恐怖の始まり
僕は悲しさと恐怖の余り涙すら出なかった。たった1人の家族を失い絶望し、ベッドの前で時が止まったかのように動かなくなっていた。噂によると、ウイルス感染拡大防止のためにウイルスに感染した人と接していた人は政府収容所に入れられ、殺されるらしい。僕は1日考えた結果、収容所で殺されるくらいならウイルスに感染して消えてしまいたいと思った。ウイルスに感染する方法は簡単だ。アリスのように、ウイルス感染者の出ている町に行けばいいのだから。僕は一枚写真を手に取った。父と母も写っている唯一無二の4人の写真だ。その写真と少しの食糧をかばんに入れそれ以外全て捨てた。そして僕は静かな夜に家を出た。感染者の出た隣町まで歩いて1時間程度だ。自分の足音以外何も聞こえない、澄んだ星空の下歩き続けた。歩きながら色々なことを想像した。『もしかして感染して消えたら、妹と会えるかもしれない。』そんなことさえ考えていた。都合のいい話だと思うかもしれない。だが、そうしていないと僕の精神を保っていられる自信がなかった。なんとかナートルに着いたが、誰1人として住んでいる気配すらない。空き家ばかりが立ち並んでいるかのようだった。町の人たちがウイルスに感染し消息を絶ったのか、はたまた収容所に捕まったのか僕には想像すらできなかった。僕は空き家を見つけ、そこで感染するまで生活することにした。寝室であろう所で横たわると疲れからすぐにぐっすり眠ってしまった。夜も深くなってきた頃、妙な違和感を首のあたりに感じ、目が覚めた。何か虫が這いずり回っているかのような感覚だった。気持ち悪いと思いその虫を取ってみた。よく目を凝らしてみると、人間のような形をしていた。僕は目を疑った。ここはおとぎ話のようなメルヘンチックな世界ではないのだ。小人が存在するのか?いや、そんなはずはない。しかし。何度見ても人間にしか見えないのだ。大きさは2センチ弱男の人のようだった。息苦しさを若干覚えながらぼんやりとした視界の中で必死にその男を見た。口をパクパクさせているが、何を話しているか聞き取ることすらできない。『ウイルスに感染し、何か悪い夢を見ているに違いない。』そう信じてそのまま男のようなものを外に捨て、深い眠りについた。
起きたのは翌日の朝だった。まだ僕は生きていた。いつも通りの朝がまた始まった。だが、昨日と1つだけ違うことがあった。遠くに見えるのは巨大な壁だった。その巨大な壁で四方を囲まれている。そう、とてつもなく広い空間にいたのだ。上を見上げても青空は見えず、ただはるか上の方に白一色の天井が見えるのだった。何故かは分からないが、不思議と不安や焦燥感は無かった。すごく落ち着いており冷静だった。それもあって自分のいる場所はどこだかすぐにわかった。昨日の記憶にある空き家の寝室のような場所とそっくりだったのだ。寝室がただ巨大になったという言い方が正しいと思いたかったが、そんな訳はない。寝室の記憶と共にある、虫のような小人と出会った記憶。その記憶が全てを物語っていた。部屋が大きくなったのではなく、僕自身が小さくなったのだ。これから想像すらつかない恐怖に追われることなどまだこの時の僕が知ることは無かった。
第1章①を書いていきましたがいかがでしたでしょうか?まだ始まったばかりですが、話が長くなりそうな気はしています。良かったら感想等くださると、やる気に繋がりますのでよろしくお願いします。