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OH!庭番  作者: 唯一
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2.御庭番、行動開始

帰宅して直ぐ、翔は母親から父親が呼んでいる事を聞き、父親が待つ書斎に向かった。

書斎の障子前に片膝を付き、翔は中に居る父親に声を掛ける。

「ただいま帰りました」

「うむ。入れ」

入室の許可を得、翔はすっと障子を開け書斎に入った。

座椅子に座り翔を迎えた父親は神妙な面持ちで口を開く。

「瑠璃お嬢様の今日の様子はどうだった?」

「変わりありません。下着のローテーションもいつも通りです」

「うむ。護衛対象が異性である以上、下着含め、あらゆる事を把握しておく事は必要である。今後も精進せよ」

「分かってます」

双方ともに真面目な顔をして、瑠璃の下着の把握まで容認している会話は異様と言う他ない。

しかし、彼らは至って真面目である。時には下着の変化で瑠璃の心情の変化を察するのである。

「我が家は江戸時代から続く隠密の家系。徳川家の血筋方を主人と仰ぎ、一生に渡って命を賭す事が服部家における、代々の使命である。お前も姉を見習い、今後も瑠璃お嬢様を心身ともに護衛し続ける事を…」

「父上、耳タコです。そう何度も念を押されずとも理解してます。それと、我々も徳川家も分家でしょう?元を物凄ーく辿っていけば本家に通じるってだけじゃないですか」

「ん何を言う!それでも我々が御庭番の血を引く一族であると言う事に変わりはない!そして、お前はその末裔で後継なのだぞ!自覚を持たんか!」

そう言われ父親は手近にあった竹串を翔に向かって投げた。

鋭い切っ先が翔の顔をめがけて飛んでくるのを、翔はなんて事ない顔をして指先で受け流し、取った。

竹串の先にきな粉が付いており、机の上にきな粉まみれの小皿がある事から、直前まできな粉餅か、わらび餅を食べていた事が分かる。

「…父上、夕飯前に間食ですか。また母上に怒られますよ」

「む…。これはオヤツではない。ちょっと黄色い火薬だ!新しい癇癪玉を作っていただけだ。問題ない」

「いや、問題だらけでしょ。許可無しに危険物作ってるのバレたら、捕まりますって」

「何、コネはある。万が一が合っても、何とかなる!お前も瑠璃お嬢様に何かあった時は下手に遠慮するな。瑠璃お嬢様の命を助けるためなら、多少、現代の法に逆らう事でもやれ。私が責任を負う」

「分かってます。…瑠璃の事は必ず護ります」

自らの命を賭けてでも。

その決意は瑠璃の血筋がどうたら、自分の祖先がどうたらだけでは無い。

翔自身が瑠璃を護り抜くと決めているのだ。

そこには友情だの家族愛だの恋情だのの生緩い感情では無く、強い強い忠誠心がある。

例え自分の幸せがそこに無くとも、瑠璃さえ笑顔で居るのなら翔は瑠璃の為に何者をも踏み越えていく覚悟なのだ。




翌日。

翔は登校する瑠璃の姿を徳川宅の近くの家屋の屋根から確認し、途中まで屋根伝いで瑠璃の後を付いていく。

学校が近くなってくると、翔はそっと地面に降り立ち同じ学校に向かう生徒たちに紛れて、後ろから瑠璃を見守るのだ。

これが中学に入ってからの翔の日課である。

小学生までは一緒に登校する事も出来ていたが、中学生となると周りの目が気になりだし、距離を置くようになった。

お互いに思春期に入った事も距離を置いた要因である。

だが、そうなっても翔は陰ながらに瑠璃を護り続けてきた。

頭脳明晰、容姿端麗、教師と生徒からの人望もある瑠璃は、中学生の頃から変な人間も呼び寄せてしまっていた。

そんな変人らから瑠璃を守るべく、翔は日々精進し続け小さな事件を解決してきた。

その事を瑠璃が知らないのは、一重に翔の努力の賜物である。

瑠璃は自分の家系の事や、翔の家系の事を知らない。

瑠璃には年の離れた兄が居り、翔の姉が今も護衛を続けている。

徳川家では成人した時に家系の事と、服部家について知らされる決まりになっているため、高校生の瑠璃は有名な徳川家と同じ苗字と言うだけの、全く関係のない家系だと思っているのだ。

そのため、翔が現代を生きる忍であり、瑠璃を日々護衛していると言う事も瑠璃は知らない。

幼馴染であるにも関わらず、2人が学校では挨拶の1つもしないのは、翔がストーカー並みに瑠璃を把握している事が原因である。

しかし、それは瑠璃を護衛するために必要な事なのだが、事情を知らない瑠璃からすれば気持ち悪いの一言に尽きるのだ。

故に昨日、翔が瑠璃の自宅に庭仕事をしに入り込んでいた事を嫌悪したのである。

勿論、気持ち悪がられている事も翔は承知している。

だから、せめて学校では距離を保ち、遠目から瑠璃を見守るに留めているのだ。

昇降口に到着した瑠璃は同級生達に声を掛けられ、にこやかに挨拶を返している。

その姿を見て、翔は安堵して微笑んだ。

しかし、靴を入れる為に下駄箱の扉を開いた瑠璃の表情が変わったのを見て、翔の顔色も変わった。

瑠璃や周りの生徒達に気づかれないように、翔は瑠璃の動向を見守る。

すると瑠璃は下駄箱の中から、封筒に入った手紙を取り出した。

その光景から翔は察する。

あぁ、何だ。またラブレターか。

スマートフォンが普及している現代においても、ラブレターを手書きで送ると言う古典的な光景は未だに消える事はない。

そして、瑠璃もこれまでに幾度となくラブレターを受け取り、愛の告白を断ってきた。

もっと言えば、今の瑠璃には憧れの男の先輩が同じ部活内に居る為、告白を受ける理由もない。

そして、今回もこれまで通り、ラブレターを送った当人が振られる事で、解決するだろう。

そう。これまで通りのラブレターの内容だったならば…。

ため息を吐いた瑠璃は、早々に封筒の封を開け手紙の内容をその場で確認した。

すると、内容を確認した瑠璃の顔色が俄かに青く染まっていく。

異常を察知した翔は瑠璃の手元に届いた手紙の内容を確認するべく、行動を開始することにした。


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