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OH!庭番  作者: 唯一
3/10

3.御庭番、推理す

瑠璃と翔のクラスは別である。

それを利用して、翔は瑠璃のクラスが体育の授業を行ってる間に、教室に忍び込み瑠璃に届いた手紙の内容を確認する事にした。

ちなみに、翔自身が仮病を唱えて教室を出ていく事は日常茶飯事であり、担当教師も、もはや諦めており、特に言及される事はない。

尤も、仮病を唱え教室を出て行っても、少ししたら戻ってくる上、翔の成績は悪くないために担任も口煩く注意はしない様だ。

ともかく、翔は瑠璃の教室に侵入し、手慣れた様子で瑠璃の机を探った。

「…これか?」

机の奥に押し込まれるように入れられた手紙を取り出した翔は、今朝瑠璃が下駄箱から出した手紙である事を確認する。

封筒から二つ折りにされた手紙を取り出し、開いて文面を目で追った。


【ルリルリへ

 今日は ぼくたちが恋人になった 月記念日だね

 ぼくのルリルリは毎日変わらず いつでも 可愛いよ

 ぼくたちが 恋人であることを みんなに知られるのは許されないけど

 安心して

 ぼくは いつでも どこでも きみを見守ってるよ

 嬉しいよね? ぼくも嬉しいよ

 いつか きみと 恋人同士らしく デートできたら良いな

 いつか きみと 恋人同士らしく キス したいな

 いつか きみと 恋人同士らしく】


そこまで読んで翔は手紙を閉じた。

中々に濃ゆい手紙の内容に悪寒が走ったからである。

「今回はストーカーか…。それも内部犯かぁ…」

手紙の内容だけでお腹いっぱいになった翔は参った様子で呟く。

念の為、手紙の最後の部分を見たり、封筒に差出人の名前が無いか確認したものの、差出人が誰かは分からない。

しかし、下駄箱に入って居た事から、学校関係者である事は明白だ。

学校とは関係ないストーカーなら、徳川宅に直接手紙が投函されるからだ。

その場合は瑠璃の父親か母親が、翔を呼び出し瑠璃の身辺警護の強化と、事態の解決を命じるので、ストーカーらしい手紙を瑠璃が直接受け取ったのは今回が初めてである。

故に瑠璃の顔色が変わったのだろう。

「さて、探しますか。瑠璃に付き纏う害虫を」

瑠璃に怯えた表情をさせたストーカーを翔は決して許さない。

必ず見つけ出し、今後二度と瑠璃の周りを彷徨かない様にケジメをつける。

そのために翔は動き出す。

御庭番としての能力をフルに活用して、犯人を見つけ出す為に。

翔はまず瑠璃のクラスメイトの顔と名前を思い起こし、怪しげな人物を洗い出す。

瑠璃の下駄箱の位置を把握しており、瑠璃との恋人関係を知られると反感を買いそうな人物。

更に今日と同日に、瑠璃と恋人になったと勘違いしそうな出来事に遭遇した人物。

そこで翔は先月の同日を思い返した。

確か、その日の授業内容は一限に古典、二限に社会、三限に数学、四限は調理実習で、そのまま昼休みだった。

瑠璃が受けた授業内容を振り返りつつ、通常の授業で何かあるとは思えなかった為、四限の調理実習の時に何かがあったと見当をつける。

調理実習の授業において、瑠璃のクラスでは出席番号順や、席の近さからグループを作る。

その日のグループ分けは出席番号順だったはず。

瑠璃は、た行組とグループを作り調理実習に臨んでいた。

それらの情報から翔はまず、た行の苗字を持つクラスメイトに焦点を当て、手紙の差出人を探る事にしたのだった。




まず、調理実習時に一緒のグループになった、た行のクラスメイトを上げよう。

グループは瑠璃を含め5人。

綺麗に、”た”から”と”までの苗字が揃っている。

多田、千ヶ崎、鶴賀、手塚、そして、徳川瑠璃の順だ。

多田、鶴賀、手塚が男子。千ヶ崎は女子だ。

瑠璃と同性である千ヶ崎は、ストーカーの容疑者から外すのが妥当だと思われるが、それは出来ない。

何故なら、中学生の時に瑠璃は教育実習生(女)に「私の妹になって~!」と迫られていた過去があるからだ。

度を越した行動を取りそうになった時点で、翔が対応し事無きを得たが、前例がある以上同性と言えど油断はならない。

翔は、当日の調理実習の様子を瑠璃が身につけていたエプロンに付いている、ボタン型盗聴器で聞いていた。

これも瑠璃を護衛するために必要な事である。

万が一、瑠璃のエプロンを盗まれたりなどした時に、犯人を特定するためにもボタン型の盗聴器が仕掛けられているのだ。

当日の授業の流れを聞いていた翔は、容疑者4名の内の誰が最も瑠璃と恋人になったと勘違いしそうかを検証する。

まず、当日の調理実習では、和食をテーマとして焼き魚と酢豚、味噌汁を作る実習が行われていた。

各班で役割を分担して実習を行っていたのだが、その取り仕切りを瑠璃が自然とこなしていたのだ。

その中で、瑠璃が容疑者たちを勘違いさせる様な行動を取ったかを時系列順に思い出していく。

音声でしか情報を取れていなかったため、これは勘違いするだろう。と言う行動のみ抜粋する。

食材を切り分けるなどをしていた時は、特に何もなかった。

問題は料理が出来上がりつつある時から始まる。

「ー…うーん?こんなものなのかな?…あ。ねぇ、鶴賀くん」

「ん?何?瑠璃」

「味見してくれないかな?私、ちょっと自信なくなっちゃって…」

そう言って、瑠璃は味見皿に酢豚の一部を乗せて、鶴賀に渡したのだろう。

下手をすれば、直前まで瑠璃が使っていた味見皿をそのまま転用していた可能性がある。

その後、鶴賀は慣れた様子で味見しているらしい音声が聞き取れ、美味いとの意見を聞き、瑠璃は安心した様子を感じられるやり取りまで聞こえてきたのだった。

鶴賀とは瑠璃と良く話しているクラスメイトの1人であり、スクールカーストにおいて上位組に位置している。

これは千ヶ崎も同様で、調理中も瑠璃と一緒になって楽しそうに料理していた。

次に、料理が全て出来上がった後の事。

「ー…はい。多田くん。ご飯の量、これくらいで足りるかな?」

「えっ!?あ、は、はいっ。だ、大丈夫です!」

「ちょ、多田~。慌てすぎだって~」

そう言って、千ヶ崎が多田の慌てぶりを見て笑う。

多田は、鶴賀や千ヶ崎と違い、スクールカーストの下位組に当たるクラスメイトだ。

所謂、オタクっぽい男子生徒で、趣味はオンラインゲームだった筈だ。

似た様な友人と一緒に居る所を、瑠璃を監視護衛する傍ら、見たことがある。

多田は気まずそうにしているらしかったが、空かさず瑠璃がフォローに入る。

「急に話しかけちゃって、ごめんね。多田くん。驚かせちゃったよね」

「い、いや…だ、大丈夫、です…」

多田の声色から、照れている様子が伺えたが瑠璃は恐らく気が付いていないだろう。

そして、ご飯がそれぞれに揃った所で、千ヶ崎が瑠璃を呼ぶ。

「はいっ。瑠璃は私の隣ね~。どの男子の隣にも座らせないんだから」

「あははっ。エミったら。私は最初からそのつもりだったのに」

「…やだ~!瑠璃、可愛いぃっ!」

「ちょ、ちょっと~!食べられないじゃないっ!」

以上の会話から、千ヶ崎が瑠璃を猫可愛がりしている情景が浮かんでくる。

その場にいた男子たちは、さぞ居づらかっただろう。

そして食事を終えた、た行グループは食器の片付けに入っていた。

この時間になってくると、翔も昼休みに入っていたので、休みがてら遠くから家庭科室の中の様子を伺っていたのだが、この時、翔は瑠璃が信じられない行動をしていたのを翔は思い出した。

手塚の横で皿を布巾で拭いていた瑠璃は、袖を捲っていなかった手塚の手元を見て声を上げた。

「ー…手塚くんっ!袖、濡れてるよ!?」

「え…?……あ、ホントだ」

手塚は多田や鶴賀たちとはまた少し違うクラスメイトの1人である。

唯我独尊を行く存在で、同級生の友人は極端に少ない。

そんな手塚ならば、瑠璃が幾ら人誑しでも惑わされる事は無いだろう。

…などと思っていたのが懐かしい。

「ちょっと待ってね」

あろう事か、瑠璃は手塚の背後に回り、手塚の両袖を代わりに捲ったのである。

真剣な表情で袖を捲る瑠璃に、手塚の細い目が限界まで開いていたのが印象的だった。

「……はい、これで大丈夫っ」

「う、うん……ありがとう」

そして、案の定照れる様子を見せた手塚と、それに気がつかない瑠璃。

…こうして思い出してみると、瑠璃はつくづく、人を誑かす様な行動を無自覚で行っている。

男女問わずに惑わす術を持つ瑠璃は、然るべくしてストーカー被害に遭っているのでは無いか?と翔は思った。

しかし、だからと言ってストーカーが正当化される事は無い。

一通り思い出した翔だが、その中から最も怪しい人物を割り当てる必要がある。

普段から瑠璃と接している鶴賀や千ヶ崎は、接する機会が多い故に恋情を拗らせる可能性はある。

だが、接する機会が多く無いからこそ、暴走する可能性がある多田と手塚も捨て置く事は出来ない。

…結局の所、瑠璃の無自覚の誑かし行為の弊害により、明確な犯人は特定出来ないらしい。

翔は目頭を押さえて、主人である瑠璃のモテぶりを嘆いた。

もう少し、自分の魅力を自覚して、自制して欲しいのだが…。

などと考える翔だったが、瑠璃に振りかかる危険を次から次へと、解決していってしまっている事も原因の1つだとは気がつかないのであった。


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