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OH!庭番  作者: 唯一
10/10

10.御庭番、微笑む  【終幕】

その晩。

翔は瑠璃の父親…徳川分家の当主に呼び出され、徳川宅の庭で当主の前で膝を付いて言葉を待った。

「…翔。今回のお前の落ち度は、お前自身が一番よく分かっているな?」

「……はい」

「危うく、我が娘、瑠璃が手篭めにされる所だったのだぞ!!護衛である筈のお前が敵を見誤り、瑠璃を危険に晒すとは何たる事か…!!」

「申し訳もございません。厳重なる処罰を受ける覚悟は出来ております…!」

現代とは思えぬ会話を繰り広げる翔と徳川分家当主。

その間には明確な主従関係が存在し、翔は今回の失態の責を負い、罰せられても可笑しくない。

下僕が主人を危険に晒すなど、あってはならない事だからだ。

いや、それ以上に翔自身が己の失態を許せない。

だからこそ、厳重な処罰を望んでいる。

翔の気持ちがよく分かっているらしい当主は怒りで息を切らせながらも、粛々と話を進めた。

「勿論だ。お前には罰を受けて貰う…覚悟せよ…!」

「はっ!仰せのままに」

こうして、翔は当主の言うままの処罰を受ける事になる。

…尤も、あまり目立つ様な処罰は現代において受けさせられない。

特に高校生という身分から、翔が受ける処罰は翌日に支障を来さない程度に

抑えられる。

だが、70kg以上の重さがある石版を抱えて、一晩中、外で立たされていたら、十分にキツイ罰だ。

これでも翌日に支障を来さない程度だと認識されている事が、そもそも可笑しいのだが翔はこの罰を甘んじて受け入れた。

空に浮かぶ月を眺めながら瑠璃の身を案じ、翔は自宅の庭で一晩中石版を持ち続けた。

そして、翌日。

日が昇り、鳥たちが元気に飛び回る朝となった所で、父親から罰の時間が終わったと告げられ、翔は石版を地面に下ろした。

汗だくとなった翔は一番最初にシャワーを浴び、汗を流して朝食を取り、瑠璃の登校の時間が差し迫ったので、翔はいつも通りの時間に家を出発した。

一睡もせず翌日を迎えた翔だが、瑠璃の安否ばかりが気になって、それ所では無い。

徳川宅の近くに潜伏し、瑠璃が家から出てくるのを待つ。

数分して出てきた瑠璃の後を追う様に、各家の屋根を学校に向かいながら飛び移って行く。

登校する瑠璃の様子を伺いながら、周囲にも気を配り、翔は学校が近くなってくると地面に降り立つ。

ここまでは、昨日の朝までと何ら変わりない。

その事が翔を安堵させた。いつも通りの日常が戻ってきたのだと。

しかし、今朝は少し違った。

何と、瑠璃は校門前で立ち止まり、校名が記された看板の前に立ち、誰かを待つ素振りを見せたのである。

それを見た翔は、真っ先に小野田の事を思い浮かべた。

昨日、瑠璃が部室に行っていない事を知らせてくれたのは小野田だ。

そして、小野田は瑠璃にとっては憧れの先輩だ。

もしかしたら、瑠璃の両親が昨日の事を大まかに伝えて、何か思う所があったのかもしれない。

小野田に礼を言うつもりだろうか?

それは翔も考えていた。小野田が態々、翔を探して瑠璃が居ない事を伝えてくれなかったら、取り返しのつかない結果を招いていた。

多田を一方的に疑って犯人に仕立て上げ、鶴賀の悪事を見逃し瑠璃に一生消えない傷を残す所だったのだから…。

だが、事情を全て話すわけにはいかないため、翔なりにさり気なく小野田には礼を伝えるつもりであったのだが…瑠璃もそうなのだろうか?

そう思った翔は、瑠璃が校門前で待つ姿を校門の外から見守った。

次々と同級生や、下級生、上級生が校舎内に入って行くのを見送り、登校する生徒の数が減ってきたにも関わらず、瑠璃は校門前から動かなかった。

可笑しい。小野田は一体、いつになったら登校するんだ?

どうしたものか…。このままでは瑠璃が遅刻してしまう…。

時間を確認した翔は仕方なく、物陰から出て校門に向かって歩き出す。

すると、瑠璃と目が合った。

「あぁ!もう!翔!何をのんびり歩いてるのっ!遅刻するわよ!?」

開口一番、責められたにも関わらず翔は笑った。

いつも通りすぎる。昨日の事は一切合切、覚えてないのだろうか?

「いや…それは瑠璃もじゃん…。何で、こんなとこ居るの?小野田先輩待ち?」

「違うわよっ。私は翔を待ってたの」

「…へ?…俺?」

不満そうに伝えられた答えに、翔は素っ頓狂な声を上げる。

予想だにしてなかった事態に翔は疑問符を頭の周りに飛ばしまくった。

そうして呆然としていると、益々不満げにする瑠璃に手を取られて歩いて行く事になってしまった。

「ちょっ、ちょ、瑠璃サン?な、何で俺を待ってたの?」

「仕方ないでしょう?翔ったら、いつ登校してるか分からないんだもの!」

「いや、用事があるなら、メッセで聞いてくれれば良かったのに…」

翔の言葉を聞いて、瑠璃はぴたっと足を止めた。

「そっ、そういう方法があるなら、早くそう言いなさいよ!!」

「えぇ!?何!?超理不尽!」

尤もな事を言われた瑠璃は顔を真っ赤にさせて、理不尽な怒りを翔にぶつけた。

しかし、そもそも、その用事とは一体何なのか?

「…父さんから聞いたの…」

恥ずかしそうにしながら、目を逸らしつつ話す瑠璃を見て翔は真面目な顔をした。

昨日の事を聞いたのだろうか?

だとしたら、一体何処まで…。

「……何を?」

「~っ。居眠りした私を家まで送り届けてくれたんでしょう!?ありがとう!それだけよっ!」

当主から聞いた嘘の内容を恥ずかしそうにしながら言って、お礼まで言われた事に翔は驚きを隠せなかった。

何も言わない翔を怪訝に思った瑠璃は、更に言葉を重ねる。

「昨日は、クラスメイトと話してる間に、凄く眠くなっちゃって…そのまま眠っちゃったんでしょう?それで…翔が送り届けてくれたんじゃ無いの…?」

怪しむ様に話す瑠璃を見て、翔は我に返って話を合わせる事にした。

「あぁ、うん。どういたしまして。あ、そういえば、何か飲んでた見たいだけど、あれ何?」

さり気なく、瑠璃が何で眠ってしまったのか確認を取ろうとする翔。

瑠璃は唐突にも思える翔の質問を怪しむ様子もなく答えた。

「えーっと…ペカリスエットだったかな…?」

「あぁー、そうだったんだ。何?奢って貰ったの?」

「うん。私はお金出すって言ったんだけど、クラスメイトの男子たちが良いからって…」

「ふーん…」

”たち”と言う事は、その場に何人か男子が居たと言う事なのだろう。

放課後に複数人で集まって喋っている中で、鶴賀は大胆にも瑠璃に睡眠薬を盛ったのだ。

恐らく、鶴賀本人からスポーツドリンクを渡されたのだろう。

そして、それを飲んでしまった瑠璃は、急速に吸収された睡眠薬の効果で深い眠りに陥ってしまったのだ。

手口が悪質な事から、翔は鶴賀に対する怒りが再熱した。

いっその事、本当に股間を踏みつけて、使い物に出来なくしてやれば良かった…!

鶴賀に対する怒りを再熱させる翔の顔を、そっと瑠璃が両手で覆った。

「ん!?」

「翔?昨日の晩、ちゃんと寝たの?凄い隈よ!?」

じっと目元を見られているかと思いきや、瑠璃が凄い剣幕で問い質してきた。

一晩中、罰を受けていたなんて言えるはずもなく、困った翔は目を泳がせて態とらしく誤魔化す。

「ん~~~?そ、そう?隈なんて出来る筈無いんだけどなぁ!」

「誤魔化さない!寝てないのね!?何してたの!」

先程までのしおらしさは何処へ行ったのやら…。

瑠璃は翔の顔をがっちり掴んでお説教モードに入っている。

そろそろ授業が始まりそうな時間なのだが…。

「…え~…それ聞いちゃう?健全な男子高生に、それ聞いちゃう?」

「な、何してたの!?」

含みを持たせて言われた言葉を聞き、瑠璃は一瞬怖気付く様子を見せたが、負けじと再び翔を問い質した。

「いやぁ…俺の腕の中でぐっすり眠る、瑠璃の姿見てたら下着のローテーションを知ってる俺でも、こう……クルものが合ったって言うかね…?ムンムンしちゃったって言うか…」

照れ臭そうに言う翔を直視した瑠璃は、ワナワナと震え始めて翔から一歩後ずさりした。

そして。

「このっ…ばかっっ!!!心配して損した!!」

革製のバッグで思い切り翔の顔を叩いて、瑠璃は教室まで競歩して行ってしまった。

容赦のない攻撃に悶え苦しむ翔。

だが、翔はいつも通りの瑠璃の様子を見られて嬉しかった。

当主の説明のお陰で瑠璃の心には傷の1つも付いていない様だ。

鶴賀のストーカーも時期、鳴りを潜めるだろう。

そうでないなら、今度こそ本格的に潰すだけだ。

…そうだ。多田にも謝罪しなければ。

多少、噛み砕いて事情を説明し、瑠璃に対する行き過ぎたファン行動は慎む様に警告しておこう。

今度こそ、多田が瑠璃のストーカーに変貌しない様に。

こうして、現代の御庭番・翔の、瑠璃を護衛する日々を続く。

翔の苦労全てが報われないとしても、瑠璃が笑う日々を守るために、翔はその身を投げ出し奮闘するのだ。

瑠璃だけの御庭番として…ー



終幕


如何でしたでしょうか?

短編のつもりで書き始めたら、3万字近くの作品になりましたが結構楽しく書けました。

アクションシーンが手抜き感バリバリで申し訳なかったですが、そこはほら…Ninjaだから…。

俺じゃなくても見逃しちゃうねって事で…。


ともかく、最後までご拝読ありがとうございました!

メインで連載中の【101歳のおじいちゃんが異世界転生する話】もよろしくお願い致します!

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