらへ頭を下げるとティルレットの命令通り、手早く盤と駒を木箱へ収め、駆け足で娯楽室を飛び出し厨房へと向かう。


「君は手厳しいな、ティルレット。たかがチェスの一勝、彼へ譲ってもいいじゃないか?」


「不肖も勝負師。彼の心情を汲み取るならば、仕える主の情による一勝ほど、屈辱的な勝利はありませぬ。早々に明確な勝敗をつけ、終わらせることもまた情」


「……そういうものか」


「そういうものにございます」


「私も、まだまだ君達から教わることが多いね。助太刀、感謝するよ」


「恐縮」


 軽く深呼吸。外していた首元のボタン一つを止め直し、襟元を正す。一国を治める王は、民草の期待へ常に応える。先代まで長らく続いていた人間との戦争が終わり、和平が成り立った今、私自身少々気が緩んでいる。娘の【スピカ】が口をきいてくれないのも、緩みきった父を見て呆れているのだろう。ここは一つ、父としての姿を見せるいい機会と捉え、客人の持ち込んだ議題へ取り組もうじゃないか。

ヴォルガード自身の視点で書くのは初めてでしたが、部下とも積極的にコミュニケーションを取る心優しき王です。相手と自分の損得のバランスを取って万人に平等へ接する人なので、国民や隣国の人間達にも好かれています。ただ年頃の娘との距離感が分からないらしく、度々部下へ相談している模様。

ハンスはポラリスでは登場していないキャラクターとなります。小柄の男性で、遊びたい盛りの子供っぽさに手先の器用さ、状況へ合わせて機転が利くなど、戦闘特化の二人よりもサポート寄り。兄貴肌のローグメルクは弟分として、上司のティルレットも冷淡ぽっくありながら気遣う。末っ子勘半端ないですね。

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