第八話 とある水の日
今日は水の日、地球で言うところの火曜日である。
サスケの朝の授業である武術は杖術、ソーレルが教えるものとなる。
─ソーレルの杖術─
「それでは素振りから突き百本、払い百本始め。」
木製の杖を持ち、ソーレルの指導を挟みつつ素振りを行う。
「それでは形稽古からやるとするかの。先週教え多分形は覚えとるか。」
「はい、大体は。」
「よし、それならばやっていくのじゃ。間違っている点はその都度指摘していくこととしよう。忘れておっても今日は構わぬ。」
日本のある杖術の流派の考えでもある『突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀』の考えが基となっている形である。
その形を実戦に応用していくというのがソーレルの武術への考え方である。
「ふむ、こんなものじゃな。二回目の割には覚えておるの。とりあえず、今日はこれで良しとするかの。次は武技じゃな。今日はそうじゃな[刃杖]じゃな。それではまず見本じゃ。」
ソーレルはサスケから少し距離をとり、杖を構える。
「[刃杖]」
ソーレルは杖をもちかえ杖の細い方を正面に向かって振り抜く。すると杖から斬撃が飛ぶ。
[刃杖]というのは斬撃を飛ばす杖技である。この斬撃は本当に斬撃なわけではなく斬撃状の衝撃波というのが最も近い。
「これを覚えてもらう。まずは持ち替えた状態でやってみるのじゃ。」
「はい。」
杖を普段とは逆の向きに持ち構える。そして、杖技[刃杖]を放つ。
「さすがに武技にもなれたじゃろ。これぐらいならできるだろう。それでは持ち替えて即座に放つ練習をするのじゃ。」
ソーレルの指示に従い、持ち替えてから放つことを練習する。
「そのままでよいから聞くのじゃ。この機会に武技の互換性について説明しておく。」
サスケの練習を見ながらソーレルは説明を始める。
「武技は様々な武器に対応する形で種類があり、それをさらに流派によって増やし、極めていく。じゃが武器の使用方法は変わらん。その結果、武技の種類が似るのじゃ。例えば、剣技には[斬空]という斬撃を飛ばすものがあるがそれは今お主が練習している[刃杖]と効果は同じじゃ。このように基本的な武技ほど類似しているものが多い。覚えておくのじゃ。」
その後も[刃杖]の練習を授業の終了まで続けるのであった。
─地理─
「それでは今日も龍王国とその周辺国についてやって行きましょう。」
地理をサスケに教えることとなったのは、ソーレルの友人である地理学者の弟子の一人、レーメル・スメテリスである。
彼は師である地理学者から人に教えることで得られるものもあるということで派遣されてきたそうだ。
「それではまず、改めて立地の確認からしていきましょう。龍王国は北にエルレート大森林、東に魔族領、南に海、西にレンドリオ山脈があります。エルレート大森林にはエルフが住んでおり、当代の世界樹が確認されています。レンドリオ山脈には半人族の集落がいくつか確認されており、龍王国はその集落のいくつかと交流を持っています。そのさらに西には龍王国と現在、休戦状態にある虎牙帝国が存在しており、東にも交戦中の魔族領があるため龍王国は二面に対応する必要があります。」
サスケが転移したこの世界では魔族による国が建国されている。その国は現在世界各国に対しての宣戦布告を行い、転移門という魔導具を用いた奇襲作戦によって各国全てがそれなりの被害をだしている。龍王国は魔族の国との接している国の一つのため、東側は常時緊張状態となっている。
魔族の国はほとんど全ての国へと戦争をしかけているが国境が陸上でつながっているのは龍王国、エルレート大森林のエルフの国、そしてエルレート大森林の東にある獣人の国だけのため、その三国と海から以外攻めることができず、魔族による襲撃も転移門によるゲリラ攻撃のため防備を固める必要があるため世界の国々は動けないでいる。
「今日は龍王国についてまとめていきたいと思います。」
講義をしているこの部屋には黒板が用意されており、レーメルはそこの左上に龍王国と書く。
「龍王国は虎牙帝国から独立した国です。龍王国の王都はレンドリオ山脈よりこちら側の虎牙帝国の領土をまとめるために虎牙帝国が建設した都市を拡張していったものです。王都が4つの壁に囲われているのは当時二層構造だった都市を拡張したためです。」
レーメルは黒板に王都の図を書く。
「知っているかもしれませんが、王都は中央から行政区、貴族区、居住区、商業区と名付けられて建物もそれに従って建てられています。」
今度は黒板に龍王国の全体図を書く。
「王都は龍王国の中心よりやや東に位置しています。これは虎牙帝国が魔族領へと備える形で王都の元となった都市を建設したためと言われています。」
全体図の中心よりやや左の位置に二重丸を書く。
「次に城塞都市ファラン・レーロですね。この都市は虎牙帝国との戦争における最前線となります。レンドリオ山脈によって虎牙帝国との国境線は互いに侵入が難しくなっています。また、レンドリオ山脈に住む半人族との同盟関係によってほぼ山脈からの侵入は不可能です。そのため、ファラン・レーロは沿岸部に建設されました。」
レーメルは全体図の左下に丸を書く。
「ファラン・レーロには防衛の任があるため、通常の軍はもちろん沿岸部ということで海軍も常駐しています。ファラン・レーロから少し東に行った所には交易都市エク・レーロがあります。ここは主に海運関係の交易が盛んです。戦争時にはここに軍が留まり、糧食を集め貯めています。」
ファラン・レーロから少し右側に丸が追加される。
「もう一つ森人族との交易用に建設された交易都市があります。」
全体図の上部に丸を書く。
「ここは交易都市フォレス・レーロになります。森人族は過去に虎牙帝国によって迫害されてた歴史を持ち、龍王国建国当時に同盟を結び今日までその同盟は続いています。各都市の名前に入っているレーロというのは龍王国内において重要な都市につけられている称号のようなものです。建国当時から発展し続けたこの三つの都市に追い付けるような都市はありませんでしたが魔族との戦争に際してある一つの城塞都市が建設されました。」
黒板の全体図の王都よりさらに右側に丸が追加される。
「この都市はアロレス・レーロと名付けられ、対魔族戦線の最前線の都市となっています。それでは他の都市についても一応説明だけはしておきます。」
レーメルからの龍王国内の都市についての話が終わった所で調度講義は終わりの時間を迎えた。
─ソーレルの言語講座─
「前回は魔術文字についての話をした後、各文字の書き取りをしたのじゃったな。今回はこの世界の共通言語についてやっていくとする。
まず、この共通言語じゃが、これは現在より前の文明が広げたとされる。人族はほとんどの場所でこの言語が使われておる。他の種族は種族言語を持っている種族が多いがこの言語は通じると考えて良い。」
ソーレルはそこで話を区切り、黒板に一つの魔術文字ともう一つ文字を書く。
「共通言語の文字は魔術文字を崩したものじゃ。例えばこの文字についてみてみると魔術文字から変化していったことがわかるじゃろ。共通言語の文字数は魔術文字と一緒で、数字を含めて35文字じゃ。今日は共通文字の書き取りをしてもらう。」
ソーレルはサスケに紙と羽ペン、インク壺を渡す。
「一文字につき十回書いていくのじゃ。一応チェックをするつもりじゃから五文字ずつ見せに来るのじゃ。」
ソーレルに間違いを指摘され、そこをまた十回書き取るということを挟みながら三十五文字の書き取りが終わる。
「少し早いが終わることとする。次回からは単語と文法をやっていくつもりじゃ。」