僅かな希望
僕は体がどうして急激に小さくなったのか考えた。『原因はウイルスだろう』という結果に辿り着いた。夜中に起きた時の息苦しさといい、妹が感染していた時にかなり近い状態だった。更に、持ってきていた食料を入れた鞄は大きいままだった。身につけているものに大きさの変化がないので、人間以外小さくならないのだろう。一昨日のニュースで聞いた、ウイルスに感染した人が消息を絶っているというのも、感染した人が消えたわけではなく体が縮んでいたと仮定すれば全て辻褄が合う。人がウイルスに感染したら、たった1晩で縮むなど誰も予想がつかないだろう。だからみんな感染者は消えたと思っていたのだ。そう考えているうちに僕はあることに気がついた。それはまだ妹のアリスが生きている可能性が十分にあるということだ。『もしそうだとしたら、僕らの家にまだアリスは居るかもしれない。』そう考えるだけで不思議と元気が湧いてきたのだ。しかし現実はそう甘いものでは無いということにすぐに気付かされた。まず昨日見た小人は2センチ弱だったので僕の身長も約100分の1程度になっていると考えられた。そのことにより、大きかった頃の体で1時間程度かかった道のりを小さい体で歩くとしたら、何倍の時間がかかるかもわからなかった。だがそうこう考えている時間さえ惜しくなった。『とりあえず昨日外に捨てたあの男の人に謝りに行こう。』そう思い僕は落ちていた小さな布を腰に巻きつけ、玄関の方向へ歩いて行った。
玄関にたどり着くまでかなり時間はかかったが、玄関は相変わらず開きっぱなしだったので外に出ることは容易かった。すると、かなり強い鉄の臭いが僕の鼻を貫いた。その臭いの方向に歩くとそこにあったのは、見たこともない量の血溜まりだった。周りには肉片や粉々に折れた骨、飛び散った内臓や眼球など見るに耐えない物ばかりがあった。原型すらとどめていないが、その生物が何かは僕が1番分かっていた。それは人間の死体だ。そして、その人を殺したのは僕だった。昨日外に小人を捨てた時、虫を外に逃がす時と同様に僕は立った状態でその虫のような小人をそっと投げ捨てたのだった。虫は体が硬い殻で覆われていたり、弾力性があったりする為、多少の高さから落としたところで無傷で済む。しかし人間はどうだ?そっと投げたからと言って地上1メートルくらいのところで投げられたとしても、100分の1に縮んだ人からすれば高さ100Mの超高層ビルから何も持たず飛び降りるようなものだ。そんなのひとたまりもないに決まっていた。僕はようやく気がついた。ここでは常識が通用しない。今まで当たり前だと思って考えたこともなかったが、人間がどれだけ非力であるかを目の当たりにした瞬間だった。ここでは人間が1番強い生物だということが通じない。『もしかしたら1番弱いのではないか?』そう考えると原型すらない昨日の男を目の前にして恐怖に怯えた。僕はアリスのところまでたどり着くことさえ出来るかわからなく思えてきた。だが進むしか生きる道はないと思い始めていた。僕は死体を横目に突き進んでいく決心をした。
第1章②を書いていきました。『語彙力がない!』とただそれだけ感じました。もう少し語彙力を鍛えていきたいです。読んだ感想等書いて頂けると元気が出ます。よければ次回作も読んでみてください。
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